人間の持ってる底なしな部分、闇の部分、透明な部分のようなものに足を踏み入れたい
ーー改めて、今回の『DANCE TO YOU』って、曽我部さんのキャリアの中でどういう位置付けのアルバムになると思います? サニーデイ・サービスがあり、曽我部恵一BANDがあり、ソロがあり、いろんな変遷を経てきた中で。
ちょっと特殊だと思う。身近な感じがしないですね。ソロで2年前に、アコギ一本の弾き語りでマイク一本で一晩で録った『My Friend Keiichi』っていうアルバムを作ったんです。それもすごく好きなんですけど、もうちょっと身近な感じがするんですよね。等身大というか、自分の凄く濃い部分をピンポイントで描いたような。だけど、自分からはちょっと遠い感じもする。そこがいいなって思いますね。
ーー僕としては、サニーデイ・サービスが再結成してから2枚のアルバムって、やっぱり身近な等身大のスケッチだったように思うんです。それとは別の、一度解散する前の『LOVE ALBUM』の後に途切れていたものが繋がったような感触があったんですけど。そのあたりってご自身ではどう思いますか?
んー……僕はね、今までのサニーデイと全然違う感じがします。『LOVE ALBUM』を聴き返すと、やっぱりちょっと私性が強いというか、ちょっと恥ずかしくなったりして。「若いな」とか「こういうことやりたかったんだな」とか。それはサニーデイの歴史を辿るとどこでもあるんですけど、今回はそういうものがない。もうちょっと透明感があるというか。聴いた人の感性のぽっかり空いているところに狙いを定めてそこに撃つことをやりたかったというか。脳の使ってないところとか、心の普段使ってない部分に届くようなものを作りたかったと思うんです。普段の音楽を聴いて「いいな」って感じたり「これは名曲」って感じるところとは違う脳のポイントに届けたかった。それが今までとは全然違うと思いますね。
ーーこのアルバムを出した後、自分の中でサニーデイ・サービスというバンドの位置付けや意味合いは変わりました?
うーん……今から変わっていくのかな、って感じはしますけどね。「どうすんだろう、これから?」っていう感じは正直あります。これが出来て、ツアーももうすぐあるんだけど、この先に何があるのかちょっと怖いっていうか。
ーーちょっと怖い?
たぶん、人間の持ってる底なしな部分というか、闇の部分、透明な部分のようなものに足を踏み入れたいんだと思うし。その先はちょっと怖いなって思う。でもやるならその先をやんなきゃいけないし。やんないなら作んないでもいいんだけど、ここから「今日は天気が良かった」なんて歌に戻る気はしないし、そこがちょっと怖いなっていうのはありますね。闇の中にどんどん踏み込んでいく。そのことの意味のなさと、でも、そこに踏み込んでいっちゃいそうな“業”を感じるというかね。それに、バンドはバンドでどうなんですかね? ほんと、どうなるのか、わかんないですね。
ロールモデルは、レディオヘッドの『KID A』
ーーなるほど。でも、その「怖さ」が一つのポップである、という感覚も持っていたんじゃないか?と思うんです。何かわからないところに踏み込んでいく、そのスリルや、予測のつかないものが一つのポップであるっていう感覚もあるんじゃないか、と。
うん、それはありますね。実は、今回、一番影響を受けたというか、一番のロールモデルにしていたアルバムって、レディオヘッドの『KID A』なんですよ。全然かたちは違うんだけど、ああいうものが出来たらいいと思ってたんです。作って作って出来なかった、みたいな。装飾が全部壊れちゃって、それは全て形骸化しちゃって、その中心にあった命だけがある。でも、モノとしては成立していない、というか。ああいうポップスこそがすごいと思うんですよね。「ああ、出来なかったんだ」みたいな。だからこそすごく感じさせるものがある。そういうものが作りたかったんですよね。あれが究極のポップスだなって思う。
ーーレディオヘッドと『KID A』って考えると、それって、ある種の十字架ですよね。というのは、レディオヘッドだって『ベンズ』から『OKコンピューター』を作って、その後にU2やコールドプレイのような道を歩む可能性だってあったわけじゃないですか。でも彼らはそれを選ばなかったわけで。
それがすごい迫力ですよね。作品をよく子どもに例えるけど、堕ろしちゃった子どもって感じがする。子どもを亡くして気がふれたおばあさんが、赤ちゃんのぬいぐるみを抱いて自分の子どもみたいにしてる、そういう絵の美しさというか。ああいうのを見て「わかる、すごくわかる」って思うところがありますね。そういうものがポップスとして究極だと思います。で、ああいうところまで行かないとダメなんだろうなって思いながら作ってた。スタッフとか「俺がおかしくなった」と思ってたんじゃないかな。だって、制作期間中、作った曲を聴きかえしては「『KID A』みたいになってないじゃん!」って腹立てたり怒鳴ったりしてましたから。そもそも『KID A』みたいなサウンドじゃないから、周りとしては「そう言われても」っていう感じだったと思うけど(笑)。
ーーちなみに、デビューからディレクターをやっていた渡邊文武さんに最近お会いしたんですが、今回のアルバムにもディレクターとして参加されていたと言っていました。
途中から参加してくれたんです。迷宮入りしそうなあたりを抜けた頃かな、今年に入ってたと思うんですけど。「セツナ」っていう曲のバージョンがいくつかあって、どれがいいか渡邊さんにも聴いてもらおうと思って。
ーーどんな感想でした?
