石野卓球という最高のDJと、ピエール瀧という指揮者
電気グルーヴのファンにとってはもはや確認するまでもない常識だろうが、石野卓球という日本最高のDJが作り出す音空間は、やはり圧倒的なまでに贅沢なものだった。
彼のDJを間近で見たり言葉を聞いたりすることができるのは、同じ時代に同じ文化を背景に持ったわたしたちの幸運だろう。
また、これも電気グルーヴのファンにとっては普通のことかもしれないが、ピエール瀧という不思議なバンドメンバーの存在についても改めて言及しておきたい。瀧は、ほとんど楽器を演奏するわけでもないし、ダンスをするわけでもない。曲によってはほぼ何もせず、ただステージの上でノッているだけだ。それなのに、オーディエンスはみんな瀧を見てしまう。そして瀧のゆるい身体の揺れに合わせて、自分たちも身体を揺らす。
つまり瀧の役割のひとつは、全体の指揮者としてオーディエンスを導くことにある。
どのようなライブであっても、そこにはほとんど常に初見のオーディエンスがいるだろう。初見の場合、そのライブの楽しみ方はあまりよくわからないものだ。しかし電気グルーヴのライブには瀧という指揮者がいるので、瀧を見ていれば、このバンドの楽しみ方が自然と身体に入ってくる。と同時に石野卓球の通訳もしてくれるので、「置いてきぼり」という状態になることがない(瀧によると「電気グルーヴは邦楽初の“通訳”が必要なバンド」)。
50歳のおじさんが楽しそうにステージでノッている、ように見せかけて、実は全体を統率している。この日のZepp Tokyoは完全に電気グルーヴが支配していたが、彼らのステージを見ていると、「ステージングとはいったい何なのだろうか?」とふしぎな気持ちになってくる。
50歳になって、人前でケツを出せるか?
それにしても、50歳になって2,500人の前で堂々とケツを出せるものだろうか? しかも、ある分野で伝説的な実績と人気を築いた上でだ。
電気グルーヴにおけるピエール瀧の役割がしばしば、「ピエール瀧(瀧)」と表記されることに象徴的なように、彼らには適切なカテゴライズというものがない。言葉が彼らに追いついていない状況が30年近く続いているわけだ。電気グルーヴを説明しようと思っても、「電気グルーヴを見て」と言う他ない。
よく似た先達もおらず、まったく道なき道を自分たちで切り開き、自分たちのやりたいように進んできた電気グルーヴ。それは他の誰にも真似できないものであり、したがって彼らが切り開いた道の後にはすでに草が生えてしまって、ふたたび道なき道になっているようにも思えるが、それはそれとして、好きな人と好きなことをやり続けて完全にオリジナルの存在になったことは、控えめに言っても、カッコいい。
最高の音楽と映像と光に酔いしれ、卓球と瀧の面白いトークに腹から笑うことで、わたしたちは電気グルーヴのライブから満足感と多幸感を得ることができる。しかしそれだけではなく、なぜだか身体の内側から勇気のようなものが湧き出してくるように感じられるのは、彼らが「頑張れよ」といったメッセージを発しているからではもちろんない。そうではなくて、2人の作品や立ち振る舞い、あらゆる言動から、彼らの生き様のようなものが匂い立ってくるからだ。
そのような真にオリジナルなものを見たとき、人は「カッコいい」と思い、感動し、まるで勇気を与えられた気持ちになる――実際には彼らが何も言っていないとしても。
そうして、ひとたび電気グルーヴを見てしまった者はこのナチュラル・ハイのとりこになるのだ。最高だね!
セットリスト『クラーケン鷹』2018.3.17 Zepp Tokyo
1. Fallin’ Down
2. Missing Beatz
3. プエルトリコのひとりっ子
4. いちご娘はひとりっ子
5. March
6. トロピカル・ラヴ
7. Slow Motion
8. 顔変わっちゃってる。
9. The Big Shirts
10. flight to Shang-hai
11. ガリガリ君
12. Shame
13. Shameful
14. B.B.E.
15. Upside Down
16. モノノケダンス
17. MAN HUMAN
18. Baby’s on Fire
19. 柿の木坂(with 吉田サトシ)
20. City Summer(with 吉田サトシ)
21. UFOholic(with 吉田サトシ)
22. CATV 2017(with 吉田サトシ)
En 1. 燃える!バルセロナ(with 吉田サトシ、日出郎)
EN 2. 人間大統領(with 吉田サトシ、日出郎)
石野卓球
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