4/8(土)より、映画『ぼくと魔法の言葉たち』が公開されています。
本作は、アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされ、「アニメのアカデミー賞」とも言われるアニー賞で特別業績賞を受賞。
自閉症というテーマを扱いつつ、コミカルでほっこりして、さらに泣けるという、とてもステキな映画になっています。本記事では、映画のあらすじ・みどころと、劇場で行われているちょっと面白い試みをご紹介。
映画「ぼくと魔法の言葉たち」とは?
(映画『ぼくと魔法の言葉たち』予告編。まずはこちらをチェック!)
あらすじ紹介
「自閉症により2歳で言葉を失い、孤独な世界に閉じ込められた少年オーウェン。本作は、彼が家族の愛情とサポートのもと、大好きなディズニー・アニメーションを通じて徐々に言葉を取り戻していった様子と、障害を抱えながらも底抜けに明るく、前向きに社会と向き合い、自立を勝ち取るまでの姿をユーモアたっぷりに、そして感動の涙とともに描く傑作ドキュメンタリーだ。メガホンを取ったのは、アフリカ系アメリカ人監督として初めてオスカーを受賞した経歴を持つロジャー・ロス・ウィリアムズ。劇中には映画に感動したディズニー社から異例の使用許諾を受け、ディズニー・アニメーションの名作たちが数多く登場している。」(オフィシャルサイトより引用)
二歳で言葉を失い、自閉症と診断され、医師からは「もう二度と話せないかもしれない」と言われたオーウェン・サスカインド。映画冒頭では、悲しみ途方にくれるオーウェンの父・ロンと、母・コーネリアの姿が映し出されます。それから四年間、オーウェンと家族は言葉を交わせない日々を過ごします。
そんな日々に変化が訪れたのは、オーウェンの二歳年上の兄・ウォルトの9歳の誕生日パーティーでのこと。パーティーが終わり、みんなが帰ってひとり寂しそうにしているウォルトを見て、オーウェンは突然こんな言葉を呟きます。
「お兄ちゃんは子どもでいたい。モーグリやピーターパンだ」
突然オーウェンが発した言葉に両親は驚きます。
そして、単なる単語の羅列ではないこの完璧な文章や、兄の気持ちへの分析から、オーウェンがディズニー映画を通して現実世界を理解しようとしていることに気づきます。
その後のシーンが印象的です。
オーウェンの部屋に入って行く父・ロン。オーウェンはひとりで何かモゴモゴ呟いています。
ロンはベッド脇に隠れ、おそるおそる『アラジン』のキャラクターであるオウムのイアーゴのモノマネをしてオーウェンに話しかけます。
「オーウェン、お前でいるのってどんな感じ?」
するとオーウェンは、イアーゴの相方であるジャファーになりきってこう答えたのです。
「楽しくないよ。友達がいないからね」
実に、四年ぶりの会話。
「もう話すことができないかもしれない」と言われていただけに、このシーンはとっても感動的……
と思いきや、むしろ笑いを誘うシーンになっています。
というのも、この会話、先ほど述べた通り、『アラジン』の登場キャラクターのモノマネを通して行われているからです。
ジャファー(オーウェン)は邪悪な大臣で、魔法のランプを手に入れて王位に就くことを企んでいる、いわばアラジンの敵。オウムのイアーゴ(ロン)は、ジャファーのペットであり参謀で、いつもはオウムらしくジャファーの言葉をオウム返しする存在。コミカルなキャラクターになりきって会話が行われるために(しかも二人とも渾身の演技!)、涙を誘うはずのシーンに、笑いが生まれるのです。
こうして、ディズニー映画を通した「オーウェンを取り戻す」ための作戦が始まります。
【ジャファー】(アラジン)
アグラバーの国務大臣で魔法使い。王座を密かに狙う利己的なサディスト。コブラの杖で心を操る。最初からではなく、のちに強力な魔力を得て強くなる珍しい悪役。喋るオウムのイアーゴを連れ、こき使っている。pic.twitter.com/X4XrMm01xb— ヴィランズ豆知識bot (@Dvillains_bot) 2015年12月19日
みどころ1「これは何のキャラクターでしょう?」
本作にはディズニー映画のキャラクターがたくさん出てきます。「こんなキャラ、いたっけ?」と思わず言ってしまいそうになるような、思い出せそうで思い出せない脇役まで。
たとえば、ジミニー・クリケット、セバスチャン、ラフィキ、マーリン、ビッグ・ママ、バルー、フィル、などなど……。
みなさん、何人わかりましたか?
