「サビが無い」、「わかりづらい」。
インストゥルメンタル音楽に対し、多くの人が抱いているイメージはそういった“難解”なものかもしれない。
また中にはインストゥルメンタルに現代的ではない、エスタブリッシュな印象を抱いている人もいるのではないだろうか。
Schroeder-Headzは現代の日本において、シーンの最先端を走るピアノトリオだ。
彼等は親しみやすくも先進的なサウンドを奏で、インストゥルメンタルに対するネガティブな印象を払拭してみせる。楽曲はいずれもスタイリッシュであり、聞いていて心地が良い。
その一方で、Schroeder-Headzはモダンジャズの時代から続くピアノトリオというスタイルをより開かれた形へと発展、継承しているグループでもある。
クラブミュージックとピアノトリオ
キーボーディスト、渡辺シュンスケ率いるSchroeder-Headzの編成はピアノ、ベース、ドラムスのピアノトリオだ。
ピアノトリオというのはビル・エヴァンス、バド・パウエル、山下洋輔ら錚々たるジャズ・ピアニストが取り組んできた伝統的な編成である。
Schroeder-Headzがこよなく愛するアニメ『ピーナッツ』の音楽を担当したビンス・ガラルディ・トリオも同じくピアノトリオだ。
Schroeder-Headzの魅力的な点は、エレクトロニカに接近し、クラブ・ミュージック的なサウンドを奏でながらも、極めて伝統的なジャズ音楽の編成を踏襲していることだ。
2016年1月にリリースされた最新作『特異点』では、アコースティック・ピアノと生ドラム、ブレイクビーツ、アナログ・シンセによるサウンドが融合されている。
渡辺シュンスケは『特異点』のコンセプトノートに、このように綴っている。
音楽を楽譜に表したり、現在は主流となったPCの中のグリッド上で音楽を製作する作業は、どこか、数学や物理学によって、この我々をとりまく宇宙を解明しようとする作業に似ているのかもしれない。
人の心を動かす音や、演奏が、正確には楽譜には表しきれないように、宇宙に存在するという特異点にも、けしてロジックでは推し量ることの出来ない、素敵なヒミツがあるにちがいなのである。
――『特異点』コンセプトノート(Schroeder-Headz公式サイトより)
「数学」的に、テクノロジーを楽曲制作に積極的に取り入れつつも、「ロジックでは推し量ることの出来ない、素敵なヒミツ」を志向する。
テクノロジーによる新しい音像。
温かみや懐かしさをも思わせる、ロマンティックなメロディー。
彼等の楽曲の特徴的な要素は渡辺シュンスケ本人によって書かれた、短いコンセプトノートの一端にも詰まっているように感じられる。
Schroeder-Headzと『ジムノペディ』
Schroeder-Headzとビル・エヴァンス・トリオの共通点は、ともにエリック・サティ『ジムノペディ』をカヴァーしていることにある。
ビル・エヴァンスはハービー・マンとの異色のコラボレーションによって、『ジムノペディ』をカヴァー。アルバム『ニルヴァーナ』を残している。
Schroeder-Headzは2011年、カヴァー・ミニアルバム『PIANO à la carte feat.Schroeder-Headz』をリリース。
『ジムノペディ』のほか、チャイコフスキーの『Nut rocker(くるみ割