そこには私小説もあるし、ディスコもあった
ーー全体像が見えてきたのは、そっからさらに数ヵ月たった頃?
うん、そっからまだまだ先でしたね。それが初冬かな。
ーー最後のピースがハマったのっていつですか?
最後のピースというより、これは完成に向かうかもって思ったのは「桜 super love」という曲を作った時ですね。これは桜が咲いてるところで犬の散歩をしていて、いろいろ思ってた時に作った曲なんですけれども。
ーーこの曲にはいい意味での軽やかさがありますね。
あれは自分の中では、今後どうしていったらいいかなって思っていて。ドラマーが途中でいなくなって、僕がドラム叩いたりしていて。それが戻ってくるのか来ないのか、今後どうなっていくのかもわかんないし。アルバムも出来るのか出来ないのかわからない。それで結局いなくなった人のことを考えてるんだけど、その人がまるでいるかのように自分の中に存在してるというか。いない方が影が濃くなるというか。結局その人がいるかいないかより、その人の存在、いるいない関係ないのかなって考えたりして。本当に歌詞に書いた通り「君がいないことは君がいることだなあ」って思うような瞬間があって出来たんですよ。それが軽やかな曲だったのね。
ーーおっしゃったように、認識論と存在論っていう深いテーマを描いてるんですけど、曲を聴いた感じは軽やかでポップである種陽気なものになっている。そのバランスというか手触りに手応えがあったんじゃないか、と。
そうですね。こういうことだなって思ったんです。そこには私小説もあるし、ディスコもあったっていう感じだったんですね、「桜 super love」が出来て、ああいい曲出来たなって思ってて。これが入るアルバムを作ったらいいんじゃないかなって思ったんです。
ーー終着点というか、辿り着くポイントが見えた。
うん、ある程度かたちになって数日後だけど、この曲が最後の方で流れるようなアルバムが出来たら最高だなって思って。それでバーって作って完成したんです。
添加物たっぷりでいいんだけど、そこに命が宿ってることが大事
ーー1曲目の「I’m a boy」は、その後に出来たんですか?
その後。あれは北海道の置き去り事件がきっかけですね。結局元気に見つかったけど、ニュースを見ていたたまれなくって。自分の子供も小1だったから、自分の子どもと同じくらいの男の子が、暗い山の中に一人で孤独にいるって、想像するとあまりにも気持ちが苦しすぎて。生きてたらいいなって思ったけど、生きてる可能性も低いんじゃないかって思ったりして、祈るような気持ちだったんです。仕事が手につかない状態でした。それで曲にしようかなって。
ーーそういう曲がアルバムの冒頭に置かれていて。今回の『DANCE TO YOU』というアルバムを象徴する曲になったと思うんです。
曲を作っている時に自分がその少年に戻っていくというか、小学校一年生くらいで暗闇に取り残された自分に戻っていくような体験があって。それで出来た曲です。同時期に、いろいろ手伝ってくれている親友の小田島等くんっていうイラストレーターのお母さんが具合が悪くて、今はよくなったと思うけど、危篤状態になったことがあって。電話でも意識がないお母さんと会ってきた状況を話してくれて。小田島君は一個下だけど、少年というか、お母さんの息子の自分に戻ったっていうか、お母さんの手を握ったら子どもの自分だと思ったって言っていて。それもあったんだよね。それで「I‘m a boy」って言葉が出てきて。5分くらいで出来た。トラックもその瞬間に全部作っちゃって。
ーーそれまで一年近く、何が正解か?っていう自己問答がずっとあったけど、すぐに正解だとわかった。
「桜 super love」以降、それが変わったんですね。ポップスとしての刺激というか目新しさというか、食べ物で言うと添加物的なもの、そういうものこそが大事だと思うというか。まずはみんなの耳が喜ぶもの、楽しめるものがあって、そこに命があることが大事だなって。何が命かわからないけど。
ーー命がある。
いろいろ迷っている時に、何年か前のヴェイパーウェイヴみたいなものとか、そういうのも聴き返したりしたんですよ。だけど、そこに命がなくて。たとえばそこにラッパーのラップがのってたらいいんだけど、トラックだけだとこういうものでもないなって。だから、添加物たっぷりでいいんだけど、そこに命が宿ってることが大事だった。でも、その「命が宿ってる」ってことを強調するのも、僕はすべきじゃないと思ってて。そこに気付いたのが「桜 super love」だったから、それ以降はポンポンポンと出来たんですよ。
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