電気グルーヴが2018年3月17日、東京・Zepp Tokyoにてワンマンライブ『クラーケン鷹』を開催した。本公演は、3月3日に大阪・Zepp Namba、3月16日にはZepp Tokyoでも行われ、計3回開催された。本記事ではファイナルとなった17日の模様をお届けする。
Text_ Sotaro Yamada
Photography(LIVE)_ Masanori Naruse
電気グルーヴのライブを見たことがある人とそうでない人では、おそらく音楽観がまったく違ってしまうだろう。それほど、彼らのライブは異次元のものであり特別なものだ。
しかし、「二人合わせて100歳」というベテランのミュージシャンでもあるから、ミーティア読者には、電気グルーヴを知らない人、あるいは名前だけ知っているという人もいるかもしれない。そこで、(いまさら感はあるけども)まずは簡単に電気グルーヴの紹介から。この日のセットリストをプレイリスト化したので、こちらを聞きながらどうぞ。
電気グルーヴって?
石野卓球(いしの・たっきゅう)とピエール瀧(たき)によるバンド。1989年に結成。テクノ・エレクトロを中心とするが、ニューウェイブやテクノポップなど幅広い音楽性が特徴。1991年のメジャーデビュー以降、日本のテクノ界を牽引するだけでなくカルチャーアイコンとなり、ヨーロッパをはじめとする世界各地でも高い評価を受ける。1997年にリリースした『Shangri-La』は、電気グルーヴのディスコグラフィーにおいては異色の作品ではあるが約50万枚の大ヒットを記録し、時代を象徴するアンセムとなった。
ソロとしての活動も旺盛で、石野卓球はTakkyu Ishinoとして国内外で名高いDJであり、1998年にはドイツ・ベルリンでのラブパレード(世界最大規模のレイヴ)に日本人として初めて出演。100万人の観衆を前にプレイした。ピエール瀧は俳優としても評価が高く、幅広い役柄をこなす(映画『凶悪』や『そして父になる』、テレビドラマ『あまちゃん』など)。『ポンキッキーズ』をはじめバラエティ番組への出演も多い。
多才な2人を中心とする電気グルーヴだが、ライブでは電子音楽家の牛尾憲輔(うしお・けんすけ、agraph)がサポートメンバーとして帯同する。
もともとは卓球に見出された牛尾憲輔だが、近年ではソロ活動のほか、映画『聲の形』の劇伴を手がけるなど、活躍の幅を広げている。2018年にはNetflixのオリジナルアニメーション作品『DEVILMAN crybaby』の劇伴なども担当し、いまもっとも注目すべき電子音楽家のひとりだ(ちなみに『DEVILMAN crybaby』の主題歌は電気グルーヴが、特別エンディングテーマは七尾旅人と石野卓球によるユニット“卓球と旅人”が手がけた)。
電気グルーヴ『クラーケン鷹』という地上の楽園
さてライブだが、電気グルーヴほどの大御所となれば、Zepp Tokyo規模の箱は当然埋まってしまう。見たところ、20代〜50代あたりまで幅広い年代のファンが足を運び、会場内には汗をかくほどの熱気が漂っていた(そしてこの後、みんなもっと汗をかくことになる)。
開演のアナウンスが流れると、フロアからは大きな拍手と歓声が起き、指笛が鳴らされる。幕が開くと、ステージには、シルクハットにサングラスをかけてタオルを掲げたピエール瀧、その奥には石野卓球と牛尾憲輔の姿が。歓声はさらに大きくなった。
『Fallin’ Down』でライブはスタート。爆音の電子音が流れ出すと、満員のオーディエンスは一斉に手をあげ、クラップしたり、思い思いに身体を揺らしたりする。ステージの大スクリーンにはVJ・DEVICEGIRLSによる映像が映し出され、照明はめまぐるしく変化する。
