真夜中の苗場にて。僕らはキャンプ地を求めて彷徨った。
フジロックの会場に到着したのは、前夜祭もそこそこに落ち着きを見せていた7月28日の午前3時。ステージへのアクセスが便利な場所は既に歴戦のフジロッカーたちで埋まっていて、僕らは安寧の地を求めて彷徨うことに。先に到着していた知り合いに、「あそこはまだ空いてるんじゃないかな…」と言われ辿り着いた先は、恐ろしいほどの急勾配がある奥地でした。
男三人、この段階でヘロヘロです。テントを張り、寝る準備が整った頃には、空が少し明るくなっていました。
レッドマーキーで出会ったアメリカ人。DATSが繫いでくれた一期一会。
翌朝、時差ボケにも似た疲労感(どうやら僕は地面が変わると眠れなくなるタイプらしい)を抱えつつレッドマーキーへ。クラブ・ミュージック好きとしては、やっぱり一発目にDATSを観たい。
DATS – Mobile
倉庫みたいな雰囲気がアングラっぽくて好きなんですよね。このステージ。実際、レッドマーキーのラインナップは渋いです。今回はDATSの他にエデンやSampha、ザ・レモン・ツイッグスなどが出演しておりました。
そんなレッドマーキー。集まってくる人は、やっぱり十中八九音楽オタクなわけです。世間では「インディー・ロックは死んだ」なんて言われてるけれど、彼らは脇目も振らずにレコ屋の棚を漁ります。その精神に国境はない。
DATSのライブ開演前に出会ったのは、アメリカから来た大学生でした。イケメンです。若かりし頃のジョシュ・ハートネットみたいなルックス。何度か目が合うものの、お互い会話の糸口を見つけられず、僕らの間には少々気まずい雰囲気が流れていました。
しかし、ですよ。外国人が多いとは言え(今年は特に多かったような気がします)、ここは日本。ホームに居る僕がもてなさずどうするのか。思い立った僕は、人見知りながら意を決しました。
「この曲(待ちのBGM)歌ってるのって誰だっけ?さっきから思い出せそうで思い出せないんだ(本当は覚えてる)」
「今流れてる曲?コートニー・バーネットじゃない?」
Courtney Barnett – 『Pedestrian At Best』
待ちのBGMの答えさえも一瞬で返ってくるフジロック。音楽好きの世界選抜か。
「僕実は日本のミュージシャンのことあまり知らないんだけど、よかったら教えてくれないかな?今から出てくるアーティストはどんな音楽やってるの?」
「ディスクロージャーが好きなら間違いないよ。DATSって言うんだけど、今日本でブレイクしつつあるバンドなんだ」
「マジか。ディスクロージャーは大好きだよ」
こんなやり取りがあって、DATSのライブへ。
結論から言うと、めちゃくちゃウケてた。「本当に良いチョイスだったよ!確かにディスクロージャーっぽいね!」と言ってはしゃぐ姿に、嬉しくなりました。
「次は何を見るべきかな?君のオススメのバンドを見に行くよ!」なんて言ってくれるものですから、こちらも嬉々として答えます。
「普段何を聴くの?ダンス・ミュージックが好きならこのままここに残った方が良いね(DATSの次はDE DE MOUSE)。ピンク・フロイドが好きなら、少し遠いけど原始神母を観に行くといいよ」
「うーん、あまりプログレは聴かないんだけど、迷うなぁ。…ここに残ってみようかな。ありがとう!会えてよかった」
僕らは急いでいたので、挨拶も早々にその場を立ち去らねばなりませんでした。名前ぐらい聞いておけばよかったなぁ。そういえば普段聴く音楽についての答えももらってないや。
多分もう二度と会えないだろうけど、ここはそんな刹那的な出会いで溢れています。
山と川とフェス飯と。
フジロックはとにかく歩きます。レッドマーキーからフィールド・オブ・ヘブンまでの道のりは、ちょっとした遠足です。山を越え、川を渡り、砂利道で靴を痛め、運が悪ければホワイト・ステージの混雑に巻き込まれる。
つまり、尋常じゃないぐらいカロリーを消費するわけです。お昼時だったりするとお腹も空くし、気分はさながら砂漠の行商人。そんなときに道の脇に立ち並ぶ店々を無視できるはずもなく、僕らはフラフラと良い香りのする方へ吸い寄せられるのでした。
かさむ食費。そして片手にはビール。フェスで食べるご飯って、なんでこんなに美味しいんでしょうね。フジロックに出店するお店は、運営の厳正なる審査を受けておりますが、それを踏まえても飯が旨い。かさんだ食費も成仏してくれるってもんです。
3日間降り続けたフジロックの雨
フジロックと言えば、やはり雨です。僕は今回が4回目ですが、過去の3回も全て雨に見舞われています。どの回も容赦なく体力を削ってきましたが、今回は飛び抜けてハードでした。読めぬゲリラ豪雨。
レッドマーキー近辺にて。立ち止まってはいけないところで雨宿りしてしまったのですが(後で知った)、あまりに凄まじい雨だったので警備員のかたが見ないフリをしてくれていたようです。
あれ、なんだかフジロックで苦労した話ばかり書いている気がする。実際、すごい大変なんですよ。それでも、そこで流れる音楽を愛さずにはいられない。その時々で「もうムリだ!今日は帰ろう!」なんて思うのだけれど、近くで良い音楽が鳴っていれば否応なく聴き入ってしまう。
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