皆さん、「レトロフューチャー」という言葉にどのようなイメージを持っているだろうか。
空を飛ぶ自動車?
人間とアンドロイドが当たり前のように共存している社会?
今回、ミーティアでは2月25日に初のワンマンライブの開催を控えるチップチューン・アーティストのTORIENAを招き、故・黒川紀章氏のアヴァンギャルドな名建築『中銀カプセルタワービル』にて360度カメラによる写真撮影とインタビューを敢行した。
改造した初代ゲームボーイ実機での楽曲制作や、ドット表現によるMV制作など一見「レトロ」にも思える手法を使いながらも、常に新しい作品を世に送り出しているTORIENA。
一方、中銀カプセルタワービルも「メタボリズム」という建築思想に基づいた外観と宇宙船を連想させる内装が数十年以上に渡り、多くのクリエイターを惹き付けてきた。
チップチューン、ドット表現をはじめとする「レトロ」なビジュアルや楽曲を「レトロ」なものに留めず、きちんと新しい表現として認められるものにするには何をすべきか。
「レトロフューチャー」の魅力とは、改めて何か。
記事を通じて、そのヒントのようなものを探っていきたい。
なお記事内の写真にカーソルを合わせると、360度全方位、中銀カプセルタワービルの一室での撮影の様子をご覧いただける。
部屋には竣工当時の中銀カプセルタワービルの各部屋で使用されていたヴィンテージのオーディオ機器や電話機などがそのままの状態で残されている。クローズアップなどしながら、こちらも合わせてお楽しみいただきたい。
Interview_Arato Kuju & Sotaro Yamada
Edit & 360 Photo_Arato Kuju
撮影協力:中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト
http://www.nakagincapsuletower.com/
http://www.facebook.com/nakagincapsuletower/
「この先」への憧れが詰め込んだものが、レトロフューチャー
――今回の撮影場所の「中銀カプセルタワービル」はとてもレトロフューチャー感のある建物です。TORIENAさんは「レトロフューチャー」にどういったイメージを持っていますか?
TORIENA:これは私の勝手な想像ですけど、人間って皆「この先のこと」を考えるわけですよね。「この先」に憧れを持って、コンピュータとかがまだ無い時代に「未来はこうあって欲しい」というような夢や希望を(人々が)詰め込んだようなものなのかなと思います。
未来が少しずつ現実になっていく上で、1970年代や1980年代の人たちが思い描いていた未来やデザインを、いま見るとけっこう面白い発見とかがあるなあって。「え、こんな風な未来になると思ってたんだ!?」って思ったり。でも、そっちの方がお洒落に見えることもありますね。
Post from RICOH THETA. – Spherical Image – RICOH THETA
――連想する映画や漫画、小説ってありますか?
TORIENA:『2001年宇宙の旅』とか――、SFっぽいのが好きなんです、私。Netflixに入ってるんですけど『チャッピー』を見ました。『チャッピー』、もう大好きで!
――ロボットやAIが出てくるような作品がお好きなんですね。
TORIENA:小説だと星新一さんが好きです。星新一さんの作品にもそういうのが多いですよね。未来を扱った作品が好きなんです。
だって、未来って何でも好きに想像してOKじゃないですか。昔の話だったら「歴史的に違う」とか色々あるけど、未来の話だったら勝手に考えて良いですし、夢がありますよね。
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アルバム『A.I COMPLEX』で、AIを扱った理由
――TORIENAさんの『A.I COMPLEX』は、「レトロフューチャー」的な要素を感じさせるストーリーを持ったアルバムだと思います。その名の通り、ロボットやAIを扱った内容ですよね。
TORIENA:そうですね。まさに『A.I COMPLEX』は、シアンとマゼンダという姉妹が登場する、いまよりもロボットやAIの技術が発達した未来の話で。
――作品をまだ聴いたことの無い方に向けて、あらためてアルバムのストーリーを教えて頂けますか?
TORIENA:元々、姉のシアンが病気に罹っていて、植物状態になっているんです。
彼女の両親は二人共腕のある博士と医者なのですが、親としては元気に動いているシアンの姿を見たいわけです。そこで二人は「私たちは医者と博士なのだから、愛娘そっくりな人工知能ロボットを作ろう。ロボットでもかまわないから、何とかして元気な娘の姿をもう一度見たい」と考えます。そうして生まれたのが、マゼンダです。
マゼンダは他のどの人工知能ロボットよりも人間に近くて、感情も学習能力もあるんです。ただ人間に近付けば近付くほど、複雑な感情が芽生えるようにもなっていって。
マゼンダはある日、両親が「あなたは本当にお姉ちゃんそっくりね」と口走ったことをきっかけに、姉が動かなくなったがために作られた存在だということを察します。「私は私として愛されているのではなく、お姉ちゃんの代用品に過ぎないんだ」と感じたマゼンダは「どうして私は作られたんだ」と憎悪を抱きます。そして彼女には、人間のエゴに対する憎しみが生まれるんです。
マゼンダと同じようなロボットは、人間にとって都合が良いために働かされたりもしています。そこでマゼンダはロボットたちを守るために、ロボットを作ったり、働かせたりしている金持ちの人達とかを倒して、始末していくんです。
(マゼンダの行為は)人間側からしたら「悪」ですよね。でもAI側からしたら良い、正義のヒーローなわけです。
(m7kenji x TORIENA『PULSE FIGHTER』MUSIC VIDEO。『A.I COMPLEX』収録曲)
――AIが、愛情や憎悪といった人間のような感情を手にする話という見方が出来ますよね。
ただ、AIはあくまでテクノロジーに過ぎないし感情を持つものにはならないと考える人も居る気がして。ロボットやAIを人間と同じようなものとして扱った理由はありますか?
TORIENA:私は人間の意識や思考みたいなものが好きなんですけど、同時に無機物も好きで。もし無機物とされるものに意識みたいなのが宿ったら、どうなるんだろう?と考えたりもします。そういうことを考えない人も居るとは思うんですけど。
ロボットに対して、夢や希望のようなものを私は持っていて。でももし自分がロボットだったら、この私はどういう存在と言えるんだろう?と考えることもあって。『A.I COMPLEX』でAIを扱ったのも、こういう疑問が発端になっているところがあります。
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――いまってPepperのように、「温かみ」のあるロボットが沢山出てきていますよね。人間みたいに泣いたり笑ったりするロボットというのは、『鉄腕アトム』を始めとし、レトロフューチャーの代表的なイメージです。
TORIENA:私は1993年生まれですけど、いまの時代はレトロフューチャーの時代の人が思い描いていた未来に歩み寄って来ていると思うんですよ。
(ディズニー映画「ベイマックス」 Pepper「ロボット声優」篇)
「私、未来に生きてる!」って思いますもん。例えばスマートフォンなんて、情報を自由に操作出来る板じゃないですか。タッチパネルを指でスッと操作して。そんなのを一人一台、高校生や中学生も持ってるなんて昔は考えられなかったわけですよね。
VRの機器も、皆普通に買えるようになりましたよね。いまの世の中は「未来」なんじゃないかなって思います。
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