理由①:ミュージックビデオの魅力
(amazarashi『夏を待っていました』MV)
amazarashiの大きな魅力のひとつは、最新技術の粋を取りいれた映像とのコラボレーションだろう。
たとえば、映像作家YKBXの手掛けたMV『夏を待っていました』は、そのセルルック3DCGアニメーションや演出が評価され、第14回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門で優秀賞を受賞した。
また、やはりYKBXが監督を務めた全編3DCGのMV『クリスマス』は、世界4大アニメーション映画祭のひとつとして名高いアヌシー国際アニメーション映画祭(2011年)にノミネートされた。
(amazarashi『クリスマス』MV)
ほかにも興味深いMVはたくさんある。そのひとつが、SPACE SHOWER MUSIC VIDEO AWARDS 2014にノミネートされた『穴を掘っている』(本山敬一監督)。
樹海に置かれた何台ものプリンターがネット上に吐きだされた「死にたい」という無数のTweetを紙に出力しつづける様子は、人間の暗い情念を見事にえぐり出している。
(amazarashi『穴を掘っている』MV)
「死にたい」という膨大な数のTweetがプリンターから出力されつづける、するとこの絶望の声を印字した何百枚、何千枚もの紙が、いつの間にかある形を取りはじめていることに気づく。
「YOU ARE NOT ALONE」。
君は一人じゃない、という文字。
「死にたい」というTweetが集められることで別のメッセージに変わるというこの変換は、視聴者に衝撃を与えるだろう。このような変換は『穴を掘っている』のミュージックビデオ全体を貫く一つの指針になっている。
そもそも、ネット上の「死にたい」というTweetがプリンターを通すことでインクで書かれた文字に変わる、というプロセスそのものが変換にほかならない。
また、注意深い視聴者なら、Tweet主の名前やアカウント名の文字列が、出力される寸前にランダムに並べ替えられることに気づくだろう。たとえば、「柳田進@yanagida789」は「田 柳進@nga97da8ayi」に変わる(どちらも実際に検索すると「虚無主義に抗え」と一言だけTweetしているアカウントがヒットする)。
虚無主義に抗え
— 柳田進 (@yanagida789) 2014年10月25日
この変換の論理のもと、「死にたい」と印字された無数の出力用紙も別のものに変えられている。それが前述した「YOU ARE NOT ALONE」(君は一人じゃない)という全く新しい言葉。
その言葉は、「だからがんばれ」という励ましに、あるいは「だから甘ったれるな」という叱咤に、視聴者それぞれの頭のなかで変換されるだろう。
amazarashiのMVは、衝撃的で鮮烈なその映像の奥に豊かな物語や謎めいたメッセージを秘めており、それが大きな魅力のひとつになっている。
理由②:ライブの魅力
多彩な映像を駆使するamazarashiのライブは独特だ。
2011年6月に渋谷WWWで開催された初ライブから一貫して、ステージの前に半透明のスクリーンを張りそこに映像を投影するというスタイルをつづけてきた。
近年このスタイルはますます進化をとげている。
たとえば、2015年8月に豊洲PITでおこなわれたライブ「5th anniversary live 3D edition」では3D映像が使用された。このライブで行われたのは、ステージと観客のあいだに3つか4つのスクリーン(レイヤー)があるように錯覚させ、それぞれのレイヤーに歌詞や映像を同時に投影させるという試み。その結果、いま歌われている世界をより立体的に、より切実に感じることが可能になった。
また、2016年10月に幕張メッセイベントホールでおこなわれたライブ「amazarashi LIVE 360°」では、360°の全方位から観覧できる画期的なスタイルが打ちだされた。このライブでは、ステージを巨大なLEDモニタが囲い、すべての側面に映像が出力された。そうすることで、360°どこからでも映像を見ることが可能となったのだった。
このような試みにはどんなメリットがあるのか?
ミーティアがおこなった秋田ひろむへのインタビューが、そのヒントになる。
amazarashiの楽曲は皆さん好きに解釈してもらって構わないんですが、一つのストーリーを追って演奏する事で、曲の意味をみんなで統一して共有することで、よりカタルシスを得られるのではないか、という試みです。音楽においてはあらゆる手法を試したいと思ってます。
(『MEETIA』2016年10月)
https://meetia.net/interview/amazarashi-live-360-4/
同じ曲、同じストーリー、同じ感情を「共有」するために、360°という試みはもってこいだったといえる。なぜなら、360°であれば、誰がどこにいても等しくライブを観ることができるのだから。
演出面でもこの「共有」を促進する試みはあった。いままさにライブを観ている観客をLEDモニタに映すといった演出はその一例だろう。この驚くべき演出のおかげで、「共有」の感覚はますます強まったにちがいない。
この360°ライブは、同じ時間に全国27の映画館で実施されたライブビューイングでも観ることができ、1万人超の観客を動員した。幕張メッセだけでなく、全国のファンがライブを「共有」していたことになる。
このように、映像を駆使した独自のライブパフォーマンスはamazarashiの大きな魅力のひとつだろう。
次に、ボーカルの秋田ひろむの歌詞に着目してみよう。
次のページは「歌詞の魅力/歌声の魅力」
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