これまでの活動を通じて、MCいつかは「自分たちはイロモノではないか」という、モヤモヤとした想いを感じ続けていたと言う。現役OLや毒舌キャラという音楽以外のトピックで注目されることも多いCharisma.com。だからこそ「もっと音楽的でありたい」という、いつかの強い想いは、結果として、彼女たちを大きく進化させる原動力になった。3月22日にリリースされたメジャー1stアルバム『not not me』は、全11曲に気鋭のクリエイターを迎え、生音をフィーチャーしつつ、最先端のサウンドを取り入れたバライエティ豊かな1枚だ。今回のインタビューでは、大胆に革命を遂げた最新作について聞きながら、冷静な視点でアーティストとしての立ち位置をアップデートするCharisma.comの魅力を探った。
Text_Rie Hada
Photo_Hiroyuki Dozono
――昨年末に会社を退職されたそうですけど。
いつか : ぬるっと辞めましたね(笑)。
――You Tubeでは「カリスマ、OLやめるってよ」っていう、記者会見風の動画まで作ってて、さすがだなと思いました(笑)
いつか : あれは演出的にやったんですけどね、実はふたりともぬるっと辞めてたんです。
――いつか辞めようとは思ってたんですか?
いつか : どっちかと言うと、続けられる範囲で続けられたらいいなとは思ってたん
ですけど。ちょっと活動的に通えなくなってきて、どうにもこうにも……という。
――そうですよね。会社を辞めてから生活は変わりましたか?
いつか : 会社自体は徐々にフェードアウトしていった感じだったので、退職してから劇的に変わったていうのはないんです。次の日を気にせず、作業ができるっていうのはありますかね。それと同時に(スタッフからの)プレッシャーもあるんです。務めてたころはスタッフさんもスケジュールを考慮してくれてたんですけど。いまは「時間があるんだから、遊んでるんじゃないよ」っていう(笑)。やるしかないんです。
――ゴンチさんは?
ゴンチ : わたしは仕事を辞めてからも、ちゃんと朝は起きるようにしてますね。体内時計が狂っちゃうと、お肌に良くないし(笑)。
――大事だと思います(笑)。デビュー当時は“現役OLアーティスト”というキャッチフレーズが武器にもなってたと思うんですけど、その肩書きに未練はありませんか?
いつか : ないですよね、全然。それこそ“現役OL”っていうのを言い訳にしてる感じもあったし。それを剥ぎ取ったときに、Charisma.comが本当に必要とされるか、されていないか、結果を出せるか、出せないかが問われるっていうのは、デビューしたぐらいから、「そういうときが来る」って思ってたので。
――そこに賞味期限があることをわかってた、と。
いつか : あと、現役OLが毒づいてるみたいな歌詞も、「会社を辞めたら、書けなくなるかな?」って思うときもあったんですけど。いまも会社のことを書いてますね。
――今作で言うと、「Lunch time funk」がOLのランチの曲ですもんね。
いつか : そうですね。「あ、たぶん、なくても大丈夫だ」と思うようになったんです。
――そう考えると、最初から冷静にアーティストとして先を見据えていましたか?
いつか : いや、見据えるというほどじゃなくて……感じることがある。女の勘ですね。
――デビューに前後して、急激に自分たちの名前が広がっていく状況に関しては、どういうふうに感じていましたか?
いつか : 正直、あんまり実感がなかったんですよね。「なんかライブがいっぱい入るなあ」っていうぐらいで。デビューする前ぐらいに、それこそ「HATE」とかが入ってる3曲入りの会場限定CDを出したころから、名前が広まり始めたと思うんですけど。1日に何枚もCDが売れた!っていう衝撃は、あの頃がピークだったんじゃないかな。
ゴンチ : わたしもあんまり実感みたいなのはなかったんですよね。Twitterとかでリプをくれる人が多くなったっていうぐらいですかね。
――ライブはどうですか? Charisma.comってジャンルレスに対応してて、たとえばロックフェスとかでも、お客さんをガッと掴んでいく印象がありますけど。
いつか : もともと同じジャンルの人がいないなっていうのは感じたりしてました。そういう意味で、自分たちはイロモノだと思うんですよ。バンドのなかにいる、ふたり組のラップの人たち。差し色的な要素なんだと思います。
――Charisma.comはイロモノなんて、ひとに言われます?
