Wヴァイオリン(TAIRIKU、KENTA)とピアノ(SUGURU)からなるインストゥルメンタル・ユニット、TSUKEMEN(読み:つけめん)。全員音大出身のエリートグループが、11thアルバム『時を超える絆』をリリースした。
これまでボーカルを迎えたことのないグループだったが、アルバム表題曲『時を超える絆』では合唱を取り入れ、大胆に新境地を開拓。さらに、作詞はTAIRIKUの父・さだまさしが担当し、結成11年目にして初めて親子での共作が実現した。他にも、意外なカバー曲や初めての組曲に挑戦するなど、初めてづくしのアルバムは、彼らの音楽の射程距離を広げてくれそうだ。
『時を超える絆』の製作を経て自分たちの「絆」を再確認したという3人。彼らが考える「絆」とはどんなものだろう? そのような「絆」を構築するために必要なものとは? 鍵となるのは「信頼」と「思いやり」だった。
Photography_Hiroaki Noguchi
Interview & Text_Sotaro Yamada
Edit_Miwo Tsuji
満場一致で選ばれた曲
――今回のリード曲『時を超える絆』は、何曲もボツにした末にできた作品だそうですね。
SUGURU : 5曲、ボツにしました。曲づくりは、メンバー3人で作曲パートを分担したんです。たとえばAメロはTAIRIKU、Bメロは僕(SUGURU)、サビはKENTAさん、というふうに。リレー形式でつないで6パターンの曲をつくり、メンバー・スタッフみんなで投票して決めました。誰がどの曲に投票したかわからないようにしたのに、全員がこの曲を選んだんです。
TAIRIKU : 他にも良い曲はあったけど、これに関しては悪いところが見当たらなかったんです。落としようがなかった。わりと王道な曲ではあったと思いますが。
SUGURU : 高校生が合唱するということを考えると、「メッセージ性」「楽曲の持つパワー」「あたたかさ」そして「わかりやすさ」など、総合的にこの曲がいちばん良く思えたんです。
KENTA : メロディの連結がいちばん自然だったんですね。どこかに突出して異なる雰囲気のパートがあると、歌う方も聴く方も、少し掴みづらいものになってしまう。同じ温度で最後まで進んでいく、という感じがこの曲では出せたと思います。
TAIRIKU : しかも最初につくった曲がこれだったんです。
SUGURU : 何曲もつくっていくと、次第にみんなちょっとずつ狙い始めてしまうんです。引っかかりがほしくてつい尖ったものにしてしまう。でも1曲目は心から出てくるものだから、素直さがあったんだと思います。
KENTA : レコーディングでも、1テイク目が良いことって多いんです。やはり考えすぎると硬くなってしまうんですね。
――前回のアルバム『X(テン)』は、生音ではない音を入れるなど挑戦的な1枚だったと思います。あの時は「いつかボーカルとコラボするのもアリかもしれないですね」とおっしゃっていましたが、まさか、いきなり合唱で来るとは(笑)。
KENTA : 曲自体は、2018年の秋頃に長崎の浦上天主堂という教会で行ったスペシャルライブのための書き下ろしでした。その1回しか演奏する予定はなかったんです。でも、かなり想いを込めてつくったし、1回で終わりにするのはもったいないと思うようになって。どうせなら次のアルバムの表題曲くらいの扱いにしたくなった。
――YouTubeにアップされている浦上天主堂のライブ映像を見ました。あの場所であの曲、そしてあの合唱という組み合わせには、どうしても「神」的なものを感じずにはいられません……動画であれほどの迫力があるのなら、ナマで見たらどうなってしまうんだろうと。
TSUKEMEN『時を超える絆』浦上天主堂ライブ
SUGURU : 詞、曲、アレンジ、歌い手の気持ち、みんなの気持ちが同じところで繋がった気がしましたね。
「心を込めて歌う姿に動かされた」
――今後ライブでやる場合、お客さんもふくめて合唱することになるんでしょうか?
SUGURU : いや、それはなかなか難しいんじゃないかな……。僕らのお客さんは「音楽を聴きにくる」方が多いので。そのうち慣れてきたらサビくらいは歌ってくれるようになるかもしれないけど、どんなふうに育っていくかわからないですね。
KENTA : ステージにはあがれないけど一緒に歌いたいお客さんもいると思うんです。そういう方々が口ずさんでくれるようになったらすごく嬉しいですね。コーラス部の子たちはすごく一生懸命練習してくれているので、それを見たご家族の方々が一緒に歌ってくれて、少しずつ輪が広がっていく……ということもあれば嬉しい。
SUGURU : 『時を超える絆』のキモは、やはり歌ってみることにあると思うんです。自分で歌って歌詞を読み解くことで、決して自分がひとりでは生きていないことを実感できる。
――収録されている声は、浦上天主堂のコンサートでも歌われた聖和女子学園高等学校のコーラス部の方々なんですか?
SUGURU : そうなんです。あの子たちが、ライブのあとにも歌いたいと言ってくれて、動画を送ってくれたんです。それがもう、びっくりするくらい心を込めて歌ってくれている動画で。その姿に本当に気持ちを動かされて、これはもう、長崎に行くしかないと。
――合唱を入れることに抵抗はなかったんですか?
SUGURU : 声もひとつの音楽なので、あまり抵抗はなかったです。歌とバイオリンとピアノがうまく混ざってくれたし。
――それにしてもすごい衝撃でした。
TAIRIKU : それは嬉しいですね。僕らのお客さんは衝撃に慣れてしまっているので(笑)。
KENTA : メンバーが2人くらい変わらないと驚いてくれないと思いますよ(笑)。
さだまさしはやはり天才
――さだまさしさんが作詞を担当していますが、これはどういった経緯だったんでしょうか?
SUGURU : 先に曲ができていて、歌詞をどうするか悩んでいたところ、聖和女子学院のみなさんから、まさしさんにオファーがあったんです。
TAIRIKU : 父が長崎出身ということもあり、長崎発信で平和のシンボルとして歌詞をお願いしたい、ということでした。僕を通したりせずに、正規ルートからの依頼で(笑)。
SUGURU : やっぱりTAIRIKUからお父さんにお願いするのは、本人も僕らも少しひっかかるところがあるんですよね。まさしさんも「親子だから」というのは受け付けていないと思うし。正規ルートで来てくれたおかげで、11年目にして初めてコラボレーションができました。やはり超一流のミュージシャンなので、本当に心に迫る歌詞でした。
――しかも、明らかに歌う場所をふまえたうえで作詞していますよね。「守る」ではなく「護る」という字をあてているところや、終盤にさりげなく「神様」という言葉を入れているところなど、さすがだなと思いました。
TAIRIKU : 父とは数えるほどしか同じ舞台に立ったことがなくて、ましてや共作なんて本当に初めてのことでしたけど、とても良いコンセプトの作品ですし、躊躇なく自然にお任せすることができました。
――父親に歌詞を書いてもらうというのは、どういった感じなんでしょう? あまり想像できないシチュエーションです。
TAIRIKU : いや、そんなに改まった感じではないですよ。「書いたよ」って渡されて、「何これ、超天才じゃん」って(笑)。
――さだまさしさんがバイオリニスト志望だったことは有名ですけど、今回こうして共作できたことは、ある意味で「時を超えて」若き日のさださんの夢が叶ったとも言えるわけですよね。
TAIRIKU : どうなんでしょう。そのへんどう思ってるのかわからないな。取材してみてください(笑)。
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