時効警察はじめました
そもそも、私自身がのめり込むようにドラマが好きになり、生活の一環としてドラマを視聴するようになった背景はこの作品だった。始めのシリーズ「時効警察」がオンエアされたのは2006年のこと。たまたま両親とともに見た映画「メゾン・ド・ヒミコ」に出演していたオダギリジョーがこの連続ドラマで主演を務めることを知った当時の幼い私は、眠たい目をこすりながらオンタイムで視聴していた。その翌年、「帰ってきた時効警察」も同様に、一人で黙々と、実家のリビングで母と並んでオンタイムで見ていたのを覚えている。放送終了後、母におねだりをして両作品のDVD-BOXとサントラCDを買ってもらい、実家には「誰にも言いませんよカード」が全種類揃っているというくらいなコアファンの私なのだが、この作品に出会ったことで、その後、こうして考察コラムを書くなんて予想もしていなかったので、今でも驚いている。
先に述べた2シーズンは、公式サイトでの情報発信が中心で、新聞・テレビ・雑誌などでは小さく番組詳細が掲載されていただけだった。にも関わらず、その実験的な演出や大胆な構成により、多くの人々の心を鷲掴みにしていった。今ほど深夜ドラマが注目されていなかった時代に、平均視聴率は10%。その数字からも、ドラマ史上類を見ない革新的な作品であったことはよく分かるはずだ。
あれから13年。当たり前のようにTwitterやinstagramなどのSNSを活用して告知をする時代になった。実際に、今年奇跡の復活を遂げた「時効警察はじめました」は、ドラマの放送の情報解禁とともに公式SNSを活発化させ、既存のファンへのアプローチも積極的に行った。歴代の愛されてきたキャラクターたちをはじめ、セット細部の写真、ゲスト陣の劇中写真、そして「そーぶさん」の語り口調で呟かれるツイート内容など。その全てがファン心理をくすぶりつづけた。
今回はパラパラ漫画にしてみました。#時効警察はじめました pic.twitter.com/NXjI9RKFvf
— 【公式】時効警察はじめました 毎週(金)よる11:15~ (@jikou2019) October 19, 2019
そーぶさんでそーぶ。
このあとすぐ、放送がはじまるそーぶ!
僕は1時間前から、テレビの前にスタンバイしてるそーぶ。すでに、日本のトレンドに『時効警察』が入っていてびっくりだそーぶ。 #時効警察復活SP のタグも、よかったら使ってほしいそーぶ!
そわそわするそーぶ…! pic.twitter.com/FsL8GWbgt9
— 【公式】時効警察はじめました 毎週(金)よる11:15~ (@jikou2019) September 29, 2019
ドラマ放送開始前より、各種動画配信サービスにて前2シリーズの全話が配信スタート。こちらも合わせて、今作とともに視聴する時間もまた至福ではないでしょうか。
時効警察といえば、先に挙げた物のようにドラマを通して同じ監督・脚本を担当することはしないのが特徴。回によって、監督・脚本が変わることで「時効警察」の主要メンバーたちの雰囲気やキャラクターの色が変わっていくのでどの回も見逃せない。これは、2006年に放送されていた初めのシリーズの頃から変わっておらず受け継がれてきたことだ。
前2シリーズでは、メイン監督を務めた三木聡以外に、『愛のむきだし』『地獄でなぜ悪い』『冷たい熱帯魚』などの作品で知られる園子温、劇団「ナイロン100℃」主宰でもあり、映画『グミ・チョコレート・パイン』の監督・脚本も務めていたケラリーノ・サンドロヴィッチ、また、自身も霧山の所属する「時効管理課」の課長として出演していた岩松了などが監督・脚本を務めてきた。ちなみに、主演のオダギリジョーが監督を務めた伝説の回もあるので、こちらも合わせて視聴ください(オダギリジョー自身の顔が線対称、と言われていたこともあり、それをテーマにした内容、かつ、自由奔放に演技する麻生久美子を観られる貴重な内容です)。
また、時効警察のドラマが復活したことで話題になったのは、そのキャスティングだけではなかった。今回のシリーズで、どのような監督・脚本によって、時効警察の魅力をテレビ氷河期に照らすことができるか、そこに注目が集まったことは間違いないだろう。今回、メイン監督三木聡以外のメンバーは刷新。映画『勝手にふるえてろ』で各映画会より話題を呼んだ大九明子、アンコール上映も各地で行われていた『愛がなんだ』が大きな話題となった今泉力哉、そして、『今日から俺は!』が大きな話題となった福田雄一らが脚本として参加。また、監督陣には、気鋭のCMクリエイターとしての活躍する中で『おじいちゃん、死んじゃったって。』で長編映画監督デビューを果たした森ガキ侑大も参加。このメンバーには、「時効警察」へシンプルな愛情を注いで臨んでいた共通点がある。物作りをする立場や従事していく立場として、リスペクトがない限り届けられないだろう。彼らは、当時の「時効警察」の持つ世界観や哲学から、多くのエッセンスを摂取し、作品を輩出してきたのである。映画やドラマに関して、その主演を務めるメンバーなどにどうしても視点をおきがちなのだが、関わるスタッフ陣が心より作品を愛し、出演陣たちとともに役作りや作品作りに務める、「ものづくりのプロフェッショナル」っぷりに、一視聴者とはいえども、習うことの多い作品だった。
