劇中に通底奏音として流れる、洒落た感覚
――「ファッション映画」という分野で括られる映画ではないかもしれませんが、劇中の着こなしも洒落ていて印象的でした。着物を着ている女性はみんなしゃんとしていて、主演のこだまさんもクラシックなスタイリングで。
佐伯 : 劇中の着物は、全て大正時代のものを用意してもらいました。浅草とか京都って、若い子が着物で街を歩いたりするじゃないですか。着物を着る文化は素晴らしいと思うんですけど、レンタル用に設えた着物と、ビンテージの着物は全く別物なので。若い人には、せっかくならば本物に触れてほしい。映画を観た人が何か感じてくれたら嬉しいですね。
――そういった着物ですけれど、[東京蛍堂]では実際に、どんな方が買われている印象ですか?
稲本 : 一般の人はもちろん、海外のファッションデザイナーもよく来て買っていきますね。以前お店に来た某有名メゾンのデザイナーは、帯を20枚くらい買っていきましたよ。あとは「日本人が仕立てた洋服」もですね。洋服なら自分たちの国、ヨーロッパにも、たくさんあるじゃないかと言ったんですけど。買ったばかりの日本の洋服の裏地を見せてきて、「こんな真面目な縫製は、日本人じゃなきゃできない」って言うんです。
佐伯 : 日本で古着っていうと、どうしてもアメリカ、ヨーロッパのイメージが強いと思いますが、日本の古着も実はすごく良いんですよね。当時のアメリカのスタイルを取り入れているけど、形とかは日本人サイズに修正されていたり、縫製のクオリティはすごく高い。
稲本 : 日本の洋服の話でいうと、小津映画の男性の着こなしが気になって見てしまいます。ニッカポッカ着てたりするじゃないですか。すごい好きなんですよ、ニッカポッカ。胴長短足の日本人体型でも、西洋に負けまいと、立派に見えるように頑張った断片を感じるというか。戦後の進駐軍払い下げのズボンを紐でグッと絞って、すこしでも良く見せようと自らを鼓舞するハイブリット精神、力強く生きる姿勢にグッときます。
――映画やドラマに出てくる人物に、格好いいなって感じることってありますよね。『ゆめのまにまに』では、洋服に限らず、劇中の人物の佇まいや素振りもどこか洒落てるなって思いました。主演のこだまさんが、古い食堂でご飯をかっこんでたりするのも妙に素敵で。
佐伯 : [東京蛍堂]の近くの[水口食堂]ですね。
――単にレトロとかではなく、その街の人から愛されている、本当に残るべくして残っているお店だと思うんです。新しいお店ではないし、世間一般の「格好いい」の王道、最先端みたいなことではないと思う。でも、そこで男らしくご飯をかっこむ姿が、逆に新鮮というか。
稲本 : [水口食堂]もですし、同じく浅草の名店だと、洋食屋の「ヨシカミ」とかも本当に最高ですよ。もちろん浅草にも新しい店はたくさんあるけれど、昔ながらの風情のある素晴らしい場所も確かに残っていて。もし近くに来ることがあれば、そういった場所の魅力も味わってほしいなぁ。
サブスク全盛、1.5倍速で映画を見る人も増えた時代に
ゼロから映画を作る意味
――劇中では村上淳さんが、店主役として稲本さんを演じていますね。お店にいるときは何かを修理しているのか、手を動かしていることが多く、そのシーンもすごく印象的でした。稲本さん自身も、実際にお店にいらっしゃるときは、何かを修理をして過ごすことが多いですか?
