村田沙耶香『コンビニ人間』
あらすじ
主人公の古倉恵子は36歳の独身。大学を卒業しても定職には就かず、大学生で始めたコンビニアルバイトを18年続けています。
幼い頃から”普通”とズレていた彼女は、死んでいる小鳥を見て悲しむ友達や母親に「焼いて食べよう」と言うなどして、周囲から異端児扱いされてきました。しかし、コンビニで働き始めたことで恵子は周囲の人たちの真似をして、普通の人らしく振る舞う方法を身につけます。そして、ようやく世界の一部になれたと感じるようになります。
ある日、白羽という男が新しいアルバイトとして加入。女性客へのストーカー行為やサボり癖が目立ち、早々にクビになってしまいますが、白羽が現れたことによって、恵子も異物として排除されようとしていました。
ポイント
第155回芥川賞受賞作。
誰もが日常的に利用しながらも「コンビニでいっか」といった妥協や諦念の存在も否めない、便利で現代的なコンビニをテーマにした作品。
不気味さの影を終始引きずりながら、1人の人間がアイデンティティを確立する希望のようなものも感じられる物語です。純文学のなかでは起承転結がしっかりしており、読みやすいのも特徴的。
本文中に「普通の人間っていうのはね、普通じゃない人間を裁判するのが趣味なんですよ。」という一文がある通り、普通とは何かを問いかけられているような感覚がありますよ。
村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』
あらすじ
舞台は『羊をめぐる冒険』から4年後の1983年。主人公の”僕”は友人を失い絶望しながらも、フリーランスのライターとして社会復帰を果たし、意味のなさそうな仕事をこなす毎日を過ごしていました。かつて利用した、いるかホテルに戻った”僕”は、羊男と再会します。そこで”僕”は現実と結び付いていないことを告げられます。”僕”が再び現実と結び付くには音楽が続く限り、とびっきり上手く踊ることが必要だと知り、物語が展開されていきます。
ポイント
本作はデビュー作『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』とあわせて初期四部作と言われており、その完結編にあたるのが『ダンス・ダンス・ダンス』です。
抑揚がありリズミカルでスッと流れるような文体と、ファンタジー性がクセになりますね。
村上春樹はRadioheadが好きで『海辺のカフカ』では主人公がRadioheadの『Kid A』を聴くシーンもあり、トムヨークも村上春樹を愛読しています。
現在はユニクロとコラボしており、様々なデザインのTシャツが販売されています。(2021年4月現在)
太宰治『人間失格』
あらすじ
主人公の葉蔵には人間の営みが理解できません。人と関わることを恐れており、本当の自分を押し殺して道化を演じることを身に付けます。
道化を演じている時は、他者とも問題なく関わり合うことができ、葉蔵自身も周囲から面白い子どもとして受け入れられました。
しかし中学に上がった頃から、周囲の人間は自分の道化に気付いているのではないかと疑惑に陥り、オドオドしながら日々を過ごすようになっていきます。
葉蔵はその恐怖から抜け出すために、酒と煙草、女、薬に溺れていきました。精神が不安定になり、やがて心中未遂や自殺未遂を幾度となく図るようになります。
ポイント
太宰治が最後に書いたとされる小説。脱稿からわずか1か月後、愛人と入水自殺をしてしまいました。
あくまでフィクションですが、太宰の経歴と重なる部分も多く、読んでいくうちにただの創作物とは思えなくなりシリアスな気持ちになっていきます。
破滅への導き方が美しく、泥濘みに嵌り、もがけばもがくほど沈んでいくような感覚になります。展開は悪化していく一方なのに目が離せなくなっていき、エヴァンゲリオンを彷彿とするような”エクストリーム感”を楽しめますよ。
梶井基次郎『檸檬』
あらすじ
主人公の”私”は、えたいの知れない不吉な塊に心を押さえつけられていました。その原因は肺尖カタル(結核の初期症状)や神経衰弱、借金のせいでもなく、その不吉な塊だと”私”は考えます。
好きな音楽や詩でも癒せず、通っていた文具書店の丸善も借金取りに追われている”私”にとって重苦しい場所に変ってしまいました。
友人の下宿を転々としながら、ある朝”私”は京都の裏通りをさまよい歩くことにします。
そして果物屋で足を止めると、当時は珍しかった”私”の好きなレモンがありました。
それを買い、握ると、”私”の心を押さえつけていた不吉な塊がいくらかゆるむことが分かります。
ポイント
目にも鮮やかな黄色い表紙がパッと目を引く、短編小説であり、梶井基次郎の代表的作品である小説。
三島由紀夫は『檸檬』について「一個のレモンが読者の眼の前に放り出されたような、鮮やかな感覚的印象をもって終わる作品」と述べ、日本における短編の最高作品と評価しました。
梶井自身が結核に侵され、31歳の若さでこの世を去ったことから、梶井の作品には『檸檬』以外でも肺病の主人公が多く存在しています。
SHARE
Written by