自分にないところを埋め合う3人
――仲良くなった現在は、メンバーそれぞれをどんな人だと思っていますか?
片桐 : アルくんはHakubiのブレーンで、いろんなことをめちゃくちゃ考えてくれる大黒柱。マツイくんは外交官として他のバンドとのパイプになってくれるのと、とにかくバンド熱がすごい。バンドとしてかっこいい道を進みたい気持ちが強くて熱い男。アルくんが冷静、マツイくんが情熱、という感じですね。私はワガママで勝手にいろいろやってへこむタイプだから大変な末っ子だと思われているんじゃないかと。
マツイ : 片桐はバンドの顔だから、僕とアルくんで立てなきゃなという気持ちがあるけど、でも別に仕事仲間と割り切ってはいなくて、根本は友達です。僕はすぐにだらけてしまうけど、片桐はやる時はやる人、オンオフをきっちりできる人だから、結構、引っ張ってもらっていますね。アルくんは策士。こっちが思ってもない発想を持ってきてくれるから、アルくんの鶴の一声で決まることが多いです。いつも「すっげえー」と思っていますね。
ヤスカワ : この3人は、自分にないところを埋め合う存在なのかなと。自分ができないことをふたりがやってくれていると思っています。マツイはコミュニケーション能力が高くて陽キャ寄りの明るい奴。僕はあまり人と喋らないし、家大好き人間だから、友達付き合いとかうまくやってるなあと思う。片桐は作曲面がすごいのと、根がめちゃくちゃいい子なんですよ。道徳的というか。
片桐 : それでいじってくるんですけどね(笑)。私、バカ真面目なんです。
ヤスカワ : 僕はそこまで真面目に生きてこなかったから見習わなければいけないことが多いなと。それから、ボーカルということもあるのかもしれないけど、毎日何をすべきかが明確ですよね。ストイックなんです。ランニングしてみたり、ジムにも行ってみたり。
――片桐さんの真面目さは歌詞からも感じます。歌詞についてはのちほど聞くとして、みなさんが音楽をはじめたのはいつでしょうか?
マツイ : 僕は高校2年生の時に軽音部に入ってドラムを始めました。中学までは運動部だったんですけど、運動部って理不尽に走らされるじゃないですか? あれだけはホンマに嫌で、違うことがしたかったんです。それで部活紹介を見ていた時、バンドってかっこいいなと思って。よく見たら3つくらいのバンドが演奏する中、どのバンドもドラムだけは同じ人がやっていたんです。なので、需要が高そうだなと思い、ドラムにしました。
――(笑)
マツイ : そうして先輩が聴いている音楽を聴いたりライブハウスに行くようになったりして、ロックを聴くようになりました。KANA-BOON、KEYTALK、04 Limited Sazabys、THE ORAL CIGARETTESなど、フェスでダイブやモッシュをする系が好きでしたね。
片桐 : 私は小学生の頃、6年間ピアノをやっていました。ギターを始めたのは中学に入る頃で、父がアコースティックギターを弾いていたのと、兄も小学校の終わり頃からギターを弾き始めたので、私も自然とやるようになったんです。歌い始めたのは、小学校の高学年の時にsupercellを知ったことがきっかけ。ニコニコ動画の「歌ってみた」が好きで、中学時代は自分でも投稿していました。弾き語りを本格的に始めたのは高校に入ってからです。
ヤスカワ : 僕は中学生の時、好きだったV系バンドのコピーをしたくてベースを始めました。バンドを始めたのは高校の時です。音楽はいろいろ聴いていましたね。ニコニコ動画も見てたし、父の影響で海外アーティストも聴いていたし、かっこいいベースラインのある曲を調べてみたりして。
「救われた」という言葉に救われている
――今回のアルバムでメジャーデビューすることになりますが、タイトル『era』に込めた思いを聞かせてください。
ヤスカワ : 僕がアイデアを出したんですけど、意味自体は「時代の変革」というニュアンスですね。去年と今年で生活様式が大きく変わったことと、このアルバムでHakubiとして転換期を迎えたいという思いを込めています。「エラ」ではなく「イーラ」と読むのはこれが正しい発音だからで、変に他の言葉をもじったわけではないです。
――1曲目の『栞』は映画『浜の朝日の嘘つきどもと』の主題歌です。映画のプロデューサーである藤原努さんが「この映画の主題歌のお願いをHakubiさんにした時、ボーカルの片桐さんは、デビューを控えてのコロナ禍の中、心身ともにかなり追い詰められている状況だったと聞きました」とコメントしています。何があったのでしょうか?
