5月20日に25LAS BICYCLE WORKSが主催する1DAY レースイベント『TRACK BIKE UNION』が、山梨県・境川自転車競技場で開催された。このレースへの参加はTRACK BIKE、日本でよりなじみのある言葉で言うと“ピストバイク”(競輪で使用される固定ギア&ノーブレーキの自転車)のみ。競輪場を一般のピスト乗りが走るイベントはこれまでもあったが、『TRACK BIKE UNION』は最終的に“東京の公道でピストバイクレースを開催すること”を目標としている点がそれらとは異なる。ピストバイクの新たな試みとして開催されたイベントのレポートから、このカルチャーの今を追った。
Photography_Yoshinori Yamaguchi、MASANAO MATSUMOTO
Interview&Text_yuji“RASCAL”nakamura(NaNo.works)
【TRACK BIKE UNION :full video】
『TRACK BIKE UNION』を開催するキッカケ
『TRACK BIKE UNION』を主催する25LAS BICYCLE WORKSは、中目黒にあるバイシクルショップ。オーナーの25LASはピストバイクに造詣が深く、自身で『I AM THE LAW』というイベントを定期的に開催するなど、レースのオーガナイズにも定評がある人物だ。
25LAS
©yuji“RASCAL”nakamura
そんな彼が憧れ、『TRACK BIKE UNION』を開催するキッカケになったレースがある。その名は『RED HOOK CRIT』。
RED HOOK CRITはニューヨーク・ブルックリン生まれの自転車レースで、2008年にオーガナイザーを務めるデビッド・トリンブルが、自身の26歳の誕生日にレッドフック地区でレースを開催したことに端を発する。当初は知る人ぞ知る“アンダーグラウンド”レース、しかしその評判は現地のメッセンジャーなどから口コミで広がり、次第に参加者を増やしていった。
【Red Hook Criterium Brooklyn No.10 Trailer】
レースは他の交通機関を遮断して街中に作られたコースを周回する「クリテリウム」と呼ばれる方式を採り、固定ギア&ノーブレーキのピストバイクが用いられる。メインレースは日が落ちてからのナイトクリテリウム、雨が降ってもお構いなしで、時には激しいクラッシュも避けられない。
その“クレイジーさ”は自転車、そしてピストバイクに新たな刺激を求めていたサイクリストたちの熱狂的な支持を受け、現在ではブルックリン、ロンドン、バルセロナ、ミラノでシリーズが開催されるまでに規模を拡大。参加者は自転車との関わり方はそれぞれ異なれど“走りのプロ”であり、中途半端なピスト乗りが参加できるものでないことは、レースの動画を見てもらえればわかるだろう。
【RHC – Red Hook Crit 2016 Sizzle Reel】
オーガナイザーのデビッドは2015年に日本を訪れた際に25LAS BICYCLE WORKSを訪れ、ライドイベントにも参加している。その時にはすでに25LASには構想があったのだろう。それは日本版の『RED HOOK CRIT』だ。
ただし、公道でレースを開催するにはさまざまなハードルがあり、なにより行政の協力が不可欠。そして行政を説得するには、開催実績も判断材料のひとつとなる。イベントの前日に25LASを訪ねた際に、「明日のイベントは最終的な目標に向かうための“ゼロ”のような位置づけのイベント」と語っていた。
今回の『TRACK BIKE UNION』は最終目標に向けた“プレイベント”的な意味合いがあり、舞台となった境川自転車競技場の所長・小林一也さんが、25LASの意図を汲んでくれたことで実現に至ったのだ。
小林一也
©Yoshinori Yamaguchi
“ピーカン”のバンクにピストを愛する強者たちが集結
©Yoshinori Yamaguchi
イベント当日の気温は30℃に達し、暑すぎると言うのは贅沢な悩みの“ピーカン”晴れだった。このイベントのウワサを嗅ぎつけて、東京からだけではなく、地元・山梨からも10数人が参戦。そして会場には、自転車ショップやファッションブランド、そしてフードのブースも出展してイベントを盛り上げた。
©Yoshinori Yamaguchi
©Yoshinori Yamaguchi
©yuji“RASCAL”nakamura
レースは1対1の1周トーナメント、1対1の3周トーナメント、そして10人混走の複数周のレースなどが行われた。
1対1のレースは、ピストバイクのシンプルな速さが味わえるスリリングな展開に。そんな中、弱冠17歳の“さわけん”がスタート直後に(ペダルとビンディングシューズを固定する)クリートが外れるアクシデントがありながらも、驚異的な追い上げを見せて優勝するサプライズがあった。
©MASANAO MATSUMOTO
さわけん
©Yoshinori Yamaguchi
そして1対1の3周、さらに10人混走の複数周と人数、周回数が増えれば増えるほど、レースの“駆け引き”という醍醐味が出てくる。ラストの10人混走×25周のレースには、競技場の所長・小林さんも急遽参戦。25周という、自転車乗りですら腰が引けてしまうようなタフなレースを走り切った参加者全員に惜しみない拍手が送られ、レースの全行程は終了した。
©MASANAO MATSUMOTO
©Yoshinori Yamaguchi
“エンターテイメント”としてのピストバイクイベントへ
大会終了後はバンクに参加者全員が集まり、表彰式。そして主催者の25LASからイベントの総括と、改めて東京での『TRACK BIKE UNION』開催を目標とすることがアナウンスされた。
©MASANAO MATSUMOTO
©Yoshinori Yamaguchi
今回はバンクでの開催だったため“競輪色”の強いレースにはなったが、自らの脚力を解放して走るピスト乗りたちの顔は生き生きとしていたし、参加者全員で新しいイベントを作っていこうという一体感があった。
話は少しそれるが、日本のHIPHOPが「フリースタイルバトル」という一種の“競技”によってブームを迎えているように、ピストバイクが再び脚光を浴びるとしたら、『TRACK BIKE UNION』のようなイベントが“エンターテイメント”として自転車以外のシーンの人にも認められた時なのかもしれない。
ただしそこへ至るまでには、さらなる準備、計画、費用、そして何より人々の“共感”が必要だ。困難なミッションだが、それすらも楽しんで乗り越えてしまうような人柄と人望を25LASに感じている。
©MASANAO MATSUMOTO
イベント中に25LASが発した「速いって正義だよね!」という言葉。その言葉の意味、そしてこのイベントの魅力が多くの人たちに伝わることを願いたい。
次回は今年の秋頃の開催を予定している。いつの日か『TRACK BIKE UNION』が東京で開催され、沿道には自転車シーンのみならず、あらゆるカルチャーを愛する人々が集まって声援を送る…そんな光景を目にするその時まで、このムーブメントを追いかけていこうと思う。
©Yoshinori Yamaguchi
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