『クレヨンしんちゃん』と岡本太郎、そしてベッツィ&クリスへ。
ーー岡本太郎に強烈なシンパシーを感じるという、あいみょん。アウトプットが激情的、という点では二人に共通するものがあるかもしれない。そしてその入り口となったのは、映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』であった。
あいみょん : もともと美術の道に行きたかったんです。中学で「『ゲルニカ』を描いてみなさい」みたいな授業があったんですけど、その頃からピカソに惹かれてて。で、調べていくとピカソと親交のあった人物の中に岡本太郎がいたんです。それから岡本太郎にも一気に引き込まれて。そこで『クレヨンしんちゃん』の映画がリンクしてきたんですよ。
あいみょん : 『オトナ帝国の逆襲』って2001年の映画なので、私は小学校2、3年とかなんですけど、その時は「普通に面白いなあ」ぐらいで。「しんちゃん好きやなあ」って感じだったんですけど、このごろになって「ああ!」って。「これ岡本太郎かよ!」って(笑)。だからしんちゃん、「ハローハロー岡本太郎」って言ってたのかって。もうそこからは一気に岡本太郎一直線ですよ。勉強してゆくほど、生き様が明らかになっていくじゃないですか。記念館とか美術館とかしょっちゅう行ってます。岡本太郎の何かを吸収したくて。
ーー『オトナ帝国の逆襲』、みなさんは覚えているだろうか。雑誌『映画秘宝』は、毎年恒例の年間ベスト10において本作を総合の1位に選んでいる。ちなみに同誌の年間ベスト10において邦画が年間1位を獲得したのは、本作と『シン・ゴジラ』の二例しかない。話が逸れそうなので戻すが、あいみょんは音楽においても本作に影響を受けていると言う。
あいみょん : ベッツィ&クリスの曲がいいタイミングで流れるんですよ。映画のあるシーンで、ちょっと懐かしい昭和の町並みの風景のときに、「花びらの〜」って流れるんですよ。そのときに「ええな、ええ曲やなあ」って。最初は日本人だと思ってたんです。でもベッツィ&クリスって洋風の名前を聞いて「ええ!」みたいな。そこからオークションで落としました(笑)。7インチです。今でもたまに聴きます。本当にいい曲ですばらしくて。そういう出会いも、この映画にはありました。
ーーあいみょんは、トレンドとは無縁の視点を持っている。これまでの話から推察すると、彼女は中高生の時点で絶対的な価値観を持っていたようだ。けれども、根っからの頑固者というわけでもない。自分の中に芯を持ちつつ、柔軟に物事を見つめている。
あいみょん : 歌いたいことが変わるっていう感覚はないですけど、多分私は変わって行ってると思うんですよ。ただ、みんな「変わらんといて」って言うじゃないですか。「メジャー行っても変わらないで」みたいな。でも私は、変わって何が悪いのって思うんですよ。人間っていろんなものに左右されて、いろんなものに刺激を受けて成長していく。自分という軸は持ちつつも、時代に左右されたいタイプなんですよ。だから私の音楽を聴いて、ファンのかたが「変わっちまったな…」と思うのであれば、それはもうしゃあないですっていう。
動物園と、あいみょん。一元的な見方を許さぬ知性
ーー最初に聞いたときは意外だと思ったのだけれど、一周回って「だよね」と腑に落ちた。あいみょんを構成する一つに、動物園があるらしい。
あいみょん : 動物園って、小さい頃は遠足で行く人も多いじゃないですか。当時は特別行きたいとは思ってなかったんですけど、大人になってから動物がすごい好きやなって思って。少し前までは時間があったらしょっちゅう上野動物園に行ってました。調子に乗ってあの辺一帯を「私の庭」って呼んでたり(笑)。
ーーけれども、ここまで話を進めてきて分かるように、あいみょんは一元的な見方はしない。現在は猫を飼っているとのことだが、そのまなざしは光が当たらない部分にも向けられている。
