(映画『未来を花束にして』予告編。まずはこちらをチェック)
「女性に参政権を! 今こそ行動を」
「将来生まれる少女が兄や弟と同じ機会を持てる——そんな時代のために闘うのです」
「あきらめず闘い続けて。私たちが勝つわ」
馬車の上から。台の上から。建物の窓から。
『未来を花束にして』の予告編で、エメリン・パンクハーストに扮するメリル・ストリープが、常に主人公の目線より少し高い位置から、見下ろす形で聴衆に訴えかけ、笑いかけ、励ます。
その様子のなんと優しく、勇気付けられることだろう。
映画『未来を花束にして』とは?
1/27(金)に公開される『未来を花束にして』は、1910年代のイギリスで起こった実話をもとに、参政権を求めた女性たちの闘いを描いた骨太な作品だ。
当時女性の多くが就労していた職業、洗濯女の主人公は下院の公聴会で大勢の前で語る。
「12歳から社員で、今は24歳です。洗濯女は短命です。 体は痛み、セキがひどく、指は曲がり、ガスで頭痛持ち 」
「賃金は?」
「週13シリングです。男性は19シリングで労働時間は3割短い」
……劣悪な環境だ。
その上、「気分屋で心の平静を欠く女性には、政治判断は向かない」として、彼女たちには選挙権も与えられていない。
何か革命でも起きなければ、女性たちの厳しい環境は、永久に変わることはないのだ。
しかし法律改正の願いは届かず、デモに参加した大勢の女性が警官に殴打され、逮捕されていく。
正直、見ていてとても辛い。私たちは本作に描かれた時代を、とても「歴史の1ページ」「昔の話」と思うことはできない。
なぜ辛くなるのか?
それは100年前のロンドンの女性たちの境遇が、信じたくないけれど、今の自分たちとそう遠くないように思えてならないからではないだろうか。「中絶をする女性は罰せられるべきだ」と宣言し(後に批判が殺到し、発言を修正したが)、「デブとブスとグズの女は大嫌いだ」「スターなら女性に何でもできる。pussy(女性器)を鷲掴みにしてな」と語る男がアメリカの代表となるようなこの時代に。
監督のサラ・ガヴロンが、1910年のロンドンでWSPU(Women’s Social and Political Union)のカリスマ的リーダーであった実在の人物、エメリン・パンクハーストの役に、メリル・ストリープを起用したのはなぜだろう。
もちろん、『英国王のスピーチ』(10)、『レ・ミゼラブル』(12)のヘレナ・ボナム=カーター、『17歳の肖像』(09)、『わたしを離さないで』(10)、『華麗なるギャツビー』(12)のキャリー・マリガン、そして『ソフィーの選択』(81)『めぐりあう時間たち』(04)『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』(11)のメリル・ストリープと、本作の主演女優3人は、ヨーロッパを代表する文学作品や、本作と同じように実話を描いた文芸作品で数々の主演を勤めてきた錚々たる顔ぶれであるから、それは大きな理由に違いない。
加えて、脚本は『マーガレットサッチャー 鉄の女の涙』(11)のアビー・モーガン、制作は『ブーリン家の姉妹』(08)、『ジェーン・エア』(11)のアリソン・オーウェン、フェイ・ウォード。
’00年代から’10年代にかけて、世界の先頭を切って女性を描いてきた代表者たちと言えるだろう。
だが、きっとそれだけではない、と私は思う。
先日、ゴールデングローブ賞でセシル・B・デミル賞を受賞した際のメリル・ストリープのスピーチは、日本でも大いに話題となった。
選挙運動中に障害のある記者の真似をしてからかったドナルド・トランプに対して、メリル・ストリープは彼へのバッシングを話のメインにはせず、自分と異なる者に共感し、それを演じ、彼らのことを多くの人に知ってもらう、俳優という仕事の素晴らしさを強調したスピーチをし、多くのアメリカの人の心を勇気づけ、癒した。
映画『未来を花束にして』予告編で胸が震える理由
『未来を花束にして』の予告編に、なぜこんなにも胸が震えるのか。
それは、今の私たちにとって、かつて1910年の女性たちがリーダーとして慕ったエメリン・パンクハーストの姿の奥に、現代のメリル・ストリープ本人の姿が、一瞬重なるからではないだろうか。
「私はつまらない人間です。ずっと男性を尊重し従ってきました。でももう耐えられません」
そんな風に言っていた主人公・モードの、彼女に手を置かれ、励まされたときの感動は、一体どれほどのものだっただろう。
カメラはなぜ下からのアングルで、主人公を見下ろすメリル・ストリープの顔を撮ったのか。
それは私たちに、主人公と同じ目線で彼女の顔を見せるためではないか。
『トランプなんて大変な人物が大統領になるなんてアメリカは大変だ、と言っている人があるが、私は日本の方が深刻なのではないかと感じている。もちろん、日本への悪影響は言うに及ばずであるけれども、それより日本には、メリル・ストリープがいない』
そう語るのは、コラムニストの松尾貴史。
毎日新聞の日曜版「松尾貴史のちょっと違和感」というコラムでの一文だ。
確かにそうかもしれない。
日本で政治家が女性差別的発言をしても、彼女のように世界に注目される場で、堂々と声を上げ、痛烈に批判するスターはいないだろう。
でも、空想の世界は国境も人種も越える。日本に声を上げるスターが今日明日に出てくることを期待するのは難しくても、映画を通してなら、感じることができる。
私たちにだって、エメリン・パンクハーストはいる。
いつの世も、辛い時代にこそ、台に上って声を上げ、私たちの上から「諦めるな」と励ましてくれるカリスマが必要だ。
女性差別的な男が大統領としてトップに立つのを毎日テレビで当たり前のように見ていると、女性がモノのように扱われ、尊重されなくても、仕方がないような気がしてしまうことがある。普通ではないことが、普通のこととして日常に飲み込まれていく感覚。
選挙権のために体を張って闘った女性たちに、性別によって軽んじられることなく、私たち一人一人がかけがえのない存在なのだと信じさせてもらうために、本作を見に行きたい。
私たちは、主人公と同じ気持ちでエメリン・パンクハーストの言葉を聞けるはずだ。
「あきらめず闘い続けて。私たちが勝つわ」
映画『未来を花束にして』
思想も教養も富もない、私はひとりの母親。ただ我が子のその手に、希望をつなぎたかった。これは、女性の参政権を求めて立ち上がった”名もなき花”の、真実に基づく物語。
2017.1.27(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開。(公式Facebookページより抜粋)
監督:サラ・ガヴロン
脚本:アビ・モーガン『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』
出演:キャリー・マリガン『華麗なるギャツビー』、ヘレナ・ボナム=カーター『アリス・イン・ワンダーランド』、ベン・ウィショー『007 スペクター』、メリル・ストリープ『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』
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Text_Bega Hoshino
Edit_Sotaro Yamada
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