1992年生まれと聞くと、日本サッカーを愛する人ならすぐさまプラチナ世代を思い出すだろう、日本サッカーの今後を期待される世代の総称だ。彼らと同世代、むしろ彼らと戦ったことがあるというミュージシャンがいる、それが今回の主人公、戸渡陽太(とわたりりょうた)だ。
今回のインタビューでは、サッカーに明け暮れていた彼が音楽に目覚めたきっかけを皮切りに、メジャーデビューとなった今作『I wanna be 戸渡陽太』での音空間の広がりを強く感じさせてくれるサウンドスケープと彼が込めたメッセージについて、そして彼の志向を覗き見れるインタビューとなった。彼の才能は、いままさに花開こうとしている。
インタビュー・文=草野 虹
最近のライブは、お客さんに届くようなライブをしているなと思えるようになってきています
ーー今回はメジャーファーストアルバム発売おめでとうございます。まずお聞きしたいのですが、なぜ『I wanna be 戸渡陽太』なのでしょうか?
戸渡陽太(以下 戸渡):自分の名前を背負いたい、という気持ちがあったんです。あと、「戸渡陽太になりたい」という意味で、ある意味では理想の自分になりたいという気持ちを込めたんです。僕は作曲している過程で、自分でも知らない自分を探しに行くような感覚になる時があって。自分が日々思っていることを込めていくのもあるんですが、自分自身でも気づいていなかったような側面を見つけていく感覚でもあるんです。作曲をしていくことで自分が自分になっていく、そういう風に作っていった曲が多く含まれているので、『I wanna be 戸渡陽太』というタイトルにしました。
ーー今作のアルバムジャケットが、自分の顔が半分出ていて、もう半分が仮面に覆われているようなジャケットにしたのも、そういった理由からでしょうか?
戸渡:そうですね。デザイナーさんと話し合っていく時に、パっと思い浮かんだのが、<自分の顔半分をツギハギにする>というものだったんです。半分は自分の未来像で、もう半分は今の自分で・・・という風な話をさせていただいたら、こういうのはどうだろう?と作って頂いたデザインがこれだったんです。
ーーこれまでに発表してきた楽曲をリテイクし、さらに新しい楽曲を加えた一作となっています。やはりアルバムのために作っていたんでしょうか? それともこの数年で作っていた楽曲を詰め込んだという流れなんでしょうか?
戸渡:前作に収録されている曲もあれば、高校の時から作っていてようやく満足できるくらいに出来上がった曲もあるので、バラバラといえばバラバラなんですよ。ただ、比較的に新しい楽曲を詰め込んだといえます。この1年ほどでじっくり時間をかけて楽曲を詰め込んだ作品、という感じですね
ーー2014年に『プリズムの起点』でCDデビューして以来、今作を生み出すまでの約2年、振り返ってみていかがでしょうか?
戸渡:そうですね…。時間軸がないような感じがしますね(笑)。長いといえば長いですし、あっという間と言われればあっという間だったようにも感じられるし。
ーーいろんなことがありました?
戸渡:そうですね。不思議な感じです、でも、これからのほうが楽しみですね。
ーー大変失礼ですが、おいくつですか?
戸渡:24歳です。
ーー92年生まれですね。子供の頃はどんな子供だったんですか?
戸渡:ずっとサッカーしていたんです。小学の頃にサッカーを始めて、サガン鳥栖のユースチームに中学の頃に入団して、高校の時にもサッカー部に入っていたんです。とある不良マンガのモデルにもなったとかいうくらいの高校なんですが、体育館に「禁煙」の張り紙、廊下には灰皿、バッテンマスクとリーゼント…みたいな感じの高校だったんです。
ーーいつ頃から音楽を作り始めたんでしょう?
戸渡:もともと中学の頃から音楽を聞くのは好きだったんです。高校のサッカー部を辞めたあと、モヤモヤしている感覚がずっとあったんです。最初は詞が出てくるような感じで、ありがちな話だとは思うんですがノートに詩を書くようになっていったんです。あるとき「この言葉を音に乗せたらどうなるんだろう?」と思いたって、初めてもらったアルバイト代でギターを手に入れて曲を作り始めたんですよ。
ーーそれはすごいですね。普通なら、好きなミュージシャンの曲をコピーしていって自分の作曲していくのが大多数なところで、自分の曲を作りたいからギターを手にするというのは。
戸渡:よく言われますね。コピバンとか組んで音楽をやるというわけじゃなく、僕はそのときからずっと一人で活動していて、誰に聴かせるわけでもなく音楽を作ってました。高校もサボったりとかして曲を作り続けていて、アルバイトしている職場の同僚にそのことを話したら、「曲作ってるならライブやってみればいいじゃん」と言われたのをきっかけにライブをするようになったんです。そのなかでいろんな出会いや刺激をもらって、自分の中にある<音楽への了見>が広がったんですよね
ーーその時期の濃密な活動の中で、いまから振り返ると<いまの自分はここが変わったな>とおもえるようなところはありますか?
戸渡:割と最近なんですけど、どんどんとベクトルが外向きになってきたのを感じますね。福岡でライブをしていた最初の頃からだんだんと、どんどんとベクトルが内向きになってしまっていて、自己との戦いをステージ上で表現してお客さんに見てもらうような感じになってしまって、僕自身はあんまりライブっぽくないよなとずっと感じていたんです。最近のライブは、お客さんに届くようなライブをしているなと思えるようになってきていますね。前まではメロディを歌う感覚だったんですが、いまは言葉や意味を歌っているように感じてます。そこを意識することで、歌い方も自然と変わってきて、聞く人とも共有できるものが生まれてるんじゃないのかなと思ってます。
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