あいみょん : 猫との出会いがたまたま多くて。お姉ちゃんが猫二匹拾ってきたりとか。その後にまた一匹ウチにやってきたり。でもやっぱ、好きやからこそ今知っとかなあかんのは動物の殺処分とかの現状やなとか、いろいろ考えてます。元々はね…、飼うっていうものじゃなかったと思うんですよ、猫って。犬は昔から人間といるかもしれないですけど。そもそも、動物に値段がついてるっていうこと自体がもしかしたらよくないことなのかも、って考えますね。
ーーあいみょんが作る音楽は、ときに耐えられないぐらいダークだ。けれども、その根源には、あいみょんの陽だまりのような優しさがある。
コレクトしたチラシに見る、あいみょんのアート観
ーーブックオフの話にもあった通り、あいみょんの知識欲は凄まじい。あらゆる事象を吸収しようと貪欲である。彼女のアーティストとしての根幹は、もしかしたらこの部分にあるかもしれない。
あいみょん : 自分の表現が音楽っていうだけなんですよね。やっぱりすごく絵も好きですし、芸術全般に興味があります。映画のチラシとかもすごい見ちゃうんですよ。見たものとかも集めてて。そういう広告的なモノも、実は芸術の一部なんじゃないかって思うんです。アレって、見方の一つを提示する行為なわけじゃないですか。例えば、一つのりんごを描くのでも、みんな全然違うりんごを描いたりする。「なんでこの人はこういうふうに表現するんやろ」とか「私やったらこう描く」とか。そういうふうに考えさせられるのが芸術の役割だと思うんです。一人ひとり切り取る形が違う、視点が違うっていうのがすごく面白い。
あいみょん : 色々なモノをどんどん見たいです。焦るんですよ。本とか芸術とかって、特に本はまだまだ読んでへんのあるのにどんどん新しいのが出て来るから。こういう芸術作品にしても、燃えてしまったらおしまいやって思っちゃうんですよ。だから、今日本に来てるうちに行かないとっていう謎の焦りがある(笑)。漫画のワンピースで、でっかい図書館が燃えちゃうシーン(41巻参照)があるんですけど、あの場面が心に残っていて。登場人物たちが自分の命を顧みず、「みんな本を水に投げろ!」って言ってるんですよ。歴史は残らな意味がないって。それは音楽にも、あらゆる芸術にも言えることだと思ってます。
ーー「残して行く」。偉そうなことを言うつもりはないけれど、重要なキーワードが出てきた気がする。偽善的な意味ではなく、アートが堆積してゆく重要性を彼女は本能的に理解しているのだ。彼女の口から再三にわたり語られた「焦り」は、ポップ・ミュージックを語る上でも大切なことであったように思う。あらゆる「表現」で溢れかえった現代において、音楽を含めたアートができることは何だろう。それは、あいみょんが言う通り知識を堆積させ、それぞれの視点を確立させることかもしれない。22歳のシンガーソングライターは、若さの通りのガムシャラ感と、若さにそぐわぬ老練な視点の両方を持ち合わせていた。全く、末恐ろしい大器である。
あいみょん – 『君はロックを聴かない』
Photography_TAKUMA TOYONAGA
Text_YUKI KAWASAKI
Edit_ADO ISHINO(E inc)
あいみょん CDリリース・ライブ最新情報
最新アルバム『青春のエキサイトメント』
リリース日 2017年9月13日 全10曲収録。
- 憧れてきたんだ
- 生きていたんだよな
- 君はロックを聴かない(2018/2/16 Mステ出演時に披露)
- マトリョーシカ
- ふたりの世界
- いつまでも
- 愛を伝えたいだとか
- 風のささやき
- RING DING
- ジェニファー
「AIMYON TOUR 2018-TELEPHONE LOBSTER- 番外編 「BOIL」」、「Love sofa Tokyo」、「TOKYO METROPOLITAN ROCK FESTIVAL 2018」など、ツアーやフェスも続々と決定! 詳細はあいみょん公式サイトのライブスケジュールをご覧ください。
※CDおよびライブ情報は2018年2月17日時点の情報です
<アーティスト公式サイト>
http://www.aimyong.net/
SHARE
Written by