安室奈美恵は、ダンサーにとって夢の職場だった
かつてJ-POPでここまで神格化されたソロ女性アーティストはいたでしょうか。幅広い世代に支持を集め1990年代から現在まで、音楽シーンのトップを走り続ける安室奈美恵。彼女の存在は日本の音楽シーンの誇りですし、これからもそうあり続けると誰もが確信していたと思います。しかし、2017年9月20日。安室奈美恵は2018年9月16日をもって引退することを発表しました。
突然の引退発表にメディアでは連日このことが取り上げられ、ファンも驚きや悲しみ、安室奈美恵への労いの言葉など、さまざまな感情や意見が渦巻くことに。筆者もみなさんと同じ気持ちでしたが、ダンスライターという立場でこのニュースを聞いた時、ひとつの大きな損失が浮かびました。
それは、”安室奈美恵の引退=ダンサーの夢の職場がなくなる”ということです。これはダンス界にとって大きな出来事だと思います。今回は、ダンサーにとって安室奈美恵がどれだけ影響力のあるアーティストだったのかを記事にしました。
安室奈美恵みたいなアーティストはもう現れない
安室奈美恵は10代でSUPER MONKEY’Sとしてアーティストデビュー、1995年にソロデビューし、瞬く間に数々のヒット曲を生み出し日本の音楽史に名前を刻んでいきました。
多くの有名アーティストを輩出した沖縄アクターズスクールの特待生出身で、沖縄出身アーティストのレベルの高さを提示したパイオニア的存在です。同時に女性ダンスボーカリストというジャンルをメジャーにしたのも安室奈美恵と言っていいでしょう。
ファンだけでなく、アーティストからも評価が高く、VERBALと今井了介が「日本のジャネット・ジャクソンって誰だろう?」と話し合ったときに安室奈美恵しかいないと評するほど、実力や音楽性が高いアーティストです。
詳しい数字を含めた安室奈美恵の実績は下記参照記事をご覧ください。
安室奈美恵は単純にビジュアルが良くて、歌とダンスがうまいというアーティストではありません。そういうアーティストならこの先も現れるでしょう。彼女のすごいところは、10代の頃に音楽シーンの天下を取り、絶対的存在になったということです。
今の音楽シーンにそんな10代いるでしょうか? ただでさえダンスグループ主体でソロのダンスアーティストが生まれにくい状況において、安室奈美恵のような若くして音楽シーンのトップを取るソロダンスアーティストが今後生まれる可能性は低いと思います。
安室奈美恵のストイックなライブパフォーマンス
安室奈美恵といえば、曲をノンストップで披露するストイックなライブパフォーマンスが有名です。筆者は安室奈美恵のバックダンサーと仕事で話したことがありますが、やはり数いる日本のアーティストの中でも、ストイックで技術と体力が求められる、選ばれたものしか体感できないライブだという発言をしていました。
現在はわかりませんが、リハーサル中は動画の撮影が禁止だったので、動画を撮って後で覚えるということもできなかったようです。限られた時間でパフォーマンスを完璧にするという、現場もストイックな環境でした。
それだけに、安室奈美恵のバックダンサーになれるのはうまいダンサーの中でもごく少数の狭き門になっています。
さらに、安室奈美恵には専属ダンサーがいません。毎回出ているように見えるダンサーもメンタル面などを考慮して、次もバックダンサーにつくかどうか判断するようですし、毎回オーディションも開催されています。
高いダンススキルと強いメンタルがないと務めることができないのが、安室奈美恵の現場なのです。
このことからダンサーにとって憧れの場所であり、自身のスキルを磨き、ダンサーとしてのブランドも築ける。まさに夢の舞台なのです。
ダンサーにとっての安室奈美恵とは
アーティストのバックダンサーは、ダンサーの仕事の中でも華やかな部類に入る仕事です。ここ数年でバックダンサーを使うアーテイストが増えたので、バックダンサーの仕事は増えましたが、やはり担当するアーティストの知名度や実績によって、ダンサーのブランドの箔が変わってくるのが現実です。
ダンサーにとって、やりがいのあるアーティストとはどういう存在なのか? 筆者がダンサーに取材を重ねた上で感じるのは
・誰もが知っている知名度。もしくはそうなる可能性を秘めている。
・楽曲やパフォーマンスのクオリティが高く、アーティスト自身もダンスがうまい
・ダンサーに対して愛とリスペクトが深い
・アーティストのファンがダンサーを受け入れてくれる
他にもありますが、以上の4つをベースに、それぞれダンサーの価値観で重きにするものが変わると思います。
ここ10年でダンサーの知名度や地位が向上して、アーティストとダンサーの関係値も変化してきたこともあり、ダンサーをフックアップしてくれるアーテイストが増えてきました。
