ぼくのりりっくのぼうよみが、初の全国ツアー『ぼくのりりっくのぼうよみ TOUR 2017』の追加公演を5/21(日)、東京・新木場STUDIO COASTで開催した。本ツアーは、今年1月にリリースした2ndフルアルバム『Noah’s Ark』を携えたツアーで、ぼくのりりっくのぼうよみにとって初の全国ワンマンツアー。
本記事では、当日の様子をレポートした上で、タイトルに示した通り「ぼくのりりっくのぼうよみは未来の人類が現代に送ったVRなのでは?」というトンデモ仮説を、半分冗談半分真剣に提示する。
Text_Sotaro Yamada
Edit_司馬ゆいか
二部構成のライブ
この日の公演は、これまでにリリースした曲や新曲などで構成される第1部と、アルバム『Noah’s Ark』収録曲から構成される第2部に分かれて行われた。
まずは第1部、暗転した場内にピアノが流れ『Black Bird』の前奏が始まると、ゆっくりとぼくりりが登場。歌詞カードには書かれていないがライブではおなじみのリリック「お前ら全員バカばっか」でライブはスタートした。しっとりした雰囲気の中、ピアノの音色とぼくりりの歌声が場内に響き、オーディエンスを「hollow world(うつろな世界)」に引き込んだ。
続いて、ドラム、パーカッション、DJというサポートメンバーがステージに現れ、『CITI』からの『sub/objective』。メンバーとの息も抜群で、軽やかに人気曲を演奏し雰囲気を変えた。さらに、「カバーをやります」と椎名林檎の『本能』をゴージャスにアレンジしたり、SOIL & “PIMP” SESSIONSのタブゾンビ(Tp.)と秋田ゴールドマン(Ba.)をステージ中央に呼び込んで『Summer Love』をカバーしたりした。
「ベースとキーボードが一体化する感じ。ある種のジャムセッションというか、その場のノリで毎回違う曲になるのが最高だと思います」
そんなぼくりりの言葉が印象的だった。確かに、ニコニコ動画出身であるぼくりりからすると、生演奏やアドリブは新鮮なのかもしれない。
新曲『SKY’s the limit』と『つきとさなぎ』も早々と披露。
『SKY’s the limit』は資生堂アネッサCMソングに起用されており、これまでのぼくりりのイメージを更新するような前向きな応援ソング。手をあげて笑顔で体を揺らすオーディエンスはみんな「強く美しく輝」いているように見えた。第1部のハイライトはこの曲だっただろう。
ぼくのりりっくのぼうよみ『SKY’s the limit』MV。このMVでぼくりりは女装して自撮りしている。知らない人が見たらフツーにかわいい女の子だと思うかも
『つきとさなぎ』はTV東京系で放送されているドラマ『サイタマノラッパー〜マイクの細道〜』のエンディング曲に起用されており、より広い層とコアなヒッピホップファンにも訴えかける曲。ちなみに、同ドラマのオープニング曲はライムスターが担当しているが、ライムスターからのぼくりりという流れには、日本のラップミュージックの歴史と未来が凝縮されたようにも感じる。
そして第1部のラストは『Sunrise』。
「知ってたら一緒に歌ってくれると嬉しいです」というぼくりりの言葉に、オーディエンスも大合唱で応える。ぼくのりりっくのぼうよみというアーティストがシーンに現れた時の期待感や新時代感を再び思い出させてくれるような、爽やかで鮮やかな第1部の締めだった。
第2部『Noah’s Ark』
第2部が始まると、ステージには紗幕がおり、開いた本の絵が投影される。おそらく聖書をイメージしたのだろう。本の中にはノアの箱船を思わせる動物たちの影絵が投影される。ぼくりりによる物語の朗読を経て、アルバム『Noah’s Ark』のオープニング曲である『Be Noble』がスタート。第1部の明るい雰囲気からは一変して、会場は厳かでダークな雰囲気になった。
ここからはすべての曲の合間に朗読が挟まれた。
その内容はアルバム『Noah’s Ark』の内容を補足するものであり、『Noah’s Ark』を音楽とは別のレイヤーで伝える試みであった。また、これから演奏する曲の説明でもあり、曲と曲の有機的な繋がりをよりわかりやすく伝える工夫でもあった。
