EP『ガラパゴス』は、4つめの転機?
(水曜日のカンパネラ『メロス』MV)
EPには『かぐや姫』から『キイロのうた』まで全8曲がおさめられている。ちなみに、ラップがメインの曲はひとつもない。
リード曲『かぐや姫』はこれまでにないほどスローテンポなリード曲で、「チルアウト」というテーマにふさわしい。作詞はコムアイによるもので、市川崑の映画『竹取物語』に影響を受けているという。
『南方熊楠』はトライバル・ハウス(民族的要素の強いハウスミュージック)。歌という概念から離れた、ループするダンスミュージックであり、『ガラパゴス』という言葉にもっとも合致したタイトルでもある。
『ピカソ』『メロス』はすでにデジタルシングルとして配信されていた曲。特に『メロス』は日本ダービー(GI)タイアップ曲として書かれ、モンゴルで撮影した壮大なMVも話題になった。R&B、ジャズテイストな曲。
『マトリョーシカ』は、フランスの気鋭バンド・Moodoïd(ムードイド)のパブロ・パドヴァーニとのコラボ曲。2017年に出演したフランスのフェス『ラ・マニフィック・ソサエティ』がきっかけとなり、今回のコラボに至った。ちなみに、『ガラパゴス』には収録されないが、2018年6月12日にはMoodoïd & Wednesday Campanellaとしてもうひとつのコラボ曲『Langage』も公開。
(水曜日のカンパネラ&Moodoïd『マトリョーシカ』MV)
(Moodoïd & Wednesday Campanella『Langage』MV)
さらに、ベッキーがCM出演した<BeatsX>イヤフォンキャンペーンソングに選ばれた『見ざる言わざる聞かざる』、『ユタ』を手がけたオオルタイチによる楽曲『愛しきものたちへ』が続く。
「人は惑うようにできている」(コムアイ)
『ガラパゴス』最後の曲『キイロのうた』は、映画『猫は抱くもの』のために書き下ろされた曲。作詞だけでなく作曲も主にコムアイが手がけている。「お互い愛しているけど現実では離れなきゃいけない」というコムアイ自身の恋愛経験を反映させたものだという。
「人は惑星だと思うといい、という話を聞いたことがあって。惑星の軌道は決まっていて、人はそれに沿うように動いている。人と人が会うのは、軌道がクロスする瞬間だと思うんです。惑星はまた離れてしまうけど、一回重なったということは近くにいるということだから、きっとまたどこかで会える。そう思うことにしたんです。その輪が大きければ次に会うのが80歳になってからかもしれないし、もしかしたら死んだ後になるかもしれないけど……、違う姿、違う匂いで、気付かなくても、何万年かまた先で惑星の軌道が重なるといいなって」(コムアイ)
(映画『猫は抱くもの』予告編)
今作における、最大の変化とは?
さて、これまでの水曜日のカンパネラの楽曲は、メッセージありきではなく、むしろそうしたものから距離を取った楽曲が多かった。歌詞の魅力はその脈絡のなさに比重が置かれ、言葉から意味が剥奪されていく。その結果、言葉は人間の五感を刺激する原初的な音により近付き、聴く人を陶酔状態にさせる。雑な言い方をすれば、「『桃太郎』は実はニートの話で、現代社会を批判しているんだね!」とつまらない評論を述べるより、「きっびっだ〜ん♪ きびきびだ〜ん♪」と歌う方が楽しい、しかも意味を考えずにただの音として楽しむ方が気持ち良い、というようなことだ。
しかし、『ガラパゴス』のいくつかの曲からは、歌詞に明確なメッセージが読み取れる。とくに『見ざる聞かざる言わざる』や『キイロのうた』にその傾向は顕著だ。
誰のためのルールなのさ
コンプライアンスを守れという
上層部の意見では少々品がない
(水曜日のカンパネラ『見ざる聞かざる言わざる』より)
何万年かまた先で
惑星の軌道が重なる
また違う姿で 違う匂いで
気付かなくとも境界線はまた揺らぐ
あなたが振り返るたび
葉が透けて届く光のように
そこらかしこに
(水曜日のカンパネラ『キイロのうた』より)
歌謡曲とダンスミュージックの両立
こうした歌詞の変化は、主にコムアイの変化によるところが大きい。コムアイの変化を、Dir.Fは「ようやく来た」という。
「もともとコムアイはメッセンジャーなので、いずれこうなるだろうとは思っていました。ただ、早い段階でそうなってしまうと後が続かない。本当に言いたいことって、そんなにたくさんあるわけじゃないですよね。せいぜい1つか2つ。そのメッセージがしっかり伝わる素晴らしい曲がいくつかあればいい。それ以外は音楽の楽しさを伝えていく。メッセージと音楽の楽しさ、両軸があればいいと思うんです。陰と陽があるように、悲しいことと楽しいこと、感傷と楽観、歌謡曲とダンスミュージック、両方成立させられるアーティストになっていきたいです」(Dir.F)
歌謡曲とダンスミュージック。この2つが、水曜日のカンパネラの音楽においてキーワードだと言えそうだ。
水曜日のカンパネラが目指すものとは?
「無数にある世界中の音の“入り口”になれたら」(ケンモチヒデフミ)
「自分のことを思い出して、自分であることを忘れる音楽」(コムアイ)
ではこの先、水曜日のカンパネラはどこを目指すのか? 音に触れた人に、どんなことを感じてもらえると嬉しいのだろう? 公開取材の最後に、コムアイとケンモチヒデフミの2人にその疑問を投げかけると、こう答えてくれた。
「聴いた人が、どんどん自由に何かを思いついてもらえるのが理想です。曲のディテールに注目してもらえるのもいいけれど、聴いているあいだに、どんどん自分のことを思い浮かべる状態になってもらえるのがいちばん嬉しい」(コムアイ)
「これ言いそびれていたけど、やっぱりあの人にちゃんと伝えておいたほうがいいなとか。あー、やっぱり離婚したほうがいいな、とか(笑)。もっと自分の人生をこんな風にしていきたい、とか。聴いているうちにそんなことをふと思い浮かべてもらえるといいなと思います。あともうひとつ。忘れてほしいとおもいます。自分が人間であることすら忘れてしまう瞬間が、音楽に触れるなかで訪れてくれたらいいな」(コムアイ)
「ふだんあまり音楽を聴かないひとにとっても、カンパネラの音楽が、いろんな音を聴き始める入り口になれるのが理想のひとつです。僕自身がポップスや歌謡曲を入り口にして、テクノやドラムンベース、そこから民族音楽、宗教音楽など原始的な音楽をきくようになっていって、いちばん踊れる音ってここにあったんだ!って辿り着いたりしていて。その感動が少しでも伝わって、日本も含めて、世界中の聴き尽くせないほどの多様な音楽の入り口、ハブのような存在になれると嬉しいです」(ケンモチヒデフミ)
水曜日のカンパネラ
最新リリース・イベント情報
『ガラパゴス』(CD)
2018年6月27日(水)発売
価格:2,700円(税込)
WPCL-12888
『水曜日のカンパネラ・円形劇場公演』
2018年6月30日(土)、7月1日(日)
会場:山梨県 河口湖ステラシアター 野外音楽堂
料金:前売 一般5,500円 高校生・大学生3,900円 中学生・子供2,500円
※2歳以下は無料、要保護者同伴
<オフィシャルサイト>
http://www.wed-camp.com
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