2019年、節目となる15回目の開催を熱狂のうちに終えたCOMING KOBE。2020年4月4日には、15周年を記念したDVDの発売も決定している。今回は、2020年また新たなスタートを切る同イベントに関わりの深い2人を招き、それぞれの立場からCOMING KOBEへの想いを伺った。
過去15回すべてにトリとして出演し、16回目への出演も発表されたガガガSP・ボーカルのコザック前田と、株式会社パインフィールズ社員でCOMING KOBE実行委員長、さらには「music zoo KOBE 太陽と虎」の園長も務める風次。彼らはどのような目でCOMING KOBEを見つめてきたのだろうか。
Photo_Reiji Yamasaki
Text_Chihiro Yuuki
関わるすべての人で作り上げられてきたCOMING KOBE
――昨年のインタビューでは、年明けごろからどんどん忙しくなると伺いました。まさにいま、忙しいところですか?
風次 : 忙しいですねぇ(笑)。今年はコロナに少し振り回されながらやっています。カミコベらしい形でニュースを発信して業界全体を盛り上げられるといいんですが。前向きさは僕たちのウリだと思っているので!
――昨年は15回目という節目の開催でした。コザック前田さんは出演する側、風次さんは運営する側とそれぞれ立場が違うわけですが、また新しいスタートとして16回目に臨む心境はいかがでしょうか?
コザック前田 : どうなんやろ、もう今年で16回連続ですからね(笑)。ここまでくると毎年出演するのが当たり前のようにもなってくるんですが、今回のコロナのように計算できないことも起こりますし、ステージに上がれるありがたみを感じながら、いつも以上に準備して臨みたいなと思っています。
風次 : 節目を終えての16回目ということで、例年以上に情熱を持って取り組んでいけたらと。過去の開催に誇れるような16回目にしたいですね。
――過去15回の開催を振り返って、何か変化を感じることはありますか?
コザック前田 : 僕はお客さんの質が年々高くなっていると感じます。カミコベは入場料が無料だからこそ、マナーやモラルについてそれぞれのお客さんに委ねられている部分も大きくて。最近は良い意味でお客さんに驚かされることも多くなりました。お客さんのマナーが良くなると、こっちもむちゃくちゃやれへんから困るところもあるんやけど(笑)。暴れられる範囲がだんだん狭くなってきて、最近はおとなしいフリをせなあかんよね(笑)。
風次 : そういう時代なのもあるよ(笑)。カミコベはチャリティフェスなので、ネガティブなアクシデントを絶対起こしたくないんです。だから以前よりルールを厳しくしているところもあって。それでも個々のお客さんに委ねられる部分は少なくないので、本当にみなさんに助けられていますね。
――風次さんはどういったところに変化を感じていますか?
風次 : 僕が変化を感じるのは、お客さんと出演者、スタッフの熱量の高さです。カミコベは出演者やスタッフも全員ボランティアで参加してくれています。「善意で成り立っているフェスをみんなで作り上げていこう」という意識が年々高まっているんじゃないでしょうか。
コザック前田 : そういう主催者や演者の想いをお客さんが感じてくれているところはあるよね。15年前はインターネットもいまほど普及してなかったじゃないですか。SNSが発達して色んなところで人の想いに触れられるようになっているからこそ、熱が連鎖しやすいのかもしれないですね。
――COMING KOBEのラインナップを見ていると、神戸のシーンとも深いつながりがあるように感じます。この15年を振り返って、神戸のシーンで起こった変化があれば教えてください。
コザック前田 : もちろんめっちゃ変わってきているんですが、それがいつからかと言われると…。
風次 : 僕も365日太陽と虎で毎日音楽に触れているので変化は感じるんですが、いつから変わったのかが難しいですね。間違いなく変化はあると思いますよ。例えば、昔と比べると長く続くバンドが増えましたよね。20周年、25周年までたどり着くバンドが多くなりました。ガガガSPもそうですよね。一方で、若いシーンでは早くから音楽をよく知ってる子たちが増えてます。いまはYouTubeとかで映像を観て練習できるじゃないですか? 引き出しが多くてテクニックもある若いプレイヤーも多いですよ。
コザック前田 : 確かに。さっきの続きじゃないですが、インターネットのおかげで目的にたどり着くまでの道筋がどんどん合理的になってるのを感じます。昔は演奏法を覚えるにも、わけのわからん知らんおっさんから話を聞かないといけなかったんですよ。髪型なんかソバージュで、暇があったらうんちく垂れてるような(笑)。
風次 : それあの人やん(笑)。
コザック前田 : いや、誰って言うてないやん(笑)。そういう人から飲みに誘われて、延々話を聞いてやっとチャンスをもらえるみたいなことがよくありました。そういう遠回りがなくなってる分だけ、うまい子は増えましたよね。ご飯に誘っても「練習あるんで…」って断られることもあったり。
――なるほど。そこに「ちょっとな〜」と思うところもありますか?
