(左)庄司信也(しょうじしんや)
1978年、山形県出身。mister hollywood/n.hoolywoodの創立メンバーを経て、音楽レーベルYouth Recordsを立ち上げる。現在、Bar天竺のプロデュースはじめ、FACTORY1994のクリエイティブディレクター、DJ、選曲家、執筆、プロデュース、アート・ディレクションなどマルチにこなす。
(右)松本素生(まつもとそう)
1978年、埼玉県生まれ。ロックバンド・GOING UNDER GROUNDのボーカル兼Bar天竺の店長。楽曲の多くを作詞・作曲するほかミュージシャンへの楽曲提供も。最新アルバム『Out Of Blue』、ドキュメンタリーフィルム『the band』が好評発売中。12月21日に主催イベント『全方位全肯定』を控えている。
みなさんは、「Bar天竺」をご存知だろうか。渋谷と表参道のちょうど間、大人の隠れ家的な店が立ち並ぶ渋谷二丁目、通称“渋2”エリアに昨年末ひっそりと!?オープンした飲み屋だ。強炭酸の「東京No.1チューハイ」に、銀皿で提供される「タコさんウインナー」や「あの店のニラ玉」など、おしゃれな“渋2”に(良い意味で)似つかわしくないメニューの数々。店長はGOING UNDER GROUNDの松本素生さん、集まるのは有名ミュージシャンやアパレル関係者、役者、アーティストなどバラエティ豊か。それもそのはず、「Bar天竺」をプロデュースするのは、音楽レーベルYouthRecords主宰/FACTORY1994のクリエイティブディレクターとして活躍する庄司信也さんだからだ。夜な夜な音楽好きを惹き付ける「Bar天竺」の秘密に迫る。
Photo_Kousuke Matsuki
Text_Shoko Matsumoto
Edit_Ado Ishino(E)
いい音楽と、ナイスなチューハイ。Bar天竺のはじまり。
庄司:「もともとは、Bar天竺が入っているビルの3階を事務所として借りていたんです。2階はデザイン事務所、一階は定食屋だったんですが、あるとき、タイミングよく一階も2階も空くというので、だったら一棟借りしてしまおうかと。一階は飲食店だったから居抜きの状態だったし、みんな酒が好きだから、じゃあ飲み屋をつくろうと。それでどんな店にしたいか、とか、スタッフはどうするか含め、総合的なプロデュース、監修をすることになったんですよね」
かつて原宿で「kitchen WALTZ」というカフェバーを営んでいた庄司さん。良い音楽と美味しい酒、気の置けない仲間たちのたまり場だった。しかし2011年頃、惜しまれつつも閉店。また人が集まれる場所をつくりたかった、と言う。
庄司:「このあたりって、ナイスなチューハイが飲める店が少ないんですよ。バルでカクテル、みたいな店が多い。それで、洒落た街角にチューハイとかぶっ込んでみたらどうなるかな、と思って。遊びの延長みたいな感じですけどね(笑)。この街に思い入れがあるとか、このあたりに絶対店を出したかったっていう強い思いはないから。でも、せっかく空いた物件、なにかおもしろいことしないともったいないかなと思って。内装はFACTORY1994のアートディレクターの半ちゃん(半田淳也)にやってもらったりしましたね。Bar天竺は夜の営業なんですが、昼はCafé and MACROBIというマクロビオティックなカフェが営業していて、そのケミカルとヘルシーの融合もおもしろいんじゃないかなと思ってますね」
「俺、店長やろうか?」
2015年11月、内装も整い、オープンまでいよいよ2週間をきったころ、思わぬアクシデントが起こる。
庄司:「店長も、そのときほぼほぼ決まってたんですよね。本人もやりたいと言ってくれていて。あと2週間くらいだから、いろいろ詰めていかなくちゃいけない、そんな時にとある家庭の事情でその店長候補は働くことができなくなってしまった。焦りましたね」
ちょうどその頃、GOING UNDER GROUNDが前の事務所を辞め、Youth Recordsに所属する流れがあった。これからの活動をどうするか、打ち合わせでボーカルの松本素生さんと話し合う機会が多かった。
庄司:「素生くんと打ち合わせする流れの中で、どうやら俺がプシュープシュー言ってたみたいで(笑)。2週間後に迫った店のオープンのことで、打ち合わせ中も気が気じゃなかったんでしょうね。そうしたら、そんな俺を見かねてか素生くんが『じゃあ俺が店長やろうかな』って言ってくれたんですよ。嬉しかったですけど、とは言え彼はミュージシャンだから、やってくれたとしてもレコーディングが始まる2016年の3月くらいまでかなと思ってたんですよね」
そうして決まった店長・松本素生。無事にオープンを迎え営業を続ける中でレコーディングが迫り、そろそろ次の店長を探そうかというその時、素生さんから思わぬ言葉が発せられる。「もう少し、続けようかな。なんだか、性に合っている気がする」
曰く“激ゆる”な成り立ちで生まれた「Bar天竺」。今年の12月で一周年を迎える。庄司信也さんと、ひょんなことから店長になってしまった松本素生さんで、これまでの一年間を振り返る。
