ドノヴァン・フランケンレイターとブルーノートの夜
7月4日の夜、ドノヴァン・フランケンレイターのライブを観にブルーノート東京へ。当日は雨脚が強かったのですが、会場がある青山一丁目ではそれすらも趣深い景観に見えました。滅多に青山のほうには来ない(来られない)筆者の目には、街全体がどこかテーマパークのように映っているのかもしれません。表参道の奥へ入って行けば行くほど、自分が大人になってゆくような気がします。
サウンドトラックは、ドノヴァンが以前ミーティアのミックステープ企画で選んでくれた、「雨」の音楽。
シャーデーの『Lovers Rock』やトム・ウェイツの『Picture in a Frame』など、雨の日をメロウに彩ってくれる楽曲たち。青山の街にピタリとはまる、スムースでお洒落なセレクトです。体にまとわりつくような雨も、この日ばかりは気持ちが良い。
人通りもそれほど多くなかったので、ややスキップ気味にブルーノートまで向かいました。
全方位にラグジュアリーなブルーノート東京
以前は大学の先生(アメリカ人)に連れられてブルーノート東京へ来た筆者。つまり一人で入るのは今回が初めてなわけでして、容赦のない格式の高さに半ば戦々恐々としておりました。けれども、筆者ももう25歳。そろそろ大人の階段を登らねばなりません。「俺はジョージ・クルーニー」と心の中で100回ほど唱えてから席に着きました。
まずはドリンク。ブルーノートは、その日出演するアーティストにちなんだオリジナルカクテルを作ってくれるのですが、これが毎回素晴らしい。今回のドノヴァン・フランケンレイターにインスパイアされたカクテルがコチラ。
キャプテンモルガン(ラム酒)をベースに、メロン、りんご、ココナッツの味わいが楽しめます。「味の好みは人それぞれ」という前置きを許さないほどの、圧倒的クオリティ。キャプテンモルガンとフルーツの香りが絡み合い、トロピカルで爽やかなフレーバーが強く印象に残っています。見た目も妖艶。まぁ、二杯目以降はハイネケンになるわけですが、あまり舌の肥えていない若輩者にとっては会心の一撃でしたね。カクテルがこれほど創造性に富んだ飲み物だとは知らなかったです。
渋さと瑞々しさが同居する男、ドノヴァン・フランケンレイター
ライブは定刻通りに始まりました。編成はドノヴァン・フランケンレイター(ギター)、マット・グランディ(ベース)、ジェロルド・ハリス(ドラムス)の3人。ドノヴァンは何度も日本に来ていますが、ブルーノート東京での公演はこれが初めて。これまでのブルーノートのイメージを考えると、確かに異色な組み合わせだったかもしれません。
1曲目は『Wondering Where The Lions Are』。オリジナルはブルース・コバーンです。本来はブルース色の強いナンバーですが、ドノヴァンが歌うとまた違った表情を見せますね。サーフ・ロック独特のアコースティックな質感と、しゃがれた歌声。のっけから彼らしさが全開です。
バンドのメンバーであるマット・グランディとジェロルド・ハリスも凄腕で、時間を経るごとに本領を露わにしてゆきました。
『Free』では各々楽器を持ち替え、マットはギターとベースが一緒になったダブルネックを手に取ります。ジェロルドのドラミングは万能そのもの。シンプルなビートも叩けるし、ブラシを使ったジャジーな展開も上手いです。そこへドノヴァンの渋く瑞々しいヴォーカルが加わります。
Donavon Frankenreiter – 『Free』
筆者が最後にドノヴァンのライブを観たのは2014年のGREENROOMでしたから、『ザ・ハート』(2015)に収録されている楽曲を生で聴いたことがなかったのです。
同作がリリースされた当時、駅からウチまでの帰り道にいつも聴いていた『Big Wave』。ライブバージョンも素晴らしかった。原曲の抜け感に加え、ライブだからこそ表出するドラマ性。イヤホンを装着するだけでは気付けない良さって、やっぱりありますね。ドノヴァンは改めてそれを教えてくれました。
Donavon Frankenreiter – 『Big Wave』
『Move By Yourself』の頃になると、会場中からドノヴァンに対する賛辞の声が上がります。しかもブルーノートはアーティストとの距離が物理的に近いので、カジュアルにコミュニケーションが取れるのです。その特性が、気さくなドノヴァンとは相性が良かった。「I love you!」というオーディエンスの声に対し、「『I love you』って日本語で何て言うの?」とフランクに応えようとしていました。
Donavon Frankenreiter – 『Move By Yourself』
同じような光景は下北のライブハウスや渋谷のクラブでも見受けられますが、それらとは明らかに種類の違う雰囲気が漂っていたのです。同じく双方向性の高いコミュニケーションではありますが、そのトーンが違う。落ち着いているけれども、しっかり愛を感じると言いますか。まだまだその域に達していない筆者は、素直に羨ましく思いました。
最たる例は、アンコールの『It Don’t Matter』。この日一番のシンガロングが巻き起こります。アンコールの定番ではありますが、今回が今まで聴いた中で一番美しいコーラスだったように思います。「良いライブ」の定義は様々でしょうけれど、そこには少なからずオーディエンスの存在が作用していると思います。その点、この日のブルーノートは理想的でした。ステージと客席の絶妙な関係。
今でも、この日の『It Don’t Matter』は耳に残っています。
Donavon Frankenreiter – 『It Don’t Matter』
ストリートとアッパークラスの狭間で…
ジャズがポップ・ミュージック、すなわちストリートでも市民権を得て以降、その周りにあるコンテンツやフォーマットも変革を迫られています。今年3年目を迎える『Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN』は、今やジャズファン以外にも受け入れられておりますね。今年はヘッドライナーのドナルド・フェイゲンを筆頭に、カマシ・ワシントンやムーンチャイルドなども出演しますから、ますます門戸は広がってゆくでしょう。
Blue Note JAZZ FESTIVAL 2017 trailer 4
けれども、やはりブルーノートには「憧れ」であって欲しいと思います。他のライブハウスでもドノヴァン・フランケンレイターやカマシ・ワシントンらの音楽は楽しめますが、このハコはそれらとはまた違った楽しみ方を提供してくれる。そう考えたとき、僕らの世代もブルーノートで観たいアーティストはたくさんいるはずです。
一昔前に比べると音楽にお金を落とす機会はぐっと減ってしまった昨今、「ハードルを下げない」ことにも大変な労力が必要です。その点では、ブルーノートのような存在は、インディーズのバンドとはまた違った意味で「尖っている」と言えるでしょう。楽しみ方の多様性を担保する上で、「格式の高さ」というのも間違いなく必要です。最高のホスピタリティと良い音楽。筆者の同年代にこそ、ぜひ堪能してほしいですね。
Photography_Tsuneo Koga
Text_Yuki Kawasaki
■ドノヴァン・フランケンレイター 来日公演
日時: 2017年7月4日
場所: ブルーノート東京
<アーティスト公式サイト>
http://donavon.syncl.jp/
http://www.donavonf.com/
DONAVON FRANKENREITER (7.4 tue.)
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