栞【MV】
片桐 : コロナ禍でライブができなくなり、何を目標に頑張ったらいいかわからなくなってしまったんです。ステージは自分の本当の言葉を吐ける場所であり、自分が自分でいられる場所だったので。でも一方ではその期間にメジャーデビューする人たちもいて、みんな進んでいくのに自分だけ止まっているように感じられて......。そういう時に今回のアルバムの最後に入っている『アカツキ』という曲をつくりました。これは『浜の朝日の嘘つきどもと』ドラマ版の主題歌なんですが、このオファーがきっかけになったんです。
アカツキ【MV】
――どういうことでしょう?
片桐 : 竹原ピストルさん演じる夢破れた映画監督が福島の映画館で立ち直っていく、というストーリーなんですけど、その内容が自分の状況と一部シンクロしていたんですよね。だからこれは、自分と向き合わなきゃつくれないと思って、かなり考え込んで......。でも自分の人生を振り返ってみたら、これまでいろんな人たちにお世話になってきたことに改めて気付いたんです。自分の頑張りがそういう人たちにとっての幸せになったら、良い報告をすることで笑顔になってくれたら嬉しいなと思えてきて。そうしたら自分の中でいろいろなことが動き出したんです。人との向き合い方や物事の捉え方が、少しだけポジティブになったんですね。
――つまり、『アカツキ』ができたからこそ『栞』もできたと。
片桐 : そうですね。そこまで言い切っていいのかわからないけど、『アカツキ』を書けたから立ち直れたところはあります。『栞』という言葉は元々、木の枝を折って道標にしていたことに由来するらしいんです。この曲は、自分の道標をつくってくれた人、道を照らしてくれた人を思い浮かべてつくった曲なので、タイトルにふさわしい言葉だと感じました。
――なるほど、そう聞くと、漢字表記であることも含め、まさにこれしかないタイトルですね。2曲目の『在る日々』ではかなり強い歌詞を使っていますが、どういう経験や感情がもとになっているんでしょうか。
在る日々【MV】
片桐 : これは元々、コロナ禍になるかならないかくらいの頃に弾き語りで一番の歌詞まで書いていました。行きたくない飲み会や会合、バイトなどが念頭にありました。
――しかし、「行きたくない飲み会」の話から「死んでしまえたら」という歌詞までは、結構な距離があると思うのですが。
片桐 : たぶん、学生時代を思い出していたんだと思います。中学生になった頃から、自分のことが嫌いすぎるくらい嫌いになってしまったんです。それ以前はすごく明るい人間でコミュニケーションが得意だったけど、中学校に入った時、人間関係がうまくできなくて、そこから落ち込みやすくなってしまいました。
――生きていて許されない感覚があるんですか? 「生きてるそれだけで許してくれませんか」はかなり強い言葉ですよね。
片桐 : 普段から思っていることを素直に書いただけなので、あんまり考えたことがないというか。一番の歌詞までは、本当にすごく落ち込んでいたんですね。悲しいことにその時の気持ちに100%戻ることはできなくて、今こうやって話していてもなんだか他人事みたいに感じられる部分があります。コロナ禍になって1年ほどしてからこの曲の続きを書いてみたら、自分の中ですごく変化があって。
――歌詞が途中からポジティブになっていますよね。何があったんでしょうか。
片桐 : 母が「音楽やめて戻ってきてもいいよ。あなたが生きているだけでいいから」と言ってくれたんです。生きているだけでいいと思ってくれる人がいる、そう気付いたことは大きくて、たぶん私はそれだけじゃ満足はできないだろうけれど、そう思われているなら生きなきゃと思えた。それでちょっとだけ前に進めました。
――YouTubeのコメント欄などを見ると「救われた」という声が多いです。
片桐 : その言葉に私が救われています。配信ライブをやった時も「ありがとう」と感謝されたんです。こちらこそ、ありがとうという気持ちなのに。コロナ禍でもHakubiを必要としてくれる人たちの言葉には本当に救われています。
――11曲目の『悲しいほどに毎日は』は、ある種の諦念を抱えながらも進んでいく強い決意を持った曲で、シンガロングがテーマになっていますね。
悲しいほどに毎日は【MV】
片桐 : 一緒に歌うことができない、そもそもライブに来ることも難しい時代になってしまったけれど、いつか本当にまたみんなで歌えたらいいなという思いがありました。先日有観客でライブをやった時、ライブ会場に誰かがいること、聴いてくれる人がいること、必要としてくれる人がいることがこんなにありがたいことなんだと改めて気付いたんです。アレンジではアルくんがたくさんアイデアを出してくれました。
ヤスカワ : RADWIMPSが『天気の子』の主題歌でシンガロング系の曲で勝負していたし、YOASOBIもシンガロングの曲を出していましたよね。シンガロングは今、リスナーにとって聴き馴染みのあるアレンジだと思ったんです。それから、時代に逆張りしたい思いもありました。今歌えないからこそ、リスナーと一緒に育てていけばいい。歌えなかった期間の分もエネルギッシュにノッてくれるんじゃないかと思ったんです。もちろん、歌える環境になってから出してもよかったんですけど、この先へのフラグを立てる意味でも、1stアルバムにこういう曲を入れたかったんですね。
かっこよさは職業では決まらない
――今後、メジャーのフィールドでどうなっていきたいですか?
