まとめ『ストリップ歌小屋 2017』とは何だったか?
バンドから見た『ストリップ歌小屋』
さて、『ストリップ歌小屋 2017』東京、大阪、名古屋の3公演を、3本の記事にわけてレポートしてきたが、クリープハイプにとって『ストリップ歌小屋 2017』とは何だったろうか。
UNISON SQUARE GARDEN、KANA-BOON、銀杏BOYZ、これら3つのバンドは、今のクリープハイプを形成する上でもっとも重要な3つのバンドで、かつ、それぞれ関係値の違うバンドでもあった。そういったバンドと対バンをすることは、まずは何より、クリープハイプ自身が自分たちの現在地を確認する作業だったと思う。
また、ツアータイトルにあるように、「ストリップ」とは、服を脱いで裸になることだ。心の服を脱いで裸になること、つまり「心のストリップ」をすることで、オーディエンスたちとの信頼をさらに深める作業でもあった。
ストリップ歌小屋!心が超脱げた。僕はカオナシなのに顔が有ってしまうようだった。有難うございました。 https://t.co/76EpIlZHGC
— 長谷川カオナシ (@kaonashiworks) 2017年6月15日
さらに、『愛の標識』、『ABCDC』、『週刊誌』、『イノチミジカシコイセヨオトメ』といった初期の曲や最近のライブで披露することの少なかったレア曲から、『鬼』、『百八円の恋』、『イト』といった新しい曲までを幅広く演奏したことは、自分たちの足跡を再確認・再解釈する機会にもなっただろう。『イト』が大ヒットソングになり、ふたたびブレイクを迎えそうなクリープハイプ。『ストリップ歌小屋 2017』のあとにどんな成長曲線を描くのか、期待せずにいられない。
オーディエンスから見た『ストリップ歌小屋 2017』
次に、オーディエンスから見た『ストリップ歌小屋 2017』が何だったのか考えてみたい。
本ツアーの対バンから見えたのは、クリープハイプの過去や、シーンにおける他のバンドとの関係性だった。UNISON SQUARE GARDENの斎藤宏介、KANA-BOONの谷口鮪、銀杏BOYZの峯田和伸、それぞれがクリープハイプとの出会いや、これまでのお互いの関係性についてMCで触れた。尾崎もそれに応えるように、彼らとのエピソードをたくさん語った。その内容は、今回初めて語られるものもあったし、なんとなく想像はつくが明言されていなかったものもあったし、「やっぱりね!」と思わず頷いてしまう心温まるものもあった。
こうしたやり取りを通して、クリープハイプの過去を知り、シーンにおける他のバンドとの関係性を知ることは、クリープハイプの音楽をより深く知り、より楽しむために有益なことだ。
尾崎はよく、「作り手がどんな人間か、その人の生活が見えてくるような作品が好きだ」という旨の発言をしているが、クリープハイプは、まさにそういった、作り手の顔が見えるバンドになってきたように思う。
音楽の歴史から見た『ストリップ歌小屋 2017』
そして最後に、もう少し広い視座から『ストリップ歌小屋 2017』を見てみると、本ツアーは、単なるひとつのバンドのライブというもの以上の意味を持っていたように思う。『ストリップ歌小屋 2017』は、現代のバンドがどのようにこれまでの音楽を解釈し、それを自分たちのリアルとしてアウトプットしているのかを明確に示したツアーだった。
それはつまり、「音楽の歴史」と言い換えることができる。
まずは2000年代に銀杏BOYZという爆発があった。
その輝かしい爆発の衝撃をもっとも直接的に受けたのが、ひとつ下の世代のクリープハイプだった。
尾崎世界観というカリスマと、同じく銀杏BOYZ直撃世代の長谷川カオナシ、小川幸慈、小泉拓という4人が揃い、銀杏BOYZの正統的な継承者が誕生したのだった。カリスマはしばしば孤独の雰囲気を纏っているが、その周囲に優秀な人間が揃わなければ真のカリスマには成りえない。この3人がパズルのピースのようにハマることによって、尾崎のカリスマ性がようやく発見されたのであった。
さらに言えば、誰かが輝いている時、その反対岸にいる人間も必ず輝いているものである。
UNISON SQUARE GARDENとクリープハイプは、一見まったく違う種類のバンドに見えるが、その芯は通底し、共鳴し合う要素を多く含んでいる。両バンドは太陽と月のように反射し合い、音楽という宇宙の中でそれぞれの音を響かせ合う。
そして、銀杏BOYZからクリープハイプへと受け継がれた流れを継承する次の世代の一番手が、きっとKANA-BOONなのだろう。
このように、
銀杏BOYZ→クリープハイプ & UNISON SQUARE GARDEN→KANA-BOON
というひとつの大きな流れを表現していたのが『ストリップ歌小屋 2017』というツアーであった。
昨今、多くのミュージシャンが新譜のリリースツアーを各地で開催する中、ツアーそのものが明確に何かを表現する、ということは、実は珍しい。しかしクリープハイプにとっては、ツアーさえもひとつの独立した作品なのである。
『ストリップ歌小屋 2017』という作品でクリープハイプが成しえたことのひとつ。それは歴史の中に今の自分たちを明確に位置付けることだった。
たしかに、「僕たちは世界を変えることができない(銀杏BOYZ)」。
しかし、それでも世界が「思ったよりもきれいなもん(UNISON SQUARE GARDEN『アナザーワールド』より)」で、「今を大好きになる(クリープハイプ × 谷口鮪『陽』より)」と思えるのは、こうして世界の最良の部分のひとつが、形を変えながらも脈々と受け継がれていくからではないだろうか。
と、うまく歌詞を引用できたところで、この長いレポートを締めることにする。
ストリップ歌小屋ありがとうございました。髪が邪魔。切りたい。 尾崎 pic.twitter.com/Hb3smZ4euq
— クリープハイプ (@creephyp) 2017年6月16日
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