稲本 : そうですね。物を直すって、その物の機能を理解することなんです。例えば1000年間同じデザインで作られ続けてきた茶釜を一度分解して構造を知ると、一つ一つの形状に理由があることがわかるはず。いまの若いデザイナーの子に言いたいのは、華美な装飾に頼るんじゃなくて、一回全部バラしてみてはどうかと。何がどういう理由で必要なのかを理解した上で、自分なりの工夫を凝らしたらいい。型を知ってはじめて、型破りができるから。古い物から学べることって、たくさんあって、悩んだら大人に聞くのではなく、物を見ればいいと思う。人が作った古いものって、気泡が入ってたり、すこし雑味があることも多い。でもそういう「歪み」みたいなものを自分の人生と照らすことができるからこそ、かけがえのない愛おしいものになる可能性を秘めていると思うんです。
佐伯 : 稲本さんは骨董とか古いものを蘇らせる、伝えていく、引き継いでいく仕事ですよね。僕はエンターテインメントの分野で、そういう伝承、みたいなこともやっていかなきゃいけないのかなって思うんです。ただ、僕自身が時代に置いていかれそうで、ついていくのが精一杯で。
稲本 : 黒澤明監督や小津安二郎監督が出てきた頃、まさしく日本映画が世界に行った時代でしたね。
佐伯 : ではその時代が最高で、それ以降は誇れる日本映画がないか?といえば、決してそうではない。90年代にも、2000年代にも2010年代にも、素晴らしい映画ってたくさんある。その一方で評価されずに、消えてしまっている作品もたくさんある。映画の観られ方も変わって、Netflixとか、サブスクでたくさん観れるのも理由かもしれません。もちろん、映画館にこだわらずとも、映画を観る機会が増えたということは良いことだと思います。でも、やはり映画館に足を運んで、大きなスクリーンで“その時間”と共に映画を楽しんで欲しいですね。
稲本 : 1.5倍速とか2倍速で観ている人も、増えてるようですしね。小津映画特有の「間」とかは、倍速じゃ絶対味わえないですよね(笑)。だからこそ、そんな逆境の時代に映画を作ることに、すごく共感しますよ。僕だってネット通販全盛の中で「賃料を払って店を構える意味ってなんだろう?」と考えますし。
佐伯 : 今回作った映画『ゆめのまにまに』だって、どのくらいの人に商業映画として捉えてもらえるか正直わからないです。通常はわかりやすいストーリーの方が観やすいけれど、この映画には、そういうのはないから。だけど人間の呼吸というか機微というか、こういう穏やかな日常にもドラマはあって。それを至って真面目に伝えたかったんです。あとは稲本さんがやっていることやメッセージ自体が、映画や音楽、もの作りに携わる人にとっては共通言語だと思っていて、いろんなものに対応できるメッセージだと思うから。何かを感じてくれて、あぁこの映画、こういう映画を後世まで残したい。そう思ってくれる人がひとりでもいいからいたら。そんなに嬉しいことはないですね。
映画『ゆめのまにまに』
2022年11月12日(土)より東京・ユーロスペース他、全国順次公開
公式サイト
https://yumenomanimani.com/
酔蕩天使
酔蕩天使 1st Album / 7inch Jacket『ヨイテン』(HILLS RECORDS)
2022年11月23日(水) 発売&配信リリース
https://www.yoiten.com/post-281/
〜収録曲〜
1.落第ブルース(バイト編)
2.タクシードライバーブルース
3.サンローゼ
4.悲シマズ
5.石物語
6.卒業年華
7.爪が伸びてますね
8.コ・ウ・カ・イ
定価:¥2,000(税込)
1stアルバムリリース記念ワンマンライブ
With ディケイド30周年映画『ゆめのまにまに』公開記念感謝イベント
日程:11月25日(金)
時間:OPEN 18:00 / START 18:30
ゲスト出演:Kitri
会場:東京・渋谷 DUO MUSIC EXCHANGE(http://www.duomusicexchange.com)
住所:東京都渋谷区道玄坂2-14-8 O-EASTビル1階
チケット料金:2,500円(税込・別途ドリンク代 600円)
一般発売:2022年11月5日(土) 正午12時〜 イープラスにて発売開始(https://eplus.jp/sf/detail/3746890001-P0030001)
お問い合せ:DUO MUSIC EXCHANGE Tel:03-5459-8711(平日12:00〜19:00)
主催:J-WAVE MUSIC
企画制作:ディケイド
東京蛍堂
営業時間:11:00-20:00
定休日:月・火(祝日は営業)
住所:東京都台東区浅草1-41-8
電話:03-3845-7563 または 09054384223
公式サイト
http://tokyohotarudo.com/
ディケイド
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