「ばあちゃんのことを思い出して、路地裏で泣きながら歌詞を書いてたんです」ーー 10-FEET・TAKUMAが語る「アンテナラスト」誕生秘話
10-FEETの久々となる新曲「アンテナラスト」。すでに大きな反響を巻き起こしているこの曲は、バンドにとって、そして日本のロックシーンにとっての、一つの金字塔になるはずだ。それだけの重みと大きさのある曲だと思う。
2012年にアルバム『thread』をリリースしてから4年、バンドから新曲の到着は途絶えていた。が、自らが主催する「京都大作戦」や数々のフェスへの出演を通じて、10-FEETに対しての求心力は増していった。待っていた人も多かったはずだが、それに応えるだけの大きな説得力を持った曲が届いた。
この「アンテナラスト」の歌詞は、去年に亡くなったTAKUMAの祖母との思い出がモチーフになったのだという。どんな思いが彼を突き動かしたのかを語ってもらった。
インタビュー・文=柴 那典
「絶対に大丈夫や」と思った
ーーまずは「アンテナラスト」の話なんですけど、曲を聴いた瞬間に、10-FEETが高いハードルを自分たちに課していたと痛感しました。実際、曲が完成する手前くらいの段階では、どんな実感がありましたか?
少し和調な感じが入りながら、その音階のクセが強すぎず、いいメロディーといい譜割りを持った曲というのを、前から作りたかったんですね。そのさじ加減が難しいなと思いながらも、昔からそういうテイストの入った曲を作ってきて。で、そういうものをメインのテーマにおいてやったのは2011年が最初で、その頃から、よりそういうテイストの濃いものを作り出したんです。ただ、「その向こうへ」という前のシングルと同時に作った頃の曲は、デモの段階で僕は「すごいのができた」と思ったんですけど、周りの反応はそうでもなかったんですよね。「なんでやろなあ」と思ってたんですけど、結局その時はお蔵入りしたんですよね。ひょっとしたらこういう系統自体が受け入れられへんのかな、と思って、しばらくはそういう曲を作らなかったんですよね。
そこから5年経って、今回のレコーディングのちょっと前にまたそういう曲が生まれたんですけど、一度デモになる前に作るのを止めたんですよ。「たしかアカンかったしなぁ」と思って。それ以外の曲を進めていったんです。いわゆる10-FEETっぽいミクスチャーな曲、パンクロックな曲を4曲くらい叩き台にしてレコーディングに入って。これが結構いい仕上がりになったんですけど、やっぱり、新しいこと、今までとは違うことをやろうと思ったんですね。それを新たな10-FEETのスタンダードにしていくことで、今後の僕らの音楽活動の広がりとか奥行きが出てくるんじゃないかなと思ってたんで。で、レコーディングの残り日数も少なくなってきた時に、ダメ元で止めてた曲を出してみたら、メンバーとかスタッフの反応がすごく良かったんですよね。2011年の時に作ってた曲とはメロディーも全然違いましたから、純粋にそのメロディーが良かったのか、もしくは5年間経った今の10-FEETがやる新しい音楽として、自然なものとして捉えられるようになったのか、それはわからないけれど、とにかくやってみよう、と。
で、途中まで作曲を続けていったんですけど、時間がなくなってきて、他の4曲を完成させるか、この1曲を完成させるかという選択を迫られたんですね。でも、僕の中には完成した状態のイメージがしっかりあったので、これは絶対に良くなると思って、その思いをただひたすらぶつけて作業に入っていった感じです。なんか「絶対に大丈夫や」と思ったんですよね。とりあえず謎の自信みたいなものでゴリ押ししたみたいな形にはなってしまったんですけど、骨組みが出来あがっていくにつれてみんなも「ええやん!」ってなっていって。
ーー「アンテナラスト」は曲展開もかなり巧みで、音楽的な面白みもすごくある曲ですよね。