松本:「ほんとはね、飲み屋といってもバーだと思ってたの。酒つくるくらいならできるかと思ったし、バンドの活動をリセットする時期って決めていたから時間もあるし。それに、庄ちゃん(庄司)の話っぷりから、もう俺しか店長やる人いないんじゃないかって切実さを感じたんだよね。『素生くん、店長やるって言ってくれないかな〜』って」
庄司:「まじで? 出してた?(笑)」
松本:「うん、出てた。だからおもしろそうだし、『じゃあ庄ちゃん、俺やろうか?』って。料理もできるしね」
庄司:「でもその時、まだ素生くんは内装も見ていないから、頭の中ではカウンターだけのバーのイメージだったんだよね」
松本:「そう、それで、じゃあ店を見にいこうっていざ来てみたら、テーブル席もいくつかあるし、思いのほか広いし、おいおいこりゃバーじゃないぞってテンパりだして。ちゃんとやらないと大変だぞと。オープンまで2週間しかないし、後には引けないし」
庄司:「多分、やべぇ!って思ってたんだろうけど、こっちとしては店長やってくれるって言うからだいぶアガってたからね、『やったー!』みたいな(笑)」
松本:「でも、期間限定だしな、と思って引き受けて。並行して店の打ち合わせも進むんだけど、みんなマジな話してるから、おいおいおい!と思ってた。最初はとにかくてんてこまいだったよ」
庄司:「プレオープンってかたちで昨年の11月に数日レセプションをやったんだよね。それがもう本当に大変で。あれが足りない、これが揃ってないって。このままじゃいろいろ間に合わないからって一旦休憩して、12月に正式オープンしたんだよね」
松本:「酒を買いにいくのも俺、グラス揃えるのも俺。12月はツアーも入っていたから、ツアー先から発注したり。挙げ句、天竺の夢を見るっていう」
庄司:「あははははは!」
松本:「追い込まれちゃって」
庄司:「彼らのファンクラブの会報があって、それを素生くんが書いているんだけど、日々の雑感に天竺のことしか書くことないって言ってたね」
松本:「遊び半分で参加してみたら、やっぱり店をやるっていうのはビジネスのところもあるし、ちゃんと固まり始めたのが春が終わったころくらいだったね。それまでは何がなんだかわからないままやってましたね」
春ごろまで、という期間限定の予定だった素生店長。次の候補に交代するかと思いきや、がっつり店長のまま、間もなく天竺は丸一年を迎える。
「天竺」がなければ、アルバムも生み出せなかった
松本:「『忙しくなったから辞めます』って言ったら、相当な迷惑をかけるっていうのはわかってるんですよ。だから今でもそうだけど、いい料理人がいたらナンパしてるし、次にやる人のことは考えてる。10月に天竺をやりながらツアーをしたとき、疲れすぎてヘルペスできちゃって(笑)。もうひとりくらい料理を作れて店を回せる仲間がいるといいなと思ってますね。飲食店は人の問題が8割だからね。でも、やっぱり楽しいから店長を続けているんだよね。マイナスなことが、肉体的に疲れるってことくらい。閉店した後に店で曲づくりをすることもあるし。8月にアルバムを出したんだけど、天竺がなかったらできてなかったと思ってる。俺がバンドをやってるって知らないで来る客ももちろんたくさんいるから、そういう客とのやりとりが、曲を書くときにすごくいいんだよね。そのバランスは自分の中で噛み砕けているから、嫌なことがあったとしても、作曲のガソリンにしかならないっていうか」
庄司:「おもしろい客もたくさん来てくれるからね」
松本:「別の席で飲んでた人たちが、いつの間にか一緒になって飲んでたりすると、店長目線でうれしいなと思うよ」
「Bar」の領域を飛び越えた天竺が、目指すもの
12月に2周年目に突入するBar天竺の、これからとは。
庄司:「夏にビルの雨漏りで、レコードプレーヤーやらスピーカーやらが壊れてしまったから、いいやつを新調しましたよ。またいい環境で音楽を流せるように。それから、いまはスタッフがミュージシャンや役者、ニットアーティストとかだから、飲食に特化してるスタッフを探していきたいね。でも、そういう多ジャンルのスタッフがいるからおもしろいっていうのもあると思うけどね」
松本:「Bar天竺って言ってるけど、もうバーじゃない。今じゃ砂肝のコンフィまで出してるから(笑)」
庄司:「最初のころは、料理をつくりたくないから宅配ピザをご自由に、ってメニュー表に書いていたのにね(笑)」
松本:「でも天竺では、そういうほかの店ではできないような使い方とか楽しみ方をお客さんにもしてほしいですね」
(オマケ)庄司氏、松本氏からのゆるやかなメッセージを。
Bar天竺
渋谷区渋谷2-7-4 KSビル 1F
☎︎03-6805-0315 日休
(月〜木)19:00~24:00〈FOOD LO:23:00、DRINK LO:23:30〉
(金・土)19:00~28:00(LO:27:30)
https://www.facebook.com/bartenjiku/
《スタッフ募集》
Bar天竺では、金・土の深夜帯に入れる(経験者超優遇!) スタッフを募集しています。 条件面・各御問い合わせは☎︎03-6805-0315まで。 19:00〜23:00の営業時間にお問い合わせください。
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