片桐 : インディーズのバンドもすごく好きだけれど、私は広い視野を持ってバンドを続けたかったし、Hakubiをもっと大きくしたいから、メジャーで勝負する道を選びました。自分が書く歌詞は、今後大きく変わることはないと思います。内容はネガティブだけど、同じような思いを抱いている人もいると思っていて。しかもそれを口に出せないでいる人がいると思うから、そういう人に届けたいと思っています。
マツイ : 今はメジャーもインディーズも垣根がないかもしれないけれど、メジャーは行きたくても行けない人がたくさんいる場所ですよね。ここで活躍して、家族や友達など、自分たちに関わってくれた人を安心させたいです。テレビやコンビニの店内放送など、みんなが生活するところで音楽が流れるためにはやっぱりメジャーの力が必要だと思うんです。1回しかない人生、どうせやるなら好きな友達と好きなことで一発花火をぶちあげたいし、その花火を見た友達から「お前らすげーな!」とか言われたいですね。
片桐 : 花火をぶちあげる……陽キャ(笑)。
ヤスカワ : メジャーからインディーズに行く選択はいつでもできるけど、その逆は一握りしか行けないし、運もある程度必要ですよね。挑戦できる機会がそもそも少ないので、そうした機会を得られたことにまず感謝して、せっかくのチャンスをものにしたいと思っています。高校生の頃は、いちばんかっこいい職業はバンドマンだと思っていました。でも今はそういうことは思っていなくて、じゃあ何がかっこいいかと考えたら、僕は、家族を養う男の人がかっこいいと思ったんです。職業ではなく生き方としてですね。かっこよさは、職業では決まらないと思うんです。
マツイ : パ、パンチラインや……!
片桐 : かっこいい……!
ヤスカワ : マツイが言ったこととほぼ同じですけど、外向きの仕事をするのであれば、やはりメジャーというフィールドにいた方がいろんな人を安心させられますよね。そこにひとつ付け加えるとすれば、自分の家族を持ち、親に孫を見せられるような、そういうところまでHakubiとして結果を出したいと思っています。
1stアルバム『era』
<CD収録曲>
01 栞(映画『浜の朝日の嘘つきどもと』主題歌)
02 在る日々(全国のラジオ局、CSチャンネルなど47局でパワープレイを獲得)
03 辿る
04 フレア
05 :|| (読み:リピート)
06 道化師にはなれない(カンテレ×BSフジ ドラマ『クロシンリ 彼女が教える禁断の心理術』主題歌)
07 color(アニメ『Artiswitch』第2話挿入歌)
08 灯
09 mirror
10 誰かの神様になりたかった
11 悲しいほどに毎日は
12 アカツキ(福島中央テレビ開局50周年記念ドラマ『浜の朝日の嘘つきどもと』主題歌)
<初回限定盤(disc2)LIVE DVD収録内容>
今年2/9に渋谷・TSUTAYA O-EASTにて行われた「極・粉塵爆発ツアー」初日のライブ映像を10曲収録
01 光芒
02 辿る
03 ハジマリ
04 アカツキ
05 サーチライト
06 在る日々
07 夢の続き
08 Sommeil
09 Dark.
10 mirror
Hakubi
公式サイト
https://hakubikyoto.com/
Twitter
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Instagram
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