闇テラスハウス?Netflix『REA(L)OVE』が面白い理由
「男女18人が集まり、3日間の沖縄旅行で仲を深め、本気で恋愛できる相手を見つける」
……と言われると、使い古された恋愛ドキュメントに聞こえるかもしれない。しかし、Netflixの『REA(L)OVE』(リアラブ)という番組はちょっと違う。何が違うかといえば、参加者が普通ではない。全員、人には言えない黒い過去を持った人々なのだ。元犯罪者、不倫、借金、AV、などなど……、こうした傷のせいで恋に進めないワケあり男女18人が、真実の恋を見つけるための3日間。言うなれば「闇テラスハウス」のような番組なのだ。
ちなみに、参加者はもともと22人の予定だったが、男性1人女性3人が当日キャンセルしたことで18人になった。キャンセル4名のうち2名の心の傷だけ冒頭で発表されるが、それは「借金500万円の男。すべてを整形手術の費用にしていた」と「風俗嬢」だった。
(Netflix『REA(L)OVE』予告編)
『REA(L)OVE』(リアラブ)のルール
『REA(L)OVE』の基本的なルールは2つ。3日間で恋の相手を探し、最終日に告白すること。そして、全員に「リアルフェイスタイム」が訪れること。
『REA(L)OVE』が特殊なのは、2つ目のルール「リアルフェイスタイム」によるところが大きい。これは、ランダムに選ばれた1人が自分の心の傷を明かす告白タイムのこと。この傷告白タイムによって、参加者それぞれの過去、つまりリアルが明らかになっていく。3日間の旅が終わるまでに全員の傷が発表されるが、順番やタイミングがわからないので、常に謎を抱えたまま物語が進んでいく。
リアルな自分の告白と、それを聞いた参加者たちのリアクション。傷を知らない時点での相手選びと、傷を知ってからの相手選びの変化。真実を知った上で、それを受け入れることができるのか? 実生活で被っている仮面が剥がれ、人間の本性が露わになっていく。
「闇テラスハウス」をホストする田村淳と矢口真里
番組のホストをつとめるのは”芸能界一の恋愛マスター”ロンドンブーツ1号2号の田村淳。アシスタントに矢口真里。このキャスティングの時点で、わりと危険な匂いがする。
たとえば、『テラスハウス』の大きな魅力のひとつは、副音声やスタジオでのコメントにあった。特に南海キャンディーズ山里亮太による毒舌解説(?)はキレが良く、山里が「本番で言いたいけど言いづらかった」ことをぶちまけるためにYouTubeにて配信されている『山チャンネル』も人気が高い。
『REA(L)OVE』においては、その役割を主に田村淳が担う。鋭い分析と的確なコメント、視聴者の気持ちを代弁するような強目のツッコミが冴える。時には参加者を盛大にディスったり、「嫌いなんですよこういう子」と本人を目の前にして詰めたりする。また、頃合いを見てメンバーに席の移動を促すなど、状況に応じて全体をうまくリードしているため、番組が停滞することがない。
リアリティー番組といえども、流れを完全に参加者に委ねているわけではなく、田村淳がプロデュースしている番組だという側面が見える。その具合がちょうど良い。やり過ぎず、あくまで自然に、作品として見た時に面白くなるよう細かい気配りがなされている。こうした手つきは、『ロンドンハーツ』などで長年培ってきたものがうまく発揮されていると言えるだろう。
以下は、『REA(L)OVE』にかんする田村淳によるコメント。
「今まで男女のお見合い企画みたいのを数々見てきましたが、非常に類をみない企画になりました。僕とやぐっちゃんがやっているというだけで、相当ゲスい企画ということはもうお気づきだと思いますが、この企画を聞いたとき俺以外に仕切れる人はいないと思いました。参加者は誰もが心に1つ大きな傷があって恋愛に一歩踏み出せない、でもどこかでその傷を発表しなきゃいけないという。”それを知ってもこの人を愛せるのかどうか!?”という人間ドラマが見ものです。ほかのメディアじゃできないですよ、このゲスさ。そしてこの規模、この感動巨編。ぜひともNetflixでお楽しみください。」
GW暇してる人へ
Netflixで「REA(L)OVE」を観よう
僕は一気に見てしまいましたw
わかりやすく言うと
闇テラスハウスみたいな番組です#リアラブ#realove https://t.co/Jh32CMVmM4 pic.twitter.com/yU752Tll8X— 田村淳 (@atsushilonboo) 2018年5月3日
「傷」=「欠点」=キャラクター論