浜崎あゆみ、倖田來未などのソロ女性アーティスト。ミーティアでも多く取り上げ、自身のダンサーをクルーとして迎えているSKY-HI。筆者が最近取材した中で、ダンサーリスペクトを感じたw-inds.。最近、めちゃイケの「岡村オファーシリーズ」で話題を呼んだ三浦大知。アジアに目を向ければ、東方神起もファンがダンサーも熱く応援してくれます。非常にダンサー愛のある現場が増えました。
こういったアーティストのバックダンサーは、ダンサーにとって夢の職場であると筆者は考えているのですが、安室奈美恵はその最高峰だと思っています。
安室奈美恵ブランドの凄さ
まず、ダンサーを職業として見ると、アーティスト、スポーツ選手、フリーランス(個人事業主)という3つの側面を持っています。
ダンスは表現者なので、アーティストと似たフィールドで活動をしますし、体を使った仕事なので、スポーツ選手のように現役でいられる時間も限られ、企業に所属している訳でもなければマネージャーもいないので、基本は一人で事務作業や仕事のやりとりをします。
つまり、アーティストという売れる売れないの厳しい世界で、体のケアをしながら、生きていくために仕事も自分で取らなければいけない。かなり大変な仕事なのです。こういった状況で、ダンサーが仕事を手に入れて有名になるには、影響力やブランド力が必要です。その2つを誰にでもわかりやすく伝えられるのが、アーティストのバックダンサーという実績になります。
「安室奈美恵のバックダンサーをやっている」
もうこの一行だけで「この人は安室奈美恵のバックダンサーだったから、実力もあるし人気もある」という評価を相手に伝えられるのです。
中途の採用面接を例にするならば、特に目立った職歴がない人と、Googleでプロジェクトマネージャーをやってましたという二人がきたら、ほとんどの面接官は後者の方を採用すると思います。最大手企業に入る能力とそこで実績を築いたという説得力があるからです。
もちろん、ダンサーは実績だけが全てじゃないですし、深夜のダンスパーティーにいけば、もっとコアなダンスを追求しているうまいダンサーはたくさんいます。ただ、仕事をくれる企業やダンスを知らない層は、そういったシーンの深いところまでは見ないので、やはり有名なワード(本記事でいうアーティストのバックダンサー)を、実績として持つダンサーは影響力が高く、ファンも多いため、ダンサーとして成功している人が多いのです。
スポーツ選手は引退後に、自身の名声や稼いだお金で、お店を出したりするなどセカンドキャリアを築く方もいますが、ダンサーにも当てはまる部分があります。ダンサーとしてある程度知名度が出てくると、イベントをオーガナイズしたり、ダンススタジオを経営したり、最近は企業してダンス事業をするダンサーが増えました。
歴代の安室奈美恵のダンサーでいえば、HIROKIは5IGNALというダンスボーカルグループでアーティスト活動をはじめましたし、RYOJIとERIKAは、DANCE COMMUNITY ER`Sという事業を立ち上げ、ダンススタジオを運営しています。
それだけ実績というのは、ダンサーにとって現在の活動やセカンドキャリアに影響を与えるのです。そういう意味でも、安室奈美恵というアーティストはダンサーにとって夢の職場です。
以上のことから、安室奈美恵はダンサーにとって、自身のダンサーとしての実力が認められる場所、自身のブランド力がつく場所、何よりも日本の音楽シーンのトップに居続けた偉大なアーティストと同じステージでパフォーマンスができるというやりがいを感じられる夢の舞台です。
安室奈美恵の引退によって、ダンス界から夢の職場がひとつなくなってしまうのは、周りが思っている以上にダメージがあリます。それだけ安室奈美恵というアーティストは偉大なのです。
11月8日にはベストアルバム『Finally』のリリース。2018年2月より東京、大阪、名古屋、福岡、札幌の5都市での5大ドームツアー及びアジア公演の開催。着々とラストステージに向けて動きが出ている安室奈美恵。今回は、ダンサーにとっての安室奈美恵の偉大さを紹介しましたが、色々な視点で見ればもっと安室奈美恵のすごい部分が出てくると思います。そういったところも注目して、最後まで応援したいです。
《安室奈美恵 INFOMATION》
11月8日、ベストアルバム『Finally』発売
http://namieamuro.jp/news/2017/20170921_finallyinfo/
公式サイト:http://namieamuro.jp/
公式ファンクラブサイト:http://fanspace.jp/
公式YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/user/AmuroNamiech
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