また、劇中のセットやセリフ、小道具など、ありとあらゆるところに小ネタが仕込まれていることや、登場人物のアイデンティティを示した嗜好にも注目したい。たとえば、前2シリーズにて霧山の部屋は「とにかくものがない」部屋、三日月の部屋は「グリーンで統一されたものの多い」部屋として作られていた。今作においても、その特徴は踏襲されており、細かなセットやアパート名にまでこめられた小ネタは今作も健在であった。その上で、総武警察のメンバーが着用している制服やトレンチコート、スーツなどの衣装にも微妙なニュアンスの違いが生まれていたことや、霧山の衣装テーマが変わったことも、ファンの中で大きな話題となった。
随所に隠された小ネタひとつずつについては、ドラマを通して、個人の視点によってときめいて欲しいと思っているので詳細については控えるが、個人的には、「カンガルーのボクシング」が要所要所で出てくるところが、ツボでした。
また、霧山・三日月の二人のみならず、歳月を重ねたが故の変化に、サネイエ(江口のりこ)の結婚・妊娠や、新キャラクターとして、彩雲真空(吉岡里帆)や、又来康友(磯村勇斗)といった新これまでシリーズを支えてきたキャストに加えられたことは、このシリーズ自体がどれほどの人たちに夢を与え、糧になってきたかを表している気がする。前2シリーズを支えてきた出演陣が欠けることなく同じ役柄でこのドラマを努めたことは、簡単に実現することではない。現に、何度も復活する話はドラマプロデューサーからも提案があったことも各インタビューにて語られている。それでも幾度も年月を経て、ドラマ氷河期の2019年、快諾のもと実現したのは、震撼させるものであったに違いない。
また、今作が放送されるにあたり並行して話題になったのは、主題歌に椎名林檎の「公然の秘密」が書き下ろしされたこと。椎名林檎といえば、今年、アルバム『三毒史』をリリースし、キャリア史上初のベストアルバムをリリースしたことも大きな話題になった。
『ニュートンの林檎 〜初めてのベスト盤〜』に収録もされた本曲であったが、合わせて、宇多田ヒカルとのデュエット曲「浪漫と算盤 (LDN ver.)」も合わせて収録されたことで、これまでベスト盤に対する固定概念を打破したことは間違いないだろう。なお、すべての楽曲は、これまでほとんどレコーディング・エンジニアを担当してきた井上雨迩がミックスを全編アップデートしたリニューアル音源となっていたことも話題となった。「公然の秘密」歌詞内で描かれている内容は、三日月が霧山に寄せている「秘めたる恋心」だ。歌詞に描かれている「シナモン」に匂わせた内容は、「時効警察・復活スペシャル」にその秘密が隠されているのだが、このシリーズは三日月が寄せる霧山への恋心が描かれている。思いを伝えてしまったら趣味の捜査にも付き合えないかもしれない。ましてや、彩雲(吉岡里帆)とともに捜査をすることとなる今シーズンでは、霧山と彩雲の距離が近づいていることにちょっとしたやきもちを妬いているシーンも存在している。女性の細やかな心理描写を巧みに書き上げ、人生のアンセムとして数多くの楽曲を産み落としてきた椎名林檎だからこそ、ドラマが持つゆるい空気感の中に秘められた三日月の恋心へメソッドを乗せられたのではないだろうか。
椎名林檎自身も、インタビューにて、
「三日月さん(麻生久美子が演じる総武署・交通課課長補佐)に歌ってもらえませんか?」と5回ぐらい時間を置いて言ってもらったんですが。歌メロもそれを想定していつもより平易なタッチで書いたのに。叶えられず。やっぱり今でもお聴きしたいです。
引用:音楽ナタリー
と語っている。
三木聡と椎名林檎が同一作品にて共演したのは、「熱海の捜査官」(2010年)以来のこと。(その当時は、東京事変として活動中)時を経て、互いに活躍するフィールドは違えども、表現者として共鳴するところがあるのだろう。表現者としての髄を理解し合い、尊敬の念一つで多くの人を感動させる。それは、音楽だけで成せることではないだろう。ドラマの持つ世界観に対する最大のリスペクトを込めた椎名林檎からのギフトのように思える一曲ではないだろうか。
「時効警察はじめました」は、動画配信サービス「AbemaTV」にて、全話配信中。
本放送が始まる前に放送されていた「時効警察・復活スペシャル」は有料オンデマンドサービス「テレ朝動画」などで視聴できる。「時効警察・復活スペシャル」では、霧山とともに時効管理課メンバーとして出演していた真加出(早織)がカメオ出演しているのだが、この回を観ないことには、今シリーズの「時効警察はじめました」は語れない。13年の時を経て、霧山と三日月の人生にどのような変化があり、霧山はまた時効になった事件を「趣味」で捜査することとなったのか。その経緯もわかりやすいかと思うので、こちらも一緒に視聴するのがおすすめです。
<時効警察はじめました>
動画配信サービス「AbemaTV」にて、全話配信中
<時効警察>
動画配信サービス「Amazon prime video」にて、全話配信中
動画配信サービス「hulu」にて、全話配信中
<帰ってきた時効警察>
動画配信サービス「Amazon prime video」にて、全話配信中
動画配信サービス「hulu」にて、全話配信中
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