この番組をキャラクター論という観点から見てみると、『REA(L)OVE』が面白い理由がわかる。
物語を制作する立場の人なら聞いたことがあるだろうが、「物語は強いキャラクターがいれば自然に動いていく」ということがよく言われる。また、「感情移入させるためにはキャラクターを強くしろ」とも言われる。ストーリーの型自体には実はパターンがあって、あらゆる小説、映画、漫画などは基本的にその組み合わせで作られる。だから、ストーリー自体に新たな要素というのはほとんどない。変化をつけるのは、そのストーリーを動かすキャラクターなのだ。ということは、面白い話を作れるかどうかはキャラクター次第ということになる。
良いキャラクターをつくるにはどうすればいいのか? これもよく言われることだが、「何か飛び抜けた属性を持たせろ」というのがひとつの答えである。
たとえば、2018年6月に新装再編版が出た漫画『スラムダンク』なら、主人公の桜木花道には「素人」「ヤンキー」「リバウンドだけ極端に強すぎる」などの飛び抜けた属性がある。ライバルの流川楓は「無口」「いつも寝てる」「全国レベルだが個人プレイしかできない」などなど。「ヤンキーだった男が高校バスケ部に入って全国制覇を目指す」という、言わばありきたりなストーリーに、飛び抜けた属性のあるキャラクターたちを放ち、彼らを関わり合わせることによって、『スラムダンク』は漫画史に残る超名作になったのだった(まあ、『スラムダンク』の面白いところは他にも色々あるんだけど、今は話が散らないようにキャラクターに絞ります)。
もう少し踏み込んで言えば、『スラムダンク』で何が重要だったかというと、ドラマを生むのはそのキャラクターたちの「欠点」なのだということ。リバウンドしかできない桜木花道、個人プレイしかできない流川楓が、その「欠点」によって苦しみ、それを乗り越えようとする時、大きなドラマが生まれる。ということは、「欠点」とは「キャラクターの強さ」とほぼイコールなのだ。
話を『スラムダンク』から『REA(L)OVE』に戻すと、『REA(L)OVE』の参加者たちには全員大きな「欠点」が用意されている。それは誰にも言えない黒い過去、心の傷。多くの人が引いてしまうかもしれない「欠点」だ。特殊な状況で出会わない限り、初対面の相手にはまず伝えない過去だろう。しかしこれがあることによって、『REA(L)OVE』のメンバーたちは強いキャラクターとなってこの物語を動かしていく。そして観ている側は、そうした強いキャラクター=傷=欠点を持った人物たちに強く感情移入する。ここに、『REA(L)OVE』が面白い理由がある。
同じ恋愛リアリティ番組である『テラスハウス』では、いまいち魅力がわからないまま卒業してしまうメンバーが時にいた。しかし『REA(L)OVE』には、「傷」という大きな要素があるため、ほぼ全員に主役級のインパクトがある。その上、田村淳という優れたMCがいるため、相対的にキャラの薄いメンバーに対しても強いインパクトを付与することができる(いちばんキャラの薄いメンバーに「キャラなし」というニックネームをつけてイジり続ける、など)。だから、誰に注目しても面白い。
人間ドラマとしての『REA(L)OVE』
もうひとつ、これも「傷」=「欠点」にかかわることだが、『REA(L)OVE』は人間ドラマとしての面白さも際立っている。
たとえば、誰かが心の傷を告白した際、本当に心無いリアクションをする人物もいる。そうした人物のことを、はじめは「嫌な奴、ヒドい奴」と思いながら観ることになるだろう。しかし、その「嫌な奴、ヒドい奴」も、人には言えない心の傷を背負っているのだ。だから、「嫌な奴、ヒドい奴」が傷を告白をした時、それまでとは印象が180度変わってしまう、ということが何度かある。ひとつの事実によって裏表がひっくり返ってしまう展開があるわけだ。その人物が発したすべての嫌な発言が伏線となり、傷の告白により回収される。これは物語の構造としても美しい。
そしてもちろん、傷を告白した後がドラマとしてはより重要になるわけだが、「”その傷はこの人にしか癒せない”という者同士が惹かれ合う」「”その傷はこの人には絶対に癒せない”という者同士が惹かれ合う」という2つのパターンで物語が進行していたことを知り、さらなるドラマが生まれる……。
というわけで、結果的に『REA(L)OVE』は、いくつかの重要なことを気づかせてくれる。
