『マッカメッカ』赤と青が見えた曲
おそらく、現在のパスピエのモードがもっともはっきり反映されているのは、1曲目『ネオンと虎』と2曲目『マッカメッカ』だろう。この2曲が今回の軸になりそうだ。
パスピエ『マッカメッカ』MV
『マッカメッカ』はアルバム曲のうち最初に解禁され、直後から「言葉遊びが面白い」とSNSを中心に話題を集めていた。たしかに遊びを感じるふしぎな歌詞は、そこにどんな意味が込められているのか謎解きをしたくなる。
大胡田 : まずはこういうメロディなので、韻を踏んで、聴いたときに耳心地のよいものにしたかったんです。赤と青という色が最初に見えたのはこの曲でした。そういえば、タイトルに“真っ赤”を入れようと考えていたとき、成田さんが“メッカ”という言葉を出してくれたんですよね。
真っ赤という言葉からメッカが出てくるところが面白いが、「だって真っ赤だったらメッカでしょ」と成田は当然のように言う。どういうことなのか?
成田 : 基本的には“マッカ”という音から連想したものです。ぼくは音にハメるやり方でしか歌詞を書けないんですよね。もちろん意味として崩壊しないようにはするけど、この音はこの行の言葉がいいな、という発想でつくっていく。歌詞は言葉だから意味はあるけど、意味を求めすぎてしまうと本質とズレてしまうことがある。そうならないようにしたかった。
ちなみに、メッカは正しく発音すると“マッカ”(Makkah)になる。つまりこの2つの言葉には繋がりがあって、無関係ではない。なぜメッカなのかを考えることは、この曲の楽しみ方を広げてくれるだろう。とは言え、やはり成田が言うように、音と意味とのバランスに『マッカメッカ』という曲の魅力の秘密がありそうだ。
パスピエのあたらしい一面
アルバムは、ヴァイオリンを取り入れた『Matinée』、「ゆら ゆら」というリフレインが印象的な『かくれんぼ』、そしてポップでメロディアスな『トビウオ』へと続き、昨年リリースした『&DNA』や『OTONARIさん』のムードを引き継ぎながら、これまでのパスピエとはすこし異なる印象の2作品で閉じられる。
6曲目の『オレンジ』は、はじけるベースとカッティングギターが印象的なファンク・ディスコチューン。「ここまでストイックにカッティングしたのは初めて」と三澤が言えば、「弾くのが楽しい」と露崎。トラックメイカー的な曲が生バンドで表現され、パスピエのあらたな一面が垣間見える作品となった。
ラストの『恐るべき真実』では大胆にピアノがフィーチャーされている。幼い頃からピアノを学び、東京藝術大学でクラシック音楽を専攻していた成田の経歴を考えれば意外ではないが、これほどクラシックの要素を前面に打ち出した壮大な曲は、実はこれまでのパスピエにはなかったものだ。
成田 : この曲は、ピアノで弾いたときに得た着想をそのままバンドに広げるようなイメージでつくりました。シンセサイザーを弾くときとピアノを弾くときでは、やっぱりすこしモードが変わるんですよね。
その感覚は、ギターやベースでも同じらしい。『恐るべき真実』は、どの楽器を使うかの試行錯誤がもっとも求められた作品でもあったそうだ。
三澤 : エレキとアコギではもちろんのこと、ストラトキャスターとレスポールでも感覚が全然違う。だからどのギターを使うか、今回すごく悩みました。
露崎 : 普段使っていないベースもたくさん試したから、ベースマニアの人にはそのへんを聴いてもらえると嬉しいですね。
自分たちが歩んできた系譜の順になっている
「今回の曲順は、自分たちが歩んできた系譜の順になっている気がしない?」まるでいま気付いたかのように成田がそう言うと、大胡田も「言われてみたらそんな感じがしてきた……あっ、そうかもね!」と表情を明るくする。あらためてこの7曲を順番に聴いていくと、あることに気が付く。
曲順は成田が決定したものだ。成田の案に3人とも納得したというが、その納得感は「自分たちが歩んできた系譜」が現れていたことによるものだった。ニューウェーブで始まり、オリエンタルな曲やポップな曲を経て、またニューウェーブに戻ってくる。『ネオンと虎』には、パスピエの歴史がまるまる詰まっていると言っても過言ではない。
それにしても、パスピエはリリースのペースがちょっと早いのではないか? 2017年はフルアルバム1枚とミニアルバム1枚をリリースし、そのあいだに全国ツアーと東名阪ツアーまでやっているのだ。
成田 : パスピエの名前の由来はドビュッシーという作曲家の楽曲ですけど、クラシックの作曲家って、生涯で数千という数の作品を残しているんですよね。自分はそういうところに美学を感じているので、彼らのように、たくさんつくってアップデートしていきたいと思っています。
とは言え、(繰り返しになるが)全国ツアーを挟みながらこれだけ楽曲をつくることは、簡単ではないと思うのだが……。
成田 : いや、逆に、もっともっと曲はあります。べつに必死になってこのペースで出しているわけではないし、つくることは全然苦ではないです。枯渇したと思う瞬間も、ありがたいことにまだ一度もないんです。
こんなことを平然と言えるのだから、パスピエというバンドにはまだまだ相当な奥行きがありそうだ。
パスピエの運命の出会い
最後に、「みなさんの運命の出会いは何でしたか?」というカジュアルな質問を投げてみた。一瞬、間があったが、すぐに大胡田がメンバーを見て「でもそんなのパスピエ以外にないよ〜」と笑った。
大胡田 : 正月に成田さんに呼び出されて、横浜のスタジオで成田さんのピアノを聴いたとき。パスピエが始まったあのときが運命の出会いだと思う。
成田 : でも大胡田がそう言い始めちゃうとさ、もうみんなパスピエとしか言えないじゃん(笑)
三澤 : じゃあ、それにします(笑)。中学1年のとき、選択音楽の授業でギターを弾かなきゃいけなくて。たまたま家の倉庫に、母親が昔使っていたギターがあったんですよ。埃をかぶってチューニングもあってないそのギターを初めて鳴らした瞬間、『あ、俺プロになるんだ』って勘違いしたんです。それが運命だと思います。
露崎 : ぼくは初めてベースを買ったとき、田舎だったこともあって、お店に左利き用のベースがなかったんです。楽器屋の店員さんに『最初は右も左もわかんないから大丈夫だよ〜』って変にうまいことを言われて、右利き用のベースを買いました。だからもしかしたら、あの店員さんが運命の出会いだったのかも。(※露崎は左利きだが、右手用のベースを弾く)
成田 : ぼくはもともと持病があって身体が弱かったんです。そのおかげで小さい頃から音楽にのめり込めた。もし元気な子どもだったら、たぶんここまで音楽にハマっていなかったと思います。だから自分の運命は……身体が弱かったこと?
大胡田 : 成田さん、不健康な幼少期を過ごしてくれてありがとう(笑)。
リリース情報
mini album 「ネオンと虎」
1. ネオンと虎
2. マッカメッカ
3. Matinée
4. かくれんぼ
5. トビウオ
6. オレンジ
7. 恐るべき真実
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ツアー情報
パスピエ TOUR 2018 “カムフラージュ”
全国15都市21公演。詳しくはこちらから。
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