――「歌詞」は音楽ライブ等大勢で楽しむ機会が用意されているのに対し、「小説」は基本的に一人で読むものという性質があると思います。歌詞を書くことと、小説を書くことの違いは黒木さんにとって大きなものでしょうか。
歌詞は「引き算」小説は「足し算」という感覚で書いています。
どちらも面白いと感じています。そして双方に良い影響があるなと実感もしています。
――先日、歌手のボブ・ディランがシンガー・ソングライターとして初めてノーベル文学賞を受賞し、受賞に対し賛否両論が飛び交っています。歌詞を文学として評価することの是非、など様々な論点があるかと思います。
ミュージシャンとしても小説家としても作品を制作されている黒木さんは、ボブ・ディランの受賞についてどのように思われますか?
何を文学だと解釈するかについては「何でもいい」というのが私個人の考えです。歌の歌詞でも、駅前の立て看板でも、取扱説明書でも何でも文学になり得ると思います。
ボブ・ディラン氏の受賞は喜ばしく思います。それについて難しい持論みたいなものはありません。私も彼の書く詩が好きだから、というシンプルな理由です。
――黒木さんは学生時代、ポストモダン文学を研究されていたと聞いています。研究を行う中で特に印象に残った、ポストモダン文学の作品はありますか?
トニ・モリスン『青い目がほしい』です。
黒人の少女から放たれた「青い目が欲しい」という願いの悲しさが印象に残っています。
たった一言に、膨大な価値観や歴史や意味が乗っかっていると感じました。
(トニ・モリスン『青い目がほしい』。黒人の少女を主人公に、白人社会が定めた美の基準を問い直す作品)
次回作、今後の活動について
――黒木さんは2016年9月10日付のブログで、次回作の執筆のために地蔵群を見たり、超合金ロボの起源について調べていると書かれています。次回作の内容、発表時期を公開可能な範囲で教えてください。
年明けには次作を発表できるようにしたいと思っています。
私自身と接点の少ない世界を書いているので、今までで一番入念に取材をして楽しく書いています。超不自然主義を第一話として、シリーズもののように書いたので2作とも読んで頂けると良いなあと思っています。
――8月22日に音楽活動の休止を発表されました。音楽活動の再開を楽しみにし、リハビリテーションの進捗を心配されているファンの方もいらっしゃるかと思います。公表できる範囲内で構いませんので、現在の治療の進捗をお聞かせくださると幸いです。
病院での音声訓練や鍼治療に通っています。
早く復帰したい一心で焦ってしまうこともありますが、ファンの皆さんが「待っているのでゆっくり完治させて戻って来てね」とメッセージをくれたりして励まされています。少しずつ快方に向かっているので、この調子でリハビリを続けて良い作品と共にステージに戻りたいと思っています。
――2016年も残り一ヶ月ほどとなりました。少し気が早いですが、今年読んだ本で一番面白かったものを教えてください。
(吉村萬壱『ボラード病』。大災害の後に発生する同調圧力と全体主義を描き出した、ディストピア小説の傑作)
――黒木さんにとっての『運命的な出会い』を教えてください。
この質問を受けて、私はもしかすると「運命的な別れ」のために「運命的な出会い」を見つけてきたのかも知れないと思いました。
これまで大きなターニングポイントになっているのは必ず何かを捨てた時です。
初めて観客の前でライブをした夜、ギターもほとんど弾けないくせに一人でステージに出て行ったのは大失恋のエネルギーに後押しされたからでした。あの夜がなければこうして音楽家になることも無かったと思います。別れを動力にしているなんて自己破滅型な気もしますが、出会った瞬間の素敵なイカヅチには何回でも打たれたいです。
INTERVIEW & EDIT_KUJU ARATO
黒木渚 / 独特の文学的歌詞で、女性の強さや心理を生々しく歌い上げる、孤高のミュージシャン。2016年4月New Single「ふざけんな世界、ふざけろよ」をリリース。東京国際フォーラムホールCを含む6大都市ONEMAN TOURは大盛況。7月には、配信シングル「灯台」をリリース。iTunesのトップソングで過去最高の4位にチャートインした。
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