アレンジにも時間がかかったんですけど、この楽曲の中で使っている要素って、10-FEETの中で新しいものって、ちょっと和調な音階以外は何一つないんですね。ただ、アカペラから始まって、そのあとにゆっくり目のレゲエのリズムがあって、そこから激しく躍動感が増していく展開は、これまであまりやってなくて。そこでもまたみんなと話し合って、10-FEETらしくないんじゃないかという話とかもあったんですけど、そこも謎の自信でゴリ押しして。具現化したものがない中で進んでいく時って、実際、熱意と説得しかないと思うんですよ。今の完成系は馴染みがなくて、迷いと不安もチームの中にあったんですけど、その時に思ったのは、僕らは常に新しいことに挑戦することにはこだわり続けてきたんですけど、全くやっていない音楽の要素とか、パフォーマンスというか、そういうことばかりに目を向けるんじゃなくて、できることの中でもやっていない順番があって。料理と一緒で、前菜を何にするかによってメインディッシュの味わいも変わってくると思うんで、そういうところになかなか挑戦できてなかったな、と。
Photo:HayachiN
気持ちを込めて一言で言わないと伝わらないようなときもある
ーーTAKUMAさんは、いつも曲が出来てから歌詞を書かれているんですよね。
いつもそうですね。
ーー今回の「アンテナラスト」の歌詞のきっかけになったモチーフはどういうものだったんでしょうか。
去年にうちのばあちゃんが亡くなりまして。僕は両親が共働きやったんで、小さい頃ばあちゃんに育ててもらっていたんですね。ばあちゃんのことも大好きやったんですけど、小さい頃、母ちゃんが仕事に行く時に、ばあちゃんの家に預けられてて。その時に「仕事行ってくるわ」って母ちゃんがいなくなってしまうことが嫌で、毎回泣いてたんですよね。それを見たばあちゃんは、なんとか泣き止ませて遊んでやらなと思って、僕の好きそうなおもちゃをカゴに入れて持ってきて「さあ、これでおばあちゃんと遊ぶで」って言ってくれるんです。でも、まだ子供やから、わんわん泣きながら「おばあちゃんなんか嫌や、お母さんがいい」って言って、そのカゴををバーンと払いのけるんですよ。で、おもちゃがすごい音を立てて散らばって、ばあちゃんが「しゃーないな、あんたは」って言いながら、そのおもちゃを一個一個拾ってるんですね。その後ろ姿が、子供ながらに可哀想に思えて、あんなにいつも相思相愛で遊んでる大好きなばあちゃんにひどいことを言ってしまったなって、大至急おもちゃを一緒になって拾って、遊びはじめてたような思い出があって。
そのばあちゃんが、いろいろなことを教えてくれたと思うんです。怒る時はガミガミ怒るし、つねるし、ビンタもする。一から十まで説教されるんですけど、でもそういうときは、「お母さんは仕事せなあかんの、あんたが生きていくために」とか、いくらでも説教のしようはあると思うんですけど、どうしたらこの子が泣き止むかなと、どうしたら気持ちを強く持てるかなと、どうしたらこの子は悲しくなくなるかなって考えて、一番力になる、勇気になる、安らぎになる言葉と表現、接し方を選んでくれていたと思うんですよね。それを思い出したことがあって。
10-FEETのチーム内でも友達でも、今まで付き合ってきた恋人もそうですけど、どうしても説明がましくなることがあるんですよね。謝ることひとつとっても、「ほんまはああいうことをしたくはなかったんやけど、俺もわかってんねんけど、しょうがなくてこういう風に言ってん。でも、言ったけど、あれは本気で言ったんじゃないし」とか。そういうシチュエーションというのはいろんな場面であるんですけど、結局理由とか言い訳をいろいろ言うより、「今回はもうひとえに俺が悪かった、ごめん」と気持ちを込めて言ったほうが伝わったりすることもあると思って。そうやって気持ちを込めて一言で言わないと伝わらないようなときもあるなって。ばあちゃんのことを思い出した時に、それが心をよぎったんですよね。
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