熊谷和海が影響を受けた本5冊(以下、熊谷和海によるコ メント)
①『キノの旅』(時雨沢恵一/電撃文庫)
こういった質問をされた時に必ず挙げるバイブルです。僕の詞における言葉遣い、ワードセンスの根幹に在るのは恐らくこの作品。
『本の国』『多数決の国』のように『【名詞】の国』が各話のタイトルになることが多い。その名詞、ワンワードをキーにしたメッセージがキメの一文として終盤に存在し、それを最も効果的に際立たせるようにストーリーが展開されていきます。その物語の組み立て方、起承転結が秀逸で参考になります。
また一冊の中に背筋が寒くなるような話からクスっとしてしまうような話まで、収録作品のベクトルが変幻自在でオムニバス風な点も、アルバム作りにおいて目指している処です。
②『半島を出よ』(村上龍/幻冬舎文庫)
「作者は丁寧に情景を描写しているつもりだが、その非凡な語彙力と着眼点により、映像以上に鮮烈な伝達が成されること」
これが僕が思う「文学」の定義です。
村上龍の地の文は正にその理想形だと思われます。何処にも感情移入しない裁判官のように公平な文章は読者の先読みを許さず、「この先どうなるのだろう?」という一定の興味と緊張感を保ちます。それでいてその空気あってこそ輝く登場人物の人間臭さやユーモラスさ。
地の文、つまり「神様視点」で詩を書く際の「いろは」が詰まっています。
③『二十億光年の孤独』(谷川俊太郎/集英社文庫)
「裏返せ 俺を」「夜のミッキーマウス」「優しさは愛じゃない」など、ワンセンテンスで読者の心を掴む、文字通りキャッチーなフレーズが満載。メッセージが明確なものから常人には理解の及ばぬ実験的な作品まで幅広く、その挑戦的な姿勢にクリエイターの在るべき姿を見ています。
詩というのは文字数が限られている分、ワードのリフレインのタイミングや韻の踏み方などが良し悪しを担う。一種の音楽的な要素が含まれているジャンル故に、小説よりも参考にしているかもしれません。
④『おーいでてこーい』(星新一/青い鳥文庫)
最悪の結末を予感させる一文で物語を締めくくることでゾッとした読後感を楽しませてくれる星新一のショート・ショート。「結末を描かないことで読者に想像させ、当事者意識を芽生えさせる」という手法はキャッチーさとは真逆の「切なさ・孤独感」によるものだと思っています。
僕は曲のラストは、メロ繰り返しでは無く必ず一瞬捻った展開にします。それはリフレインというキャッチーさよりも、星新一のような印象深い幕引きを目指しているからに他なりません。
⑤『R62号の発明・鉛の卵』(安部公房/新潮文庫)
高校の教科書に載っていた「棒」(この本にも収録されている)という短編小説で、安部公房を知りました。人間を棒に変身させてしまう…喩える、ではなく「人間=棒」として淡々と話を進めるその表現は当時の僕には背徳的な新鮮さがありました。それでいて単なるファンタジーに留まらず読者の、人間としての生活にフィードバックさせる警鐘や皮肉が込められている格調高さに魅せられたのです。
僕の詞の主人公が人間だけでなく猫であったりアンドロイドであったり蜻蛉(とんぼ)であったりするのは、この作家の影響が大きいと思われます。
番外編:『花一匁』を描くにあたって参考にした本
『新撰組顛末記』(永倉新八/新人物往来社)
新撰組二番隊隊長・永倉新八その人が書き残した自伝。我武者羅で信念を貫き情に厚い、誰からも好かれるその性格が彼を明治まで生き延びさせたと言われています。
『銀魂』という作品のための書き下ろしとあって、正にサムライかく在るべし、という彼の生き方を参考にしています。また歴史的資料としても価値の高いこの本は、当時の雰囲気を出すための言葉遣いや単語を知るのに役立ちました。
「文學とは何か、その問いに答えることはかなり難しい」と書いたが、熊谷はこの問いに、彼なりの答えをハッキリ示してくれた。それは、「作者は丁寧に情景を描写しているつもりだが、その非凡な語彙力と着眼点により、映像以上に鮮烈な伝達が成されること」。
彼らの音楽を聴いたことがある人にはおわかりいただけると思うが、この答えは、そっくりそのままBURNOUT SYNDROMESの音楽に当てはめることができる。
多くの素晴らしい文學作品からは音楽が聴こえるし、その逆もまた然り。BURNOUT SYNDROMESは、「音楽」や「文学」という一般的な概念を拡張し、鮮烈な伝達を成し続ける。
SHARE
Written by