コザック前田 : いや、もうそういう時代なんやって意識です。音楽的には面白くなってるけど、人間的には面白さが減ってる部分もあるんじゃないですかね。
――そういう意味では、COMING KOBEは人のつながりが強いイベントという印象があります。そういった部分は意識されてきたんでしょうか?
風次 : やっぱり大事にしてますね。僕がライブを観たことがないアーティストはブッキングしないようにしてます。できるならいっしょに飲みにも行きたい。カミコベは、一般的なフェスとは文脈が違います。出演するアーティストに趣旨を理解してもらって初めて、お客さんに想いが伝わり、募金額が増える。人とのつながりなしでは、ここまでやってこれなかったかもしれないですね。
出会いからずっと刺激しあってきた2人
――お二人はもう長いお付き合いなんですか?
風次 : 長いなぁ。
コザック前田 : こんなソファで二人にさせられてるのがこっ恥ずかしいよね(笑)。
風次 : 酒もないしなぁ(笑)。
――プライベートでも親交がある?
風次 : 2人はなかなかないよね。誰かと一緒のことが多いかな。前ちゃんが酒飲まんくなってからは一緒におることも減ったかも。
コザック前田 : 太陽と虎にはよく顔出すけどね。
――これまでを振り返ってなにか二人の思い出はありますか?
風次 : 初開催のとき、出演交渉がしたくて前ちゃんの飲んでた居酒屋に松原(※)と突撃しました。「この居酒屋で飲んでるよ」って噂を聞きつけて突撃したんですが、着いた頃には前ちゃんは2軒目のお店に行ってて。もうずっと前ちゃん探しですよね。第1回のときは、ちょうどガガガSPが活動休止してるタイミングだったんですよ。サプライズ突撃というのもあって、なかなか勇気のいるイベントでしたね。
※前実行委員長・松原裕のこと。ガンを患い、COMING KOBE19開催直前の2019年4月に亡くなった。
――初めて出会ったときのことを覚えていますか?
風次 : 覚えてますね。僕、当時コピーバンドをやってて、三宮のART HOUSEってライブハウスに出演したんですよ。そのときのゲストがガガガSPでした。もう20年くらい前かな?僕らはめっちゃ緊張しながら自分たちの演奏を終えたんですけど、ガガガSPはもうやりたい放題。裸のおっさん(コザック前田)がカウンターの上に立って歌ったり、もうぐちゃぐちゃやった。第一印象は「なんやこいつ!」でしたね。
コザック前田 : 人のこと言えへんけど、風ちゃん昔からめちゃくちゃやったよね。
風次 : あんたのがめちゃくちゃやったやん(笑)。前ちゃんがめちゃくちゃやるから、こっちも「負けられへん!」ってなってたところはあるよ!
コザック前田 : 中心メンバーなのにカミコベ当日も寝てたやん(笑)。
風次 : それ言うたら、前ちゃんはもう出番なのに路上で飲んでた(笑)。
コザック前田 : 出番前に会場の中で酔いながら弾き語りしてたらめっちゃ怒られたの覚えてるわ。いま思えばなんでもありやったな。
風次 : 「なんでトリで出てくるやつがそのへんで路上やってんねん!」ってなるやろ。どういうことやねん。
コザック前田 : 「伝説に残るようなおもろいことしたい」ってこと以外、考えてなかったよね。
風次 : でもね、本番前に酔っ払いながら路上で弾き語りしてトリの演奏がグダグダになるかと思いきや、ステージに上がったら最高の演奏をするわけですよ。「すげぇな、こいつ!」って思った記憶があります。
40歳を迎えて訪れた考え方の変化
――ガガガSPは新しいアルバム「ストレンジピッチャー」を3月にリリースするそうですね。
コザック前田 : そうです。3月18日に。オリジナルアルバムをリリースするのは5年ぶりになります。
――5年ぶりに新作をリリースする心境はいかがですか?
コザック前田 : ありがたいに尽きますね。昨年の9月に40歳になって、今年でデビュー20周年。20年前は40歳の自分が音楽してるなんて想像できないじゃないですか? でも現実は20年前と同じようにレコーディングして、新曲も出せてる。そういう境遇でいられることに感謝の気持ちでいっぱいです。
――「ストレンジピッチャー」はどんなアルバムになりましたか?
