ファミコン、ゲームボーイ世代と10代、20代の違い
――チップチューン・アーティストにはリアルタイムでファミコンやゲームボーイの音楽を制作していたようなベテランの方から、そうではない10代、20代まで色んな人が居ますよね。ファミコン、ゲームボーイ世代の方とそうでない人の一番の違いって何でしょう?
TORIENA:「敷居の低さ」を理由に、チップチューンを始める人は居なくなってきたんじゃないかと思いますね。
元々、チップチューンというジャンルは「遊び」のような側面もあったものらしいです。楽器って高価です。でも、ゲームボーイやファミコンって手に入れやすかったですよね。(ハードが普及していた当時は)遊び感覚で音楽をやってみよう、みたいな感じのノリに合っていたみたいです。
DTMの機材も、昔はそこまで普及していなくて、高価だったんです。でもいまはDTMやる人が増えて、廉価版の機材やソフトも増えて敷居が下がりましたよね。
逆に、あまり下の世代のことは分からないんですけど、ライブの時とかに話を聞くと私の活動がきっかけでチップチューンを始めたという十代や二十代の子も居ますね。(ゲームが入り口ではなく)チップチューンのアーティストやライブを知って、始めたという人が多いです。
――下の世代だと元々ゲームボーイを知らず、先にTORIENAさんの楽曲に触れた方も居るんじゃないでしょうか。
TORIENA:多分、まだぎりぎりゲームボーイを知ってるんじゃないかなあと思います。ふわっと知ってるくらい(笑)。 私がいま23歳で、初めて買ったゲーム機がゲームボーイカラー(1998年発売)だったんですけど。その3年後にゲームボーイアドバンスが出たんですよね。
とはいえ、やっぱり全体的には三十代以上、大体三十五歳くらいの方が多いと思います。で、女の子も少ないんですよね。だから、私は「チップチューン界のバグ」だって言われたりします(笑)。「なんで?どうして、チップチューンに行き着いたの!?」って(笑)
でもその分、皆優しくしてくれました。レアキャラだったみたいで(笑)。ありがたかったです。
Post from RICOH THETA. – Spherical Image – RICOH THETA
ゲームボーイ実機以外の音を曲に入れるのは、最初は嫌だった
TORIENA:私は最初、「ゲームボーイ実機こそ面白い!」って思ってて。矩形波や三角波がダイレクトに響いてくるんですよね、チップチューンをクラブで聴くと。同時発音数が四つしか無くて、全然音を重ねてない分、一つ一つの音が脳にガンガン来るんです。録音するともっと分かるんですけど、チップチューンは波形の形もすごい単純なんですよ。それが余計にピュアな感じがして、愛おしいんです。
そういった愛があったからこそ、チップチューン始めた頃は実機以外の音を混ぜて曲作ってる人なんかは「分かってない!」って思ってたし、パソコンでピコピコした音流して「チップチューンです」って言ってる人は当時は許せなかったです(笑)。醍醐味分かってない!って。
チップチューンを始めた時、目標はBlip Festival(現:SQUARE SOUNDS FESTIVAL)に出ることでした。その目標を立てたところオープニングアクトとして2012年、活動初年度で出ることが出来て。とても感動して、「これは一生やるしか無い!」って思ったんです。だからこそ「チップチューンという素晴らしいものを広めていきたい!」と思って、チップチューン以外の色んなイベントにも積極的に出るようにしたんですね。
たとえ話ですけど、「チップチューン山」と「音楽山」があるとして「音楽山」ってめちゃめちゃデカイわけです。チップチューン山の人は、やっぱチップチューンが好きだからその曲ごとによって良し悪しを分かってくれるんですけど。
音楽山の人たちは、面白がってはくれるんですよね。「え!この音、本当にゲームボーイで作ってるの!」って。事実、少しずつ広めていくことは出来ていたと思うんですけど。でも実機で音楽を作る「特異」な感じだけで、面白がられているんじゃないかという気もして……。
ゲームボーイやファミコンだけで作るから面白い、っていうのは何だかチップチューンの伝わり方として違うなって思って、すごい悩んだんですよね……。
――「音楽山」では、必ずしも望んだ通りの反応を得られるわけでは無かったのではないでしょうか。
TORIENA:そうですね。正直、チップ・サウンドって慣れていない人が聴くと、実機だけで制作したものは――これは私自身、自覚するのがとても嫌だったんですけど――どれも同じに聴こえるみたいなんですよ。他のジャンルでも似たようなことはあるかもしれないですけど、チップチューンは特にそうです。(使われる)音が限られているから。
――音色から受ける印象が、どの曲も似たり寄ったりになりがちということですか?