音と映像と光が綾なすグルーヴは、一瞬でオーディエンスをトリップさせた。フロアが波のようにうねっている。2階席からステージとフロアをみていると、つい「地上の楽園」などという陳腐な言葉が頭に浮かんできてしまう。それくらい、最初の1秒から電気グルーヴのライブは異世界だった。
『Missing Beatz』『March』『Slow Motion』などがシームレスにつながれ、卓球のソロ曲『flight to Shang-hai』までの10曲がノンストップで披露される。ふつう、ライブは序盤から中盤そして終盤にかけて徐々に盛り上がっていくものだが、電気グルーヴの場合は少し違う。いきなりピークを迎え、それが1時間ほど続き、少し長めのMC、というよりは、卓球と瀧による奔放なトークが挟まれて会場が笑いに包まれ、ふたたび音楽の時間が始まりピークが1時間ほど続く。そうして熱狂のまま終焉を迎える。
この日のMCでも、「クラーケン鷹って10回言ってみて?(卓球)」という無邪気なツアータイトルのネタ明かしに始まり、楽屋のトイレを汚してしまった話や下ネタを連発してオーディエンスを大いに沸かせた。自分たちを「カネになるキチガイ」と形容する2人だが、矢継ぎ早に放たれるトークはそれだけでカネになるほど面白く、何を喋っても大きな笑いが起こる。
「じゃあ音楽やる?」という卓球の一言で唐突にMCが終わり、後半は『ガリガリ君』から『Upside Down』『モノノケダンス』といった人気曲、『DEVILMAN crybaby』の主題歌である『MAN HUMAN』を披露。
(Netflixオリジナルアニメ『DEVILMAN crybaby』PV第3弾。冒頭で流れているのが電気グルーヴによる主題歌『MAN HUMAN』。超面白い作品なので、アニメが苦手な人にもおすすめです)
Netflixオリジナルアニメ『DEVILMAN crybaby』
『柿の木坂』からはゲストとしてギタリストの吉田サトシを呼び込み、ラストの『CATV 2017』では、瀧が消火器をサックスに見立てて吹き鳴らし、ギターとエアーサックスのセッションが行われた。
日本最高の電子音楽の帰結(きけつ)は肛門へとむかう……ケツだけに。
アンコールでは、こんな格好に着替えて登場。
二人合わせて100歳 pic.twitter.com/D9ew74bCTl
— Takkyu Ishino/石野卓球 (@TakkyuIshino) March 16, 2018
「二人合わせて100歳」のおじさんたちがケツを出して登場することにも驚くが、卓球の「全国2ヶ所の長いツアーも今日で終わりますが、特に話すこともないので、最後に瀧くんと相撲を取ります」という言葉にオーディエンスは大湧き。立ち会って、勢い良く2人がぶつかり合う……と思いきや、飛びかかってきた卓球を瀧がキャッチしてお姫様抱っこ。2人が満面の笑みを見せ、さらに瀧が卓球を指して「親友」と嬉しそうに言うと、会場にはこの日いちばんの笑いと拍手が起きた。
アンコール用のスペシャルゲストには、真っ赤なドレスに身を包んだ日出郎(ひでろう)が登場。バブル時代を代表するオネエタレントの登場に、Zepp Tokyoを新宿二丁目的な妖しい雰囲気が覆い始める。かつての日出郎の楽曲を卓球がバキバキにリメイクした『燃える!バルセロナ』が演奏されると、会場全体で「エクスタシー獲たけりゃ肛門よ!」というコスリまくりの大合唱が起きた。こうして、日本最高の電子音楽の帰結(きけつ)は肛門へとむかう……ケツだけに。
フラメンコギターと、テクノと、ケツ丸出しの50歳と、オカマ。電気グルーヴのライブ以外ではほとんど起こり得ない珍妙かつ絶妙な組み合わせで、最後は『人間大統領』。おかまの大統領が狂ったように踊り、あっという間に熱狂のライブは幕を閉じた。
(次ページ:きみは50歳になって、人前でケツを出せるか?)
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