「自分が好きだったとんでもないポップスを作るサニーデイを感じた」って言ってくれて。純粋に曲に対する感想をくれたのがありがたかったですね。
ーー最後の制作段階での客観性を担保している一人だったと。
そういう感じです。だから精神がまともな人がいないとこれはマズいって途中で思ったし、そういう一つの判断の基準としていてくれて、良かったなって。
ーーいやあ、ほんとに完成して良かった。
良かったですよ(笑)。
ーーこれ、ライヴはどうするんですか?
ライヴは……ダンスパーティですね。
ーーバンドで?
バンドで。5人編成です。ダンスパーティにしようと思ってます。EDMとは違った感じの構成だし、もっと、原始的なお祭りのダンスかもしれないけど。そういうふうにしようかなと思ってます。
サニーデイ・サービス
曽我部恵一(vo,g)、田中貴(b)、丸山晴茂(dr)からなるロックバンド。
1995年『若者たち』でアルバムデビュー。以来、「街」という地平を舞台に、そこに佇む恋人たちや若者たちの物語を透明なメロディで鮮やかに描きだしてきた。その唯一無二の存在感で多くのリスナーを魅了し、90年代を代表するバンドの1つとして、今なお、リスナーのみならず多くのミュージシャンにも影響を与えている。7枚のアルバムと14枚のシングルを世に送り出し、2000年に惜しまれつつも解散。
2008年7月、奇跡の再結成を遂げ、以来、RISING SUN ROCK FESTIVAL、FUJI ROCK FESTIVALに出演するなど、ライブを中心に活動を再開。
そして2008年に再結成を果たして以降、アルバム『本日は晴天なり』『Sunny』をリリース。かつてのようにマイペースながらも精力的な活動を展開している。
2016年8月3日に通算10枚目のアルバム『DANCE TO YOU』を発売。秋からは<サニーデイ・サービス TOUR 2016>でひさしぶりのライブハウスツアーを行う。
『DANCE TO YOU』
2016年8月3日(水)発売
ROSE198 / 2,500円+税
初回限定 スリーヴケース仕様 & ジャケットミニポスター付き
[ 収録曲 ]
1. I’m a boy
2. 冒険
3. 青空ロンリー
4. パンチドランク・ラブソング
5. 苺畑でつかまえて
6. 血を流そう
7. セツナ
8. 桜 super love
9. ベン・ワットを聴いてた
サニーデイ・サービス TOUR 2016
10月21日(金) 大阪府 umeda AKASO
10月28日(金) 岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
11月3日(木・祝) 北海道 札幌PENNY LANE24
11月6日(日) 宮城県 Rensa
11月12日(土) 広島県 広島CLUB QUATTRO
11月13日(日) 福岡県 BEAT STATION
11月19日(土) 香川県 DIME
11月20日(日) 愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
11月23日(祝) 京都府 磔磔
11月26日(土) 新潟県 GOLDEN PIGS RED STAGE
11月27日(日) 石川県 Kanazawa AZ
12月14日(水) 東京都 LIQUIDROOM
12月15日(木) 東京都 LIQUIDROOM
料金:前売 4,000円(オールスタンディング・税込)
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