2017年2月12日、Shibuya Milkywayにてハグレヤギのラストライブが行われた。
先に言ってしまうが、兎に角『何か』が伝わってくるとしかいいようの無い、美しい迫力に満ちたライブだった。
その『何か』がどういうものなのか、一言で説明するのは難しい。それは一つのロックバンドの終わりを目の当たりにする、その“散り際”にだけ存在する刹那的な美しさであったようにも思える。
アンコールから終演後にかけてのDr. 小杉侑以の姿が印象に残っている。アンコール前、Vo. 山脇紘資がMCをしている間、彼女はずっと両手を顔の前に当てて涙をこらえ、最後の二曲『うつくしいひと』と『海がくる』を演奏した。終演後の彼らの楽屋の方角からは、堰を切ったように泣く彼女の声が聞こえてきた。
それでいて、やっぱり泥臭さと高潔さが同居したドリーミーで切ないサウンドは、「解散」という言葉を持ち出さずとも人を魅了する「何か」を持っている。
親しみやすく、メロディアスでガレージロックやシューゲイザーの影響を感じさせる上質なロックを奏でるハグレヤギ。
「一バンドの通過点が解散。皆、そうだと思うけど悲観していない」とMCで語った山脇紘資。ラストライブの後も、CDや配信音源、MVやライブ映像、そして何より「記憶」が後に残る。
ミーティアでは全天球映像作家・渡邊課の協力の下、ハグレヤギのラストライブの様子の一部をVRにて撮影した。ライブレポートと合わせて、お楽しみいただきたい。
Text_Arato Kuju
撮影:渡部友貴(トベトモタカ)
ハグレヤギ、最後のライブ
開演時刻が近付く会場内は、二十代から三十代前後の男女で混み合い、この日用意されたオリジナルのカクテル『海がくる』を口に運ぶ人の姿も見えた。
十九時を回り、ステージに登場した四人。メンバーが揃って、オーディエンスの前に姿を見せるのは解散発表後初のことだった。
ラストライブの一曲目として選ばれたのは、『手賀沼に生きる』。2010年のミニアルバム『美しい人』の収録曲だ。
「日本で二番目に汚い沼」であるという手賀沼。四年間の浪人生活の経験を持つ山脇は十八歳から二十二歳という多感な時期を、手賀沼で絵を描き、詩を書いて過ごしたという。
『ハイホー 笑いあえれば ハイホー 幸せだと言う ハイホー 簡単な話 ハイホー 僕らは誰だ?』
という印象的なサビのフレーズを歌い上げる山脇の目には涙が浮かんでいた。続けて『おいぼれ鬼』、『きっとうるさい』を披露。「今日は解散ライブに来てくれてありがとう。相変わらず、皆おしとやかで僕は大好きです」と山脇がステージから語りかけると、オーディエンスの間からは歓声と笑い声があがった。
「おしとやか」な客を焚き付けるように、The Pop GroupやPublic Image Ltdばりのポスト・パンク的なリフが印象的な『ピクニック』、ドラムの展開が特徴的な『ローマ』を立て続けに演奏するとフロアの温度がぐっと熱を増す。
『このまま僕らは消えてもいいでしょ いいでしょ 僕らはここから消えればいいでしょ』
という『デンデラノ』の歌い出しを耳にすると、会場の空気は再び一変。一曲を通じて繰り返し何度も何度も「消える」ことに言及しながら、バックの展開は激しく移り変わる独特な楽曲だ。
後半にいけばいくほど、展開は一層激しさを増していく。四人のメンバーの姿は楽曲を演奏しながらも、同時に楽器を殴りつけるかのようにして一音一音にほとばしる感情をぶつけているように見えた。
いまの俺らのリアル
『フューチャー!』、『ルル』、『秘密のビーチ』といった人気曲を立て続けに演奏した後、「ハグレヤギでライブするのは一年半ぶり」と、この日のライブについて語り始めた山脇。
「正直、ギクシャクしている」と冗談交じりに語りつつも、その姿こそが「いまの俺らのリアル」と述べた。
「最後だから、誠心誠意(のライブ)を見せ」ることを観客に約束し、「十九歳か二十歳の頃に作った曲。中二っぽいけど、嘘のない曲」だと前置きして、未発表曲の『とかげ』を披露した。
①「とかげ(bedroom ver.)」2004年(未発表)
ハグレヤギがハグレヤギになるずっと前のテイク
切実なリアリティがあります
家に篭もって一気に歌詞を書き上げました
あの頃は常に何かを求めていたような気がします(山脇)https://t.co/6LjFlr7GyL— ハグレヤギ (@hagureyagi) 2017年1月25日
②「とかげ(band ver.)」2009年(未発表)
ハグレヤギを結成して初めて録ったデモです
宅録と違ってドラムが生になり、全体的にスピード感が出ています
相変わらず最後の”僕は、僕は!!”のくだりは聞いていてつらいです(山脇)https://t.co/YKCVb5WOeF— ハグレヤギ (@hagureyagi) 2017年1月28日
「今日はありがとう。最後に僕らの代表曲をやりたいと思います」と述べ、四人が本編最後の曲として演奏したのは『アパート』。
筆者の隣に立っていた女性客の方はメンバーの姿を見つめながら、曲を聴き顔をグシャグシャにしてずっと泣き続けていた。
アンコールでは『うつくしいひと』、『海がくる』の二曲が披露された。
「ほんといつもありがとうございました。(『海がくる』は)ハグレヤギを一番体現している曲だと思います。人間の一番大事なものは“タマ”だと思います。目玉、金玉、魂。全部“タマ”です」と語った山脇。
「(自分のタマに)俺は誇りを持っています。そうやって生きてください」と力強く、観客に語りかけ『海がくる』を歌い上げた。
これからもメンバーそれぞれの形で音楽を続けるという、ハグレヤギの四人。
バンドがなくなったとしても、残された音源や映像を通じてその音楽を楽しむことは出来る。ハグレヤギの音楽がリアルタイムのファンにとっても、後から彼らを知った方にとっても大事なものであり続けることを願っている。
ハグレヤギ ラストライブ セットリスト
1.手賀沼に生きる
2.おいぼれ鬼
3.きっとうるさい
4.ピクニック
5.ローマ
6.デンデラノ
7.サーカスが終わる
8.透明人間
9.goo
10.フューチャー!
11.ルル
12.秘密のビーチ
13.オーライフ
14.とかげ
15.バケイション
16.アパート
En1.うつくしいひと
En2.海がくる
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