アルバムを何度も聴いたリスナーにとっては明白なことかもしれないが、『Noah’s Ark』というアルバムは、それ自体が一遍のストーリーになっている。まるで小説のように、1曲目『Be Noble』から10曲目『after that』までが通しで起承転結の形になっているのだ。だから、もし本当に『Noah’s Ark』という作品を聴こうと思ったら、1曲目から順に聴くのが理想的な聴き方というわけだ。そうしたことから、本ツアーではアルバム『Noah’s Ark』の曲順通りにセットリストが組まれた。
『Be Noble』、『shadow』、『在り処』、『予告編』とアルバム通りに進んで行く中、1曲だけ、アルバムに収録されていない曲が演奏された。それが『対象a』という曲。これついてはほぼ何も言及がなかったから、ニコニコ動画カルチャーやアニメについてよく知らない人にとっては何の曲だかわからなかったかもしれない。
『対象a』は、Annabelとbermei.inazawaによるユニット、anNinaによる楽曲で、TVアニメ『ひぐらしのなく頃に解』のエンディングテーマになった曲。
つまり今回のライブで3曲目のカバー曲ということになる。
ひぐらしのなく頃に解ED 対象a full https://t.co/BwZR097efZ @YouTubeさんから 名曲すぎる・・・・・・・
— ぼくのりりっくのぼうよみ (@sigaisen2) 2015年10月2日
この曲、ぼくりりが「原点」と明言するほど彼に影響を与えた曲らしい。
雑誌『BRUTUS』2017年4月15日号によると、ぼくりりは13歳の時に『対象a』を聴き、驚いたという。そしてこうコメントしている。
僕は音楽でも小説でも、ダークな世界観にとても惹かれるんですが、その原点はこの曲だと思います。多感な時期に刺さったものって、その後の嗜好にずっと影響を与えるんですね。
(『BRUTUS』2017年4月15号、p90)
このコメントと、『対象a』が本ライブ第2部でカバーされたことを考えると、『対象a』こそが『Noah’s Ark』の芯だったのではないかという気がしてくる。『Noah’s Ark』は、彼が13歳の頃に『対象a』を聴いた瞬間からゆっくりと育ち始め、6年かけて形になった作品なのかもしれない。美しいファルセットでこの曲を歌い上げる様は、普段Twitterなどで「わ〜〜〜おなかへった〜〜〜」などと言っているぼくりりのイメージからは想像できないほど張りつめていて、多くの人が息を飲んだ。
こちらは『ひぐらしのなく頃に奏』に使用された『対象a』インストver.
続く『Water boarding』では、ステージ上部のスクリーンに水が溢れる様子が映し出され、ここから『Noah’s Ark』の物語は核心に近づいていく。ゆっくりと変化する照明の効果もあり、徐々に場内を緊張が満たしていく。 『Newspeak』(言葉の数が限定され思考ができなくなっていく歌)と『noiseful world』(情報の洪水にのまれて人々が無機物に成り下がる歌)の展開にオーディエンスはじっと見入り、息が詰まるような雰囲気になった。
その緊張が『Liar』で決壊すると、ラストの『after that』で、オーディエンスは一種のトランス状態に陥ったかのように、この日いちばんの盛り上がりを見せた。
ぼくのりりっくのぼうよみ『Newspeak』MV
ぼくのりりっくのぼうよみ『noiseful world』ライブ映像
ぼくのりりっくのぼうよみ『after that』MV
ぼくりりがステージを後にすると、ステージ上のスクリーンには映画のようなエンドロールが流れた。ぼくりり直筆のお礼メッセージが映し出され、今秋の東阪ワンマンライブ開催も発表された。この発表で、興奮さめやらぬ多くのオーディエンスがさらに沸いた。
アルバムとライブでひとつの作品が完結する非常にコンセプチュアルな『Noah’s Ark』は、始めから終わりまでオーディエンスの感情を激しく上下に揺さぶりながら、こうして幕を閉じた。
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