ディズニー映画が大好きな筆者からすれば、とても良いところを突いてくるなあ!という感じです。「あ、これはあのキャラクターだ」「これはあの映画のあのシーンだ」なんていうふうに、ゲームみたいに考えるのが楽しくなる、そんな映画です。
みどころ2「ドキュメンタリーとアニメーションの融合」
本作には、二種類のアニメーションシーンが挟まれています。
ひとつめは、様々なディズニー映画のアニメーション。オーウェンが何かを強く感じる時、ディズニー映画のワンシーンが差し込まれます。一人暮らしをするための荷造りをしたくない時には、「明日から一人部屋になるの。半分大人に」と悲しげに言うウェンディ。勇気が欲しい時には、一歩一歩丘を登る子ども時代のヘラクレス。現実とアニメがシンクロすることによって、オーウェンの感情が、観ている私たちにより強く響きます。ディズニーが映像使用を許可するのは異例ですが、監督のロジャー・ロス・ウィリアムズによると、ディズニー側もこの映画のプロジェクトに感動し、快諾してくれたのだとか。
もうひとつは、オーウェンの頭の中を映し出す美しいオリジナルアニメーション。この仕掛けによって、私たちは映画を外から観るのではなく、内側に入って観ることになります。それはつまり、オーウェンの内なる世界を「体験すること」と言って良いでしょう。劇中に挿入されるオリジナルアニメーションがYouTubeにて公開されています。
(『迷子の脇役たちの国』特別映像。子ども時代のオーウェンが作り上げた話を、世界的なVFXスタジオ「マック・ガフ」のアニメーターがアニメ化)
こうした「ドキュメンタリーとアニメーションの融合」によって、オーウェンを取り巻く世界がいくつもの層になって表現されています。実写だけでなくアニメーションでも楽しめることが、本作の特徴のひとつです。
みどころ3「家族の愛の物語、または自分の人生を見つけるための努力の物語」
物語の芯は、自閉症のオーウェンがどのようにして「自分だけのオリジナルの人生を見つけられるか」にあります。
本作には、自閉症の専門家や医師たちとのシーンはほとんどありません。むしろ、オーウェン自身の葛藤、誰にでもある思春期の悩み(恋愛やセックスの問題も含みます)、また彼を支える家族、恋人、友人たちとのやり取りに焦点を当て、ひとりの人間の成長譚として映画は語られます。
つまり本作は、自閉症と正面から向き合いつつも、自閉症であることを特別視したり、差別したりしていないということです。その結果、自閉症についての理解を促すだけでなく、とてもコミカルでエモーショナルな、エンターテインメントとして優れた作品に仕上がっているのです。
バリアフリー上映、フレンドリー上映、ママ割引
また、劇場ではちょっと変わった、面白い試みがなされています。
・バリアフリー上映
UDCastというアプリをダウンロードすることによって、目の不自由な方なども、音声ガイドで映画を楽しむことができます。
・フレンドリー上映
普段の映画館より明るめの照明の中、声を出したり、席を立ったりできる「フレンドリー上映」が行われています。障がいのある人や子育て中の人が気兼ねなく映画を楽しめるための試みで、日本の映画館では初の実施です。シネスイッチ銀座では、毎週火曜、二回目の上映が、フレンドリー上映となります。
・ママ割引
マタニティマークを持参すると、割引料金で映画を観ることができます。
こうしたいくつかのユニークな試みからは、「多様性の肯定」というテーマが浮かび上がってきます。映画のテーマと上映方法がリンクした貴重な例と言えるでしょう。また、昨今の社会情勢を鑑みると、実に意義深いことなのではないでしょうか。
映画『ぼくと魔法の言葉たち』は、4/8(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国の映画館にて公開中です。ぜひこの機会に、本作の豊かな想像力に触れてみてはいかがでしょうか。笑えて、ほっこりして、泣けて、たくさんの学びがあるステキな映画です。
作品情報
自閉症により2歳で言葉を失い、孤独な世界に閉じ込められた少年オーウェン。本作は、彼が家族の愛情とサポートのもと、大好きなディズニー・アニメーションを通じて徐々に言葉を取り戻していった様子と、障害を抱えながらも底抜けに明るく、前向きに社会と向き合い、自立を勝ち取るまでの姿をユーモアたっぷりに、そして感動の涙とともに描く傑作ドキュメンタリーだ。メガホンを取ったのは、アフリカ系アメリカ人監督として初めてオスカーを受賞した経歴を持つロジャー・ロス・ウィリアムズ。劇中には映画に感動したディズニー社から異例の使用許諾を受け、ディズニー・アニメーションの名作たちが数多く登場している。
(オフィシャルサイトより抜粋)
監督:ロジャー・ロス・ウィリアムズ
映画『ぼくと魔法の言葉たち』オフィシャルサイト
Text_Bega Hoshino
Edit_Sotaro Yamada
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