TORIENA:リバーブとかディレイとかのエフェクトとかも無いですしね。だから音をよりリッチにしたり、より音楽として認められるものにしていかないと「これ以上広めるには、厳しいぞ」という限界を感じる思いがあります。
そこで最初は正直少し嫌だったんですけど、一年半くらい前から実機以外の、パソコンで制作した音とかを曲に入れ始めて。そうしたら、(曲作りの)幅は広がりましたね。
8 bitを目的ではなく、手段として使う
――チップチューンが音楽ジャンルとして五年後、十年後、二十年後も続いていくと想定すると、課題になるのはハードの保存ではないかと思っています。十年後にはいまよりもゲームボーイ実機の入手が難しくなるのではないかと感じて。実機での演奏をしている方にとっては、とても大きな問題なのではないでしょうか。
TORIENA:(実機は)無いとダメだ!と思っていて。おこがましいんですけど、どうしてチップチューンを広めたいかというと、知ってもらいたいからなんですよ!その、任天堂とか……(笑)
私、目標があって!任天堂の公式アーティストになりたいんですよ。そしたら、公式でちゃんと作曲ソフトが出たり、ゲームボーイを復活させたり、ファミコン復活させたりということが出来るかもしれないじゃないですか。
Post from RICOH THETA. – Spherical Image – RICOH THETA
――ゲームボーイ実機による楽曲制作やドット絵表現は、ともすればレトロな印象を与えるものですよね。こうした表現が古いものではなく、きちんと新しいものとして受け入れられていくために大事なことは何だと思いますか?
TORIENA:ドット絵のクリエイターにm7kenjiさんという方が居るんですけど、私とすごく考え方が似ているんです。
私はゲームボーイ実機のサウンドは原始的だと思っているんです。音が四つしか無いからこそ、想像の余地があるじゃないですか。想像すれば(実機のサウンドが)ギターの音のようにも聴こえるし、ピアノのようにも聴こえるし、鈴の音のようにも聴こえます。
m7kenjiさんはドット絵に対して、同じようなことを考えているんです。ドット絵のキャラクターって(サイズが)小さい分、顔の表情がちょっとしか変わらなかったりします。でも、受け取る人が違えば(一つのドット絵にも、観る人の数だけ)色んな表情があるんですよね。
m7kenjiさんはそういったことを考えてドットを打っているし、私は矩形波や三角波のサウンドが好きだから使っています。
「目的」と「手段」ってあるじゃないですか。目的を8 bitにしてしまうのではなく、手段とすることが大事ですよね。その上で、あとは自由に表現するというのを皆がやっていけば「レトロ」なものじゃなくなると思います。
(m7kenji × TORIENA/KANDI PIXEL Z MUSIC VIDEO)
「“非現実なもの”を求めていた時代のデジタル」に戻る
――VRや4K、ハイレゾのように高画質・高音質な技術が、世間一般ではメジャーになりつつあります。ロービットな音やドット絵による低解像度の表現は、時代に逆行しているという見方も出来ますよね。低解像度だからこそ表現できるものとは何でしょう?
TORIENA:リアルとデジタルの区別が付かなくなるくらい、どんどんデジタル(による表現)がリアルなものになっていく。そういった中で、逆に低解像度の表現が再発見されていくのは「夢を求めている」からなんじゃないかと思います。皆、想像したいんじゃないんですかね。デジタルがリアルになる中で、「“非現実なもの”を求めていた時代のデジタル」に戻っていくというか。
バーチャルなもの、デジタルなものって色々ありますよね。例えば、電子書籍もそうです。私、そういうものがどんどん発展していったら、結局アナログに戻るんじゃないかとずっと思ってるんです。
いまはデジタルをどんどんリアルにしていこうとしているわけですよね。そしたら「ほんとはデジタルだけど、アナログ」になるんじゃないかなって。
――例えば、「電子書籍だけど、紙の本のような形と手触りをしている」ということですよね。
TORIENA:そうです!だったら、もうそれって本じゃないですか(笑)。
――確かに(笑)
TORIENA:テクノロジーがリアルなものになる前の時代、例えば1960年代や1970年代の人ってテクノロジーに対してものすごく夢を抱いていたと思うんです。当時の人の想像力は本当に素敵です。アナログで、「いずれデジタルになるであろうもの」を頑張って作ろうとしていた段階の時代だったんじゃないかと思って。
(撮影場所の)中銀カプセルタワービルが作られたのも、その時代ですよね。この建物には、夢や希望が詰まっていると感じます。
Post from RICOH THETA. – Spherical Image – RICOH THETA
次のページはTORIENAの「運命の出会い」
SHARE
Written by