『アベンジャーズ』のマーベル・コミックと並ぶアメコミ界の巨頭、DCコミックス。
バットマンの宿敵ジョーカーの恋人として知られ、いまや全世界的な人気を誇るキャラクター、ハーレイ・クインや人類最強のスナイパー、デッドショットを始めとする、DCの悪役スターが集結した映画『スーサイド・スクワッド』が9月10日、日本公開された。
ハーレイ・クイン、デッドショット、炎を操るエル・ディアブロらは、凶悪犯罪者を人類の利益のために利用するという名目のもと、政府高官のウォラーにより「スーサイド・スクワッド」(決死部隊)を結成させられる。逃げれば首元の爆弾が破裂、即死するという状況下で、スーサイド・スクワッドの面々は危険なミッションに挑む。
ユーモラスでありながらも、影を抱えた凶悪犯罪者たちのキャラクター。それぞれの特徴を存分に活かした、個性的なアクションシーン。2017年に公開予定の映画『ジャスティス・リーグ』への期待が、否が応でも高まる伏線。高度なCG。二時間弱の上映時間を彩る、視覚的要素の数々は、観客を大いに楽しませてくれる。
そして何と言ってもアクションやCG、キャラクターの良さを存分に引き出しているのが本作の劇中音楽だ。『スーサイド・スクワッド』には1960年代、1970年代のオールディーズから2000年代のヒップホップ、そしてジャレッド・レト演じるジョーカーがMVに登場する新曲に至るまで、時代とジャンルを跨いだ楽曲が多数使用されている。
本稿では『スーサイド・スクワッド』を彩る劇中音楽にフォーカスし、その魅力を読み解いていきたい。
『悪魔を憐れむ歌』と『スーサイド・スクワッド』
Please allow me to introduce myself
I’m a man of wealth and taste
I’ve been around for long, long years
Stole many man’s soul and faith自己紹介をさせてください。
私には多くの資産があり、嗜み心もあります。
これまで私は幾多の時代を生きて来て、
沢山の人々の魂と信仰を奪い取ってきたのです。
――ザ・ローリング・ストーンズ『悪魔を憐れむ歌』(拙訳)
本作のオープニングに採用された楽曲はザ・ローリング・ストーンズの1968年のアルバム『ベガーズ・バンケット』の収録曲『悪魔を憐れむ歌』である。
『悪魔を憐れむ歌』は、とある男の自己紹介により始まる曲だ。男はリスナーに対して、イエス・キリストの暗殺からケネディの死に至るまで、如何に自分が世界史の中の悲劇に関与してきたかを告白する。
余談ではあるが、『スーサイド・スクワッド』の製作総指揮を務めるザック・スナイダーは2009年公開の映画『ウォッチメン』においてもオールディーズの楽曲、ボブ・ディラン『時代は変わる』をオープニングに使用。タイムズスクエアで第二次世界大戦の終結を祝う「キス写真」や、ケネディ暗殺といった20世紀の出来事とスーパーヒーローの関連性を映像内で描き出している。
スーパーヒーローとオールディーズの組み合わせの妙は、ザック・スナイダーが得意とするところでもあるのだろう。
Just as every cop is a criminal
And all the sinners saints
As heads is tails
Just call me Lucifer
‘Cause I’m in need of some restraint
(who who, who who)全ての警察官は犯罪者であり、
全ての罪人は、聖人です。
つまりは、表裏一体なのです。
私のことは、ルシファーと呼んでください。
私は何らかの抑止力を必要としています。
(拙訳)
『悪魔を憐れむ歌』と、DCコミックスの大作映画はそのテーマ性においてベストマッチだ。
『スーサイド・スクワッド』の舞台は3月に公開された『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』以後の社会である。
『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』の大きなテーマは、『マン・オブ・スティール』におけるスーパーマンの行動の是非を問うことにあった。
スーパーマンは絶対的な正義を体現するキャラクターであるが、『マン・オブ・スティール』におけるヒーロー活動の結果、彼は多数の人間を死に追いやっている。
バットマンは多くの犠牲者を出しながら、正義を標榜するスーパーマンのヒーロー活動に疑念を感じ、彼と対立する。とはいえベン・アフレック演じるバットマンのヒーロー活動は、過激な『ビジランティズム』(自警主義)そのものであり、平和的であるとは言いがたい。
同作が迎えるショッキングな結末により、“絶対的な正義”は決定的に揺らぐ。
アメリカ社会は常に「悪」や「脅威」に対し、敏感だ。
DCの新作において悪への対抗手段として動員されたのは「悪」であり、ハーレイ・クインであり、デッドショットであった。
『スーサイド・スクワッド』の面々の境遇に思いを馳せると、「全ての警察官は犯罪者であり、全ての罪人は、聖人です。」と歌うミック・ジャガーのボーカルは一層、印象的なものに感じられるだろう。
I’m just a poor boy (poor boy), I need no sympathy
Because I’m easy come, easy go
little high,little low
Anyway the wind blows,doesn’t really matter to me, to me僕は哀れな男だけれど、同情は要らない。
なるようにしかならないし、
良いこともあれば、悪いこともあるのだから。
なんにせよ、風は吹く。それも、僕には大したことでは無いけれど。
――クイーン『ボヘミアン・ラプソディ』(拙訳)
ハーレイ・クインやデッドショットといった『スーサイド・スクワッド』の面々は、カリスマ性を備えた極悪人でありながらも、恋や親子関係に一喜一憂する『愛らしさ』や『人間らしさ』を備えている。
そして、政府の高官であるウォラーは誰よりも“裏”がある存在として描かれる。
『スーサイド・スクワッド』は悪と正義の対立を描く映画でも、悪を断罪する映画でも無い。
人は、悪と正義の両面を持ち合わせている。
そういった二面性を描いた作品が『スーサイド・スクワッド』では無いだろうか。激しいアクションや、会話のユーモラスさに潜む極悪人らの悲しみ。そうした要素を、本作の音楽は浮き彫りにしている。
『悪魔を憐れむ歌』、オフィシャルの予告編に採用された『ボヘミアン・ラプソディ』といったオールディーズの名曲だけではなく、本作にはエミネム『ウィズアウト・ミー』など数々の楽曲が採用されている。特に、最大の目玉とも言える主題歌『パープル・ランボルギーニ』はスクリレックスとリック・ロスが共演を果たし、ジョーカーがMVに登場したことでも話題を集めている。
『スーサイド・スクワッド』は9月10日より全国公開中。
『ジャスティス・リーグ』に向け勢いづくDC映画の最新作を、是非音楽面からも楽しんで欲しい。
文:九十現音
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