すなわち、「傷」=「欠点」とは人間の本質なのだということ。他人の傷を知ったあと、その傷は他人事ではなくなる(自分事になる)ということ。傷を告白することで楽になれることがあるということ。誰かの傷と向き合うことで他者に寛容になれるということ。自分や他人の傷と向き合い、相手と真剣に向き合った者だけが誰かに愛されるということ。一方、すべての傷を受け入れられるわけではないということ(人によっては受け入れられない傷というものも確かに存在する)。などなど……。
さらに、『REA(L)OVE』を観ているうち、もっと重要なことに気づく。それは、多かれ少なかれ、ほとんどの人が自分なりの傷を抱えて生きているのだということ。
当たり前のことだが、その傷が本人にとってどれだけ深く重要かということは、外からは客観的に測ることができない。誰もが自分なりの傷を抱えているという意味で、すべての人の人生は、まさに『REA(L)OVE』で起こっていることと本質的には同じなのだ。
冒頭で「参加者が普通ではない」と書いたが、実はこの番組にあるのは、普遍的な人間同士のストーリーなのだった。仮にすべてがフィクションであったとしても、ここにはリアルがある。
クリープハイプ『一生のお願い』
【メディア情報】
4/27(金)0:00〜 Netflixで独占配信される『REA(L)OVE』の主題歌をクリープハイプが担当します!
▼詳細はこちらhttps://t.co/A8bh2TicsW— クリープハイプ (@creephyp) 2018年4月24日
音楽についても少し。『REA(L)OVE』の主題歌を担当するのは、ロックバンドのクリープハイプ。
クリープハイプの一般的なイメージと恋愛リアリティー番組はあまり繋がらないので、彼らの楽曲が使われることに驚いたファンも多いかもしれない(あるいはこれが「闇テラスハウス」的な番組であることを知り、「闇」ならばと納得した人も多いかも?)。
クリープハイプというバンドは、強烈なオリジナリティがありながらも、タイアップ作品においてさらにその個性を発揮するバンドとして知られている。たとえば映画『百円の恋』の主題歌『百八円の恋』、『帝一の國』の主題歌『イト』といった作品が、映画と非常に密接につながり「この映画にはこの曲しかありえない」と思わせるほどマッチしていたことを想起すればいい。完璧な主題歌をつくることができるのはクリープハイプの大きな強みだ。
(映画『百円の恋』Netflixでの視聴はコチラから)
クリープハイプの尾崎世界観(Vo. & Gt.)は、『小説トリッパー 夏号』で加藤シゲアキとの対談において、音楽の作り方についてこんなふうに答えている。
「音楽の場合は、まずテーマを決めるんです。(中略)僕はタイアップがあった方が作りやすいですね。ある程度不自由な方が気合いも入ります」
(『小説トリッパー 2018夏号』「身のある話と、歯に詰まるワタシ」より)
「人には言えない傷を持った人々の恋愛ドキュメント」というテーマの不自由さが、尾崎の気合いを後押ししたのだろうか? 主題歌のタイトルは『一生のお願い』。これが『REA(L)OVE』を全部観てから聴くと、やはり完璧な主題歌なのではないかと思えてくる。
本記事公開時点(2018年6月)において歌詞はまだ発表されていない。しかし『REA(L)OVE』最終回のラスト数分に、ほぼ全パートが流れる箇所がある。注意深く聞いていくと、「一生に一度じゃなくて 一生続いていく」という歌詞があることに気づく。
「一生のお願い」は「一生続いていくもの」。
この歌詞からは「過去の傷も一生続いていくものだ」というメッセージが読み取れはしないだろうか?
傷は乗り越えるものではなく、忘れるものでもなく、受け入れるもの。それはまさに『REA(L)OVE』が示す大きなテーマのひとつだ。
参加者たちのゆくえ
番組内では全員偽名だったが、ネットで調べると、ほとんどの『REA(L)OVE』メンバーが現在何をしているか知ることができる。ネタバレになるので詳しくは書かないが、とあるメンバーのブログが非常に興味深いので、全部観た後に読むことをおすすめします。
『テラスハウス』や『バチェラー』などほとんどのリアリティーショーがそうであるように、『REA(L)OVE』もまた、メンバーたちのその後の動向を追うことで、番組の面白さが深まっていく。各話30分程度、全9話。イッキ見必至の闇テラスハウスをぜひ。
視聴はコチラから。Netflix『REA(L)OVE』
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