10月26日に『僕は君のアジテーターじゃない』、『クライマックス』を含む1st EP『トーキョーカオス e.p.』をリリースする焚吐。
1997年生まれ、若干19歳にして5月にリリースされた『ふたりの秒針』が『名探偵コナン』のEDに採用されるなど活躍の幅を広げる彼の曲は一見内省的でありながら、同時に世の欺瞞や不平等といったテーマも含んでいる。
焚吐はとても冷静な人物だ。世の中に絶望し、自らの殻に閉じこもることはしない。この夏には60本もの路上ライブを池袋で開催するなど、「内省的」に見える焚吐の活動は実のところ「社会的」だ。
当編集部では『トーキョーカオス e.p.』発売に先駆け、焚吐にメールインタビューを行った。
インタビュー・構成=山田宗太朗・九十現音
人間の幸福は絶対的な指標がない
――「『トーキョーカオスe.p.』に収録された『クライマックス』では、初めて編曲にササノマリイさんを迎えました。焚吐さんはこれまでも、Neruさん、カラスヤサボウさんと、非常にセンスを感じるコラボを自分から提案しています。今回のササノマリイさんも自分からの提案ですか?
はい。今回も自分から提案して実現しました。1stシングルから一貫して「ロック」を主軸にした楽曲作りやアレンジ依頼を心掛けているのですが、『クライマックス』はゲームがモチーフになっているということもあり、「サイバー感」が必要不可欠だと思ったんですね。その点ササノマリイさんの紡ぐデジタルなアレンジは正に適任だと思い、推薦いたしました。
――ドリームキャストをプレイしながら歌うMVは、今アメリカで非常に話題を呼んでいるFrank Oceanを思い起こさせました。しかし焚吐さんはドリームキャスト世代ではないですよね。ドリームキャスト、やってみてどうでしたか。また、ゲーム自体はお好きですか?
ゲーム自体は好きなのですが、CP相手にしても友人相手にしても基本的に対戦が下手な人間なので、プレイ中は正直MVどころではありませんでした。ただ必死になってたからこそ、普段より自然な表情が撮れたのではないでしょうか。好きなゲームは「どうぶつの森」など、平和なやつです。
――この曲はCDTV10月度のエンディングテーマに採用されています。作曲の段階から、深夜に流れることを意識されていたんでしょうか?
タイアップは後々決まったことなので、何も気にせず自由に作らせていただきました。でも曲中の情景描写が深夜なので、放送時間には合っているのかなあ、と思います。ぜひ、自分に置き換えて聴いてみてください。
――この曲は、「世界中の強者が 勝ち進んだ分だけ 相対的に 0へと近付くレーティング原理」という印象的な歌詞で始まります。「世界中の強者が勝ち進んだ分だけ相対的に0へと近付く」ものとは、いったい何でしょう? 続く歌詞から想像して、一般市民の平等さや幸福度かな、と思ったのですが。
幸福度と考えていただいて、概ね問題ありません。人間の幸福は絶対的な指標がないので、他人と比べた相対値で判断すると思うんですよ。だから世界の裏で見知らぬ誰かが幸せになればなるほど自分は置いてけぼりを食らうんだな、という憤りをそのまま歌詞にしました。これはゲームのレーティングマッチと通ずるものがある、と思っています。ただ、人間は出生時の生活環境や容姿等で手札が大きく変わるので、ポイント一律のゲームより遥かに面倒臭いですよね。
重いテーマを重いまま終わらせない
――『四捨五入』は、重いテーマをポップに昇華させた素晴らしい曲だと思います。どういった経緯で生まれた曲なのでしょうか?
大学の新歓コンパでその場に上手く馴染めず、「自分の存在価値は0.3人くらいだな」、と思い至ったのが全ての発端です。「所謂ムードメーカーは1人につき3人くらいの価値があるから、コンパの盛り上がりに寸分も貢献していない自分が“1”という数値を背負うのはあまりにも役不足だ」、と感じてしまったんですよね。
――サビの「いっそ取るには足らない僕を 小数点以下切り捨てよ」という歌詞は、非常にキャッチーで耳に残ります。何が焚吐さんにこのような歌詞を書かせたのか、とても興味があります。
高校を卒業してから日が浅かったこともあり、「学生らしい曲が書けるラストチャンスだ」、と思って問題形式の歌詞にしてみました。重いテーマを重いまま終わらせない、というのは最近特に気を遣っていることで、星新一さんや藤子・F・不二雄さんのSF作品が影響しているのだと思います。
良い意味での行き当たりばったり感がたまらなく好き
――『クライマックス』のMVが暗い部屋の中でゲームをプレイしているのに比べ、『人生は名状し難い』のMVは昼間に池袋の街で撮影され、対照的な作りになっています。また池袋では、この夏に60本もの弾き語り公演を行いましたね。焚吐さんにとって池袋とはどんな街ですか?
池袋は幼い頃から馴染みのある土地なのですが、この夏のライブを通して一層特別なものとなりました。渋谷や新宿のように「明確な都市計画に沿って作り上げた」、というよりは、「とりあえず作りたいものをたくさん作った」、という良い意味での行き当たりばったり感がたまらなく好きです。『クライマックス』は曲中に、人からの干渉を恐れてゲームにどっぷり浸かっていた過去の自分を登場させているため、必然的に閉塞的なシーンが多くなったのですが、『人生は名状し難い』はタイトルに「人生」と入っているくらいなので、大らかな雰囲気が出るような演出にしていただきました。
――『僕は君のアジテーターじゃない』のMVを見ましたが、所々に「瞑」という言葉がちりばめられていました。「瞑」という言葉にはどんな意味を込めているのですか?
映像制作の部分は、りゅうせーさんの世界観にお任せしてるのですが、彼曰く
「音にぴったりと合っていることが映像の第一条件だと思うので、この曲も展開が変わる箇所や印象的な音に合わせて暗転のカットを入れてテンポ感を上げています。ただの暗転だと味気ないので、遊び心で『瞑』の文字を入れてみました」とのことです。
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