いつか : いや、言われないです。
――でも、自分ではイロモノだと感じてる?
いつか : そうですね。自分で納得いってない部分があるんですよ。だから、客観的に見たら、そういう表現(イロモノ)は間違ってはないなと思うんです。特に、わたしはちゃんと音楽的なことをやりたいっていう気持ちが強すぎるというか。でも、「Charisma.comはイロモノじゃないよ」って言ってくれても、なんか今は違うなと思ってしまう。
――なるほど。いまの話って、今回のアルバム『not not me』に直結する話だと思うんですよね。今作はCharisma.comの音楽的な部分を押し広げた作品だと思うから。
いつか : たしかに、いろいろなクリエイターさんと一緒に作品を作ることで、自分もちゃんと音楽をやる人として成長したいっていうのはありました。
――エレクトロから生音へっていうサウンドの変化もありますけど、アルバムを作るにあたって、考えていた構想はあったんですか?
いつか : 具体的にこういうジャンルがやりたいっていうのはなかったんですけど。前作までと違うものにしたいっていうのは思ってました。それをディレクターさんとも話をして。どうしたら、ちゃんと前に進んでいるように見せられる作品になりますかね?っていうところから始まったんです。そこから、「じゃあ、こういう人たちとやってみたら面白いんじゃない?」っていうアイディアが出てきたんですよね。
――それで、今作では豪華なクリエイター陣が集まることになったんですね。
いつか : 集まりましたね。
――クリエイターの方に音源を発注するにあたって、何か要望は出したんですか?
いつか : まず顔合わせ、兼、打ち合わせをしたんですけど。そのときに、共通して「生音を入れたい」っていうのは言いました。それと、速すぎないビート。いままでは4つ打ちの速い曲が多かったから、もっと隙間がある感じのサウンドがいいですねっていうことですね。あとは、各々に「いままでにCharisma.comはこういう感じだったんですけど、どういうことをやったら面白いんですか?」って、こちらから聞く感じでしたね。
――そこで何か発見はありましたか?
いつか : 意外だなと思ったのは、蔦谷(好位置)さんのアイディアでしたね。「Charisma.comがこういうのをやったら面白いんじゃない?」って、蔦谷さんが出してきた「not not me」は、丸っきりわたしのなかで想定していない感じのサウンドだったので、いちばん制作に時間がかかりました。
――ハマ・オカモトさんが楽曲提供してる「classic glasses」は、どうですか?ベースとラップのみっていうのは、かなり斬新だと思いますが。
いつか : これは、いま(世界的に)サウンドがシンプルになりつつあるじゃないですか。それを目指しつつ、ラップのかっこよさを引き立たせたいっていう話から始まったんです。じゃあ、何か楽器1個とラップだけはどう?っていうチャレンジとして、どの楽器にする?、ベースがいい、じゃあ、ハマくんとかどうですか?っていう流れですね。
――SOIL&PIMP SESSIONSの社長が提供した「婿においで」では、ソウルらしいジャズ感のなかに、ちょっとダークファンタジーっぽい要素もあって。
いつか : これは最初に「妖しい感じ」というのは言ったんです。具体的な曲を聴いてもらって。そしたら、社長さんも「そういうのが合うと思ってたんだよね」って、一致したので。トラックを初めて聴かせてもらったときは「これです」っていう感じでしたね。
――そうやって1曲1曲クリエイターさんから曲があがっていくなかで、これまで全然違う作品になるなという手応えはあったんじゃないですか?
いつか : そうですね。だから、これはいままでとは違うのは確実なんだけど、アルバムとしてまとまるかわからないっていう不安はあったんですけどね。
ゴンチ : いままでは現役エレクトロ・ラップ・ユニットっていうふうに紹介していただいてたんですけど、今回のアルバムが完成したことで、“現役OL”っていうところもなくなって、“エレクトロ”っていうところもなくなったなと思ってます。すごくバラエティに富んだ作品になりましたね。
SHARE
Written by