『T2(トレインスポッティング)』あの4人が帰ってきた!
1996年に公開され、世界中に大旋風を巻き起こした映画『トレインスポッティング』。
あれから20年後の続編を、当時と同じキャスト、同じスタッフで描いたのが本作『T2(トレインスポッティング)』です。
あらすじは次の通り。
スコットランド、エディンバラ。
大金を持ち逃げし20年ぶりにオランダからこの地に舞いもどってきたマーク・レントン(ユアン・マクレガー)。
表向きはパブを経営しながら、売春、ゆすりを稼業とするシック・ボーイ(ジョニー・リー・ミラー)。
家族に愛想を尽かされ、孤独に絶望しているスパッド(ユエン・ブレナー)。
刑務所に服役中のベグビー(ロバート・カーライル)
想像の通り?
モノ分かりの良い大人になれずに荒んだ人生を疾走する彼らの再会、そして彼らが選ぶ未来とはーー。
(オフィシャルサイトより引用)
『トレインスポッティング』って?
まずは、20年前の『トレインスポッティング』オフィシャルトレイラーをどうぞ!
前作『トレインスポッティング』は、スコットランドで暮らす4人のジャンキーの明るく悲惨な人生を描いた、90年代映画史に燦然と輝く青春映画。その衝撃は映画界にとどまらず、音楽、ファッションなど、あらゆるカルチャーに多大な影響を与え、90年代ポップカルチャーの代名詞になりました。
日本でもミニシアターで大ヒットし、サントラも大ベストセラーに。スタイリッシュな映像やカメラワークは今見ても新しさがあります。
監督のダニー・ボイルだけでなく、のちに『スター・ウォーズ』で若き日のオビ・ワンを演じることになる主役のユアン・マクレガーも、この映画が出世作。
現在30歳以上でカルチャーに興味がある人は、ほとんどの人がこの映画を見たのではないでしょうか。
(ちなみに筆者が前作を初めて見たのは、中学一年生の頃でした。映画館ではなくビデオで、家のリビングで見ました。親と一緒に……。しかも日本語吹き替え版で……。ベッドシーンとヘロイン注射のシーンの、なんと気まずかったことか……)
「年を取るなんてクソだ」実際どうなった?
前作で「年を取るなんてクソだ」と言っていた4人。20年経ってどうなったのでしょうか?
……クソみたいに年を取りました。この動画を見ると違いがよくわかりますね。
美少年だったレントンはシワの深いおじさんになってしまったし、喧嘩中毒のベグビーはいかにも中年って感じの太り方。それに全員、髪がちょっと薄いし、走るとすぐ息があがっちゃいます。4人のヴィジュアルが物語る20年という時間はあまりに残酷。
それだけの時間が堆積したというのに、4人の中身は、ヘロイン中毒のジャンキーだった20年前とほとんど変わっていません。レントンはアムステルダムでの生活からも逃避。シック・ボーイはゆすりや売春で生活し、スパッドはいまだにヤク中。ベグビーは刑務所暮らし。
『トレインスポッティング』という映画に青春を見出した人にとって、彼らの20年後のこの姿は地獄……。
人生はかくも厳しいものなのでしょうか。
しかし、そんなクソみたいなおっさん4人の新たな物語は、意外にも(?)エモーショナルに展開します。
前作はレントンの物語だったのに対し、今作は4人の物語になっており、それぞれの過去や現在が詳細に語られ、4人全員に感情移入できるようになっています。物語はさらに起伏に富み、様々な伏線が回収され、前作であまり触れられなかった「家族との和解」というテーマにも踏み込みます。
また、前作と同じように、今回もレントンのモノローグにはハッとさせられます。
フェイスブック、インスタグラム、ツイッターを選べ。
結局みんな中毒者だ。何かに依存して生きている。
前作では「選ばないことを選ぶ」生活を続けていた4人が、今作では、全員が「選ぶ」ことを選ぶ……かも?
ラストシーンも素晴らしく、監督のダニー・ボイルは「僕のキャリアが本作のエンディング(中略)で終わったとしても、幸せに死ねるよ!」と語っています。
取り残された人たちーータイトルの意味
トレインスポッティングとは、「電車(Train)を言い当てる(Spot)人」、つまり「鉄道オタク」という意味です。原作では、廃線になった操車場をふらつく4人に対して、酔っ払いの浮浪者が「お前らはトレインスポッティングしてるみたいだ」と言うシーンがあり、それがタイトルになりました。
意訳すると、「トレインスポッティング」とは、「目的のない人生」という感じでしょうか。
しかし映画ではそのシーンがカットされていて、タイトルについて様々な憶測が飛び交いました。有名なものだと、「ヘロインを静脈に沿って打つと、腕にその跡が黒く残り、線路図のように見える。それがタイトルの由来」というもので、これが転じて、トレインスポッティングという単語は、そのヘロインの跡やヘロインを注射する行為、さらには中毒者そのものを指す際のスラングにもなりました(そういう意味でもカルチャーへの影響が大きい映画でした)。
ほかにも、「特定の場所にとどまる」という意味から、クラブに出入りする人を「トレインスポッター」と呼ぶようになったりもしました。
当時のスコットランドは経済格差が相当拡大していて、失業率も高く、どこにも行き場のない若者たちの絶望は大きかったそうです。前作は、そういった若者たちがもがき苦しむ映画、世界から取り残された人たちの映画でもありました。
20年後の続編である本作においては、スコットランドはEUの様々な施作により経済格差もいくぶん是正され、街並みはきれいになりました。西ヨーロッパのどこにでもあるような典型的な街の風景の美しさは、前作と比較すると印象的です。
しかし、こうした経済発展の波からも、4人は取り残されています。
20年前、「スコットランドで一番汚いトイレ」と同様に汚物まみれだった彼らの人生は、20年経ってもそれほど改善されていません。
そんな中、彼らはどのようにして立ち直るのか? 今度こそ本当に自分の人生を選ぶことができるのか? トレインスポッティングな人生とどう折り合いをつけられるのか?
それが今作の大きなテーマのひとつです。
#T2trainspotting The train has finally arrived. Hope you all enjoy the ride.. we certainly did pic.twitter.com/yubEd52bn5
— Robert Carlyle (@robertcarlyle_) 2017年1月27日
(ちなみに、変わらない4人と比べ、女性キャラクターはしっかりと現実を生きているのですよね……。前作でレントンの恋人役だったダイアンも立派になって出てきます。前作をもう一度見直してからじゃないと気づかないかも)
パンフを買うべし!
ところで、この映画、パンフレットがめちゃくちゃ充実してるんですよ!
出演者と監督のインタビューだけでなく、原作者のエッセイに、コラムがなんと9本も! そして作中に使用されている全曲の解説まで! すごい読み応えある! やっぱり、「映画」というジャンルを越えてカルチャー全体に伝説的なインパクトを与えた作品だけに、みんな語りたくなっちゃうんだろうなあ。
映画を見たあとは、ビールなんか飲みながらサントラ聴いてパンフ読むのが正解です。
(これは完全に余談なのですが、スコットランドのビールならオススメは断然ブリュードッグ!!六本木にオフィシャルバーがあるんですけど、ここ、はっきり言って最高です。2014年にアジア初の直営店としてオープンしました。本当にビールの好きな人が集まる場所です。2007年にブリュードッグを創業したビール界のカリスマ、ジェームズとマーティンは「ビールはアートだ」って言ってるんですが、店に行くとよくわかります。青い缶の『PUNK IPA』は見たことある人も多いのでは?)
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