コザック前田 : ガガガSPの音楽を聴いたことのない人が、0から僕たちを知れるようなアルバムになりました。20年も経つと「ガガガSPの名前は知ってるけど、音楽は聴いたことがない」っていう人もたくさんいます。そういう人たちに僕たちのことを十分知ってもらえるだけの作品ができました。僕らは20年前と同じように音楽を続けていますが、考え方はちょっとずつ変わってきていて。20年間の変化も感じてもらえるアルバムになったんじゃないかと思っています。
――具体的にどのように考え方が変わってきましたか?
コザック前田 : 昔は、良い作品をリリースするバンド、良いライブをするバンドに対して、「ちくしょう!」って気持ちが強かったんです。音楽にかかわる物事をすべて勝ち負けで判断するところがありました。でも最近になって、相手を否定することが減ってきたんですよね。人って自分で自分を肯定できないから、相手を否定してしまうと思うんです。自分への肯定感が強ければ、否定なんてしないんですよ。40まで歳を重ねてやっと気づくことができました。昨年松ちゃんや親父、友達が亡くなったけど、自分は40になってもまだ音楽をやれている。そのことにありがたみを感じながらアルバムを作れました。
――お二人は同い年なんですよね?
風次 : そうです。だから言うてることめっちゃわかる。
――どんなところに共感しますか?
風次 : いやもう全部。言いたかったこと全部言われた(笑)。前ちゃんが変わっていく様子を近くで見てるので、なおさら感じるところがありますね。俺も酒やめよかな。
コザック前田 : いや、酒やめたらおもんないで。絶対おもんない。
風次 : でも精神的に落ち着いてるやん。
コザック前田 : まあ、それはあるけどね。
風次 : 僕、不安から酒に走ることが多かったから(笑)。前ちゃんには「ちょっと先いかんとってよ」って思うところもあるよ。40になって、松原も死んで。ほんまおんなじ心境ですわ。怒られることが減ったんで、ストレスはなくなりましたけど。アトピーも治りました。不安がなくなったんで、酒も飲まんくて大丈夫になったし(笑)。
コザック前田 : 僕は松ちゃんがそんなに厳しいっていうのも知らんかったよ。
風次 : 毎日起きたらLINEでめっちゃ怒られてるっていう。怒られが何件たまってんねんっていう状態。出勤してメール開いたら、やっぱりメールでも怒られてる(笑)。
――社内では厳しい人って印象ですか?
風次 : 厳しかったですね。その頃はもうガンだってわかってる頃だったんで、下手したら道連れにされるんじゃないかと思いました。24時間仕事のことばっかで、「そらガンにもなるわ…」と。怒られすぎて、僕が本人より先に死ぬかと思いましたね(笑)。
コザック前田 : 僕にはけっこう優しくしてくれてましたけどね。あ、でも1回キレたらいつまでも引きずってるところはあったなぁ。
風次 : まあ、もういないんで(笑)。
COMING KOBEが神戸の街にできること
――2020年、16回目の開催となり、また新しいスタートを切っていくCOMING KOBEですが、将来的な目標などはありますか?
風次 : 先のことはあまり考えてないですね。自分たちが楽しめるように、いま楽しいことを形していくだけです。目標ではなく、理想みたいなものならありますが。
――その理想とはどのようなものですか?
風次 : 若いバンドのフックアップもできるカミコベでありたいです。2009年から2018年までは毎年120組以上のバンドを呼ぶことができていました。やがてはその規模に戻していきたいですね。小さいステージから大きいステージまで、たくさんのステージが用意できれば、まだまだこれからのバンドも拾い上げていくことができるんで。
――出演される側からはいかがでしょう?
コザック前田 : シーンに還元できるようなライブをしていきたいですね。
――やっぱりカミコベの舞台は特別ですか?
コザック前田 : いや、特別だとは思っていません。結局カミコベのトリもライブハウスのステージの延長なんですよ。カミコベだから特別なことをするわけじゃない。ライブハウスと同じ演奏をして、お客さんに「ライブハウスみたいだった」と思ってもらえるのが、僕にとってベストなんです。そういう演奏を続けていくことがシーンへの1番の還元になるんじゃないでしょうか。昔から僕は「どうやったら神戸のバンドシーンが盛り上がるか」を考えてカミコベのステージに立ってきました。いまはひとりでも音楽を作れてしまう時代なんで、バンドってあまり合理的じゃないですよね。誰か抜けたら新しいメンバーを募集しなきゃいけないし、ときには休止しなくちゃならないこともある。メンバーで意思の疎通をはかるだけでも大変じゃないですか。それでも僕は若い子にバンドを組んでほしい。カミコベに来てバンドを組みたいと思う子が増えたらいいなって。カミコベが神戸の音楽シーンにできることって、こういうことなんだと思います。
――そういう意味ではこれまで15年にわたって開催してきて、そろそろCOMING KOBEを観て育った世代が次の音楽シーンを担っていく時代になってきていますよね。シーンに与えてきた影響を感じることはありますか?
風次 : ありますね。いまカミコベのステージに立ってるアーティストが、過去のカミコベの映像で客席に映っていたこともありました。最近になってそういうことが増えてきているのを感じます。
――具体的にはどんなバンドが?
風次 : さっきの話は、黒猫チェルシーです。1年目のガガガSPの演奏を前の方で観てましたね。過去にワールド記念ホールで開催したときは、入り口や食堂などのちょっとしたスペースで、まだこれからのアーティストに弾き語りをしてもらっていたんですが、その中には、あいみょんや岡崎体育、フレデリックといった名前もあります。キュウソネコカミは前身バンドのセルフボラギノールとして出演オーディションに一度落ちているのですが、そこからメインステージに立つまでになりましたね。
――錚々たるメンバーですね。まさに神戸のシーンとともにあった15年です。
風次 : そうですね。出会ってから成長していく姿を見守るのも楽しみのひとつになっています。ついにここまでになったか、と。
――最後にそれぞれの立場から、ブレずに長く活動を続けていくことへの想いをお聞かせください。
コザック前田 : そうですね、振り返るとブレブレだった時期もありましたよ。それでもファンや周りの人、メンバーに支えられながら、僕はここまでやってこれました。実際は器用じゃないから他のことをできなかったところもあると思います。できることの中から選んできたら、いつの間にか23年経ってましたね。長くやっていると、昔ガガガSPを聴いてくれていた人から「続けてくれているだけでありがたいです」なんて言われることもあるんですが、僕からするとそこに収まってしまうのは全然面白くないんです。やっぱりバンドとして活動するからには、その時代のカルチャーの最前線に立ちたい。そこに向かって頑張る姿を、カミコベ含め自分たちの活動の中で見せていきたいですね。
――風次さんはいかがですか?
風次 : 僕らは裏方なんで、自分たちの意思で続けてきたというよりは、需要があったから続けられたって感じです。これからもその繰り返しで続けていければいいと思っています。
――COMING KOBEについては、やめようと思えばいつでもやめられるものでもあったわけじゃないですか?なぜ続けるんですか?
風次 : なくすのがもったいないからです(笑)。やらなくてもいいかもしれないけど、あったほうが楽しいでしょ?それだけです。
――作り手の立場としてだけでなくお客さんやアーティストにとっても、神戸にカミコベがあったほうがいいという考え方ですか?
風次 : そうです。カミコベがあったほうが神戸が楽しくなるでしょ? もうそれだけ。カミコベによって神戸の街の価値が少しでも上がるならこれからもずっとやり続けます。そしてみんなが神戸で楽しんだ分で募金を集め、被災地支援や減災への取り組みを、阪神淡路大震災が起こった神戸から全国の被災地への恩返しとして続けていきます。
カミコベ15周年を記念したDVDが発売!
2019年の15周年を記念して、2020/4/4(土)に全国のHMV、ローソンLoppiでDVDが発売予定。第1回から参加するガガガSPはもちろん、2019年の出演バンドのライブ映像や熱いMCを中心に、過去映像やHi-STANDRADのインタビューなども収録。ナレーションに森山未來を迎えた豪華内容になっています。
COMING KOBE20
2020年5月16日(土)@神戸空港島 多目的広場
COMING KOBE20入場券:https://l-tike.com/comingkobe20
COMING KOBE関連チケット:https://l-tike.com/ck
15周年DVD予約・購入:https://www.hmv.co.jp/news/article/2003101027/
公式webサイト
公式Twitter
ガガガSP ライブツアー2020 「ガガガ・ハウス」
ミーティア限定のチケット先行販売を行います!
受付期間:3/19(木)12:00~4/19(日)23:59
https://l-tike.com/gagagasp/
<受付対象公演>
6/24(水)渋谷La.mama
7/11(土)福岡Queblick
7/18(土)仙台enn 2nd
8/1(土)名古屋CLUB UPSET
8/2(日)高松DIME
8/29(土)大阪MUSE
※4/8(水)神戸VARIT.~6/14(日)静岡UMBERの一般発売も同時受付中
3/18(水)発売ニューアルバム「ストレンジピッチャー」
https://www.hmv.co.jp/product/detail/10619024
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