(ギターという楽器について)音がなるものとしか感じていないですね
ーー戸渡さんといえば、<ギター侍>というイメージを持っている人もいらっしゃるかと思います。ギターという楽器について、戸渡さん自身はどう捉えていますか?
戸渡:…音がなるものとしか感じていないですね。好きですし愛情もありますけど、実はそこまで強いこだわりはないんです。コレクター的な愛情もなくて。ピアノとか響き方や音色がそれぞれに違う、そういうのが良いなと思っているんです。
ーー音色そのものに興味がある、という感じでしょうか?
戸渡:そうですね。ピアノもアコギもエレキも好き、という感じで。
ーー今作の1曲目は「Beautiful Day」で、アコースティックギターであれほどのパフォーマンスができる方のフルアルバムの1曲目が、イントロがピアノというのが驚かされたんです。1曲目にこの曲を置いた理由はなんだったんでしょうか?
戸渡:楽器のことは考えていなくて、ピアノでこの曲を作ったんですけど、開いていく感じがしたんです。個人的に聴いてほしい曲は「Beautiful Day」「Sydney」「全ては風の中に」の3曲で、その中で1曲目になるといえばこの曲かなと思って選んだんです。あと、この曲はこのアルバムをうまく説明しているような1曲だなと思えたんです。
ーーなるほど。この曲ではどんなメッセージを込めたんでしょう?
戸渡:僕みたいにミュージシャンや画家とか芸術家の人だったり、言葉は悪いですけど、社会からドロップアウトしてしまったりして、社会からは少し離れてしまった人がわりかし多くいるように思えるんです。そういう人のほうが、美しい瞬間をより多く見ているように思えたんです、そういう人達に向けて歌ったというのはあります。それとは別に、大学で音楽を作っていたけど、就職しなきゃ・・・といって音楽をやめてしまうような人もいるじゃないですか? そういう人に美しい瞬間を忘れてほしくないなという気持ちも込めて作りましたね。
ーーそのあとに2曲目から「Sydney」「SOS」「Nobody Cares」「ギシンアンキ」と続きますが、ここで面白いのは、それぞれにモチーフは違えども「愛」という言葉が代わる代わるに出てきて歌われている点です。その後には一旦は「愛」という言葉を出さなくなり、「すべては風の中に」のなかで<すべてを愛していけたら たとえどんな過ちの過去も無償の愛で許せるはずなのに>と歌われている。この作品のテーマとなっているのは、<愛>であったり<救われる>ということじゃないかな?と思えたんです。
戸渡:ええ、そうですね。
ーーもしも戸渡さん自身の中で、今作を通して伝えたいテーマがありましたら、ぜひ話していただきたいです。
戸渡:そうですね。愛というのは単語や言葉では形容できない、いろんなかたちの愛があると思うんです。「Sydney」では恋愛風に書いてみたり、「Nobody Cares」では本音と建前で揺れている葛藤も出てくるし、「ギシンアンキ」では信じていないところから信じてみようと思い切る歌ですよね。愛ってもっと包容力があって、どんなものさえも受け入れてくれるような、赦し赦されるものとしてあると思うんです。わりとボンヤリと感じてはいるんですけど、この作品を通してそれを受け取ってもらえたらすごく幸せですね。
自分のなかにある音を具現化したいという欲求が高まってきている
ーー今作のプロデューサーと参加ミュージシャンは錚々たるメンバーが名を連ねています。深沼元昭さん、mabanuaさん、高桑圭(Curly Giraffe)など、彼らに出会ってみてどんな印象を受けましたか?
戸渡:深沼さんはこれまでの作品にも立ち会っていただいて、今作でも7曲をプロデュースしてもらっています。タンスから服を出すように、僕の中からポンっと音楽的な財産を引き出してサウンドに散りばめてもらってきたんですが、2年という時間のなかで距離感がどんどんと近づいてきて、アイディアを出し合いながら楽曲を作っていける感じですね。
ーーサウンドメイキングはどの程度までやられているんでしょうか?
戸渡:実は深沼さんがほぼほぼ作られていて、僕がこうしたいという意見をドンドンぶつけていく感じです。mabanuaさんはブラックミュージックに造詣が深いからか、僕の中にあるブラックミュージック要素を引き出してくださいました。ゴスペル的なコーラスワークが出てきたりして、陰ながらも僕自身が好きだったものをポンと出してくれたのは嬉しかったですね。
ーー高桑圭(Curly Giraffe)さんはどうでしょう?
戸渡:Curly Giraffeさんは「Nobody Care」をプロデュースしてくださったんですけど、ぶっちゃけ毎日リピートするくらい大好きですね(笑)
ーーわかります。僕もこの曲のアレンジメント、フィードバックノイズやサイドで鳴っているメロディに聞き惚れてます。
戸渡:最初に僕が作っていたのは、もっとフォークな感じだったんです。でもCurly Giraffeさんに音を送ってアレンジメントされたものを聞いたらものすごいコーラスワークと音空間の使い方で、酒飲んだらトリップしちゃいそうだなってくらいで驚きましたね。僕はワールドミュージックが好きなんですが、その質感を思い出したんですよね。
ーー音使いが非常に巧みですし、綺麗な音色がそろっていていいんですよね。
戸渡:そうなんですよ。コーラスワークも非常に参考にしたし、立体的な音空間の作り方も非常に参考になりましたね。今回、お三方の制作作業を間近で見ていて、自分のなかにある音を具現化したいという欲求が高まってきていて、Logic(Mac OS Xで動作する音楽制作ソフト)使ってやり始めたところなんです。
ーーおお、それはすごいですね。お三方が戸渡さんにとっての師匠になると。
戸渡:先日、深沼さんのところに行って「こんなのできたんですけど、どうですか?!」「おーいいじゃんいいじゃん!ドラムはこういう感じで〜」といろいろレクチャーを受けましたね。
ーーギターやピアノ1本で作曲をやっていくよりも、そういったソフトを使って、サウンドそのものをトータルで作っていきたいという感じなんですね。
戸渡:そうですね。そっちのほうが気持ちは強くありますね。やりたいし、知りたい、そういうのに首を突っ込んでいたいなと(笑)。
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