「食欲」とは生まれた瞬間から目覚める、根源的かつもっともやっかいな煩悩だと思う。だからこそ、ラップでリリックを紡いだら最高かも…と、気づいてしまったのが「DJみそしるとMCごはん」。最初は苦手だったお料理も、作り続けていればいつの間にか達人になれる。最初はほんの遊び心で始めたラップだって、いつの間にか本当のラッパーになれる。彼女の真価は、そういう進化の賜物だ。
黎明期:卒業の可否は、レシピとラップの出来が左右するらしい
女子栄養大学・食文化栄養学科に在学していた「DJみそしるとMCごはん」が、卒業研究として作った動画が、デビューのきっかけとなった。「歌って覚えられるレシピ」という発想もさることながら、手作り感満載のポップなムービーは、観ているだけでも抜群に楽しい。YouTubeで話題になるのも、当然だった。音楽そのものに対する興味は、幼い頃から持っていたようだ。たとえば幼児はエレクトーン教室に通い、中学・高校では吹奏楽部でホルンを吹いていたという。バンドを組んで、ドラムを叩いていたこともあるらしい。要は、素養はあった、ということだ。「ピーマンの肉詰め」を皮切りに、多種多彩なお料理楽曲を作り出していった。視聴した人々の感想は概ね「なぜか惹かれる」というコメントに集約されると思う。もちろん「おいしそう」とか「食べたい」「作りたい」といった、お約束も数多く並ぶ。
>>DJみそしるとMCごはん / ピーマンの肉詰め(YouTube)
揺籃期:料理を作ること、から料理をめぐるカルチャーに拡張
「こんときはまだ韻それほどふめてなかったよな〜(笑)」というコメントもあったが、「卒論」製作当時は、比較的薄めの抑揚が逆に味わい深かった。ところどころに冷めたワンポイントギャグが散りばめられていて、どことなくクレヨンしんちゃんが演じるクックパッドムービーを観ているような気が。だが素直に、「作ってみたい」と思わせる力があった。作り込んでいくにつれて、演出も世界観も少しずつ広がっていく。ローストチキンとクリスマスパーティを絡めたMVの演出などでは、料理を楽しむシチュエーションがわかりやすく伝わってきた。音楽も映像も、「見せる力」が急速に高まっていく。
そして2013年、「おりおりのおりょうり〜X’mas〜」で、ついにメジャーデビューを果たした。翌年にはきゅーりのキューちゃんとのコラボレーションでシングル「OPQ EP」をリリースし、料理をめぐるカルチャーを語るワザまで身につけていく。
確立期:レシピ作りもパフォーマンスも、プロの意識で
2015年4月、3rdミニアルバムとなる「ジャスタジスイ」の製作を通して「DJみそしるとMCごはん」は、また一歩、進化した。大勢の仲間とともに曲を作る楽しさを通して、本格的に聴き手を幸せにするための「レシピ作り」に取り組み始めた。もうひとつ、彼女が成長する機会となったのが、NHK Eテレで始まった「ごちそんぐDJ」だ。「美味しいものは人類の奇跡だ! 」と、料理と音楽の新しい楽しみ方を提案する…という、まさに独特の世界観がそのまま番組になってしまったワケ。だから、面白くないハズがない。4枚目のミニアルバム「味の向こう側」リリースとともに、ミュージシャンとしてだけでなく、エンターテイナーとして、ますます美味しく熟成されていく。そういえば昔から、「男をつかむなら胃袋をつかめ」とよく言われる。そういう意味では彼女、すでにかなりの人々の「胃袋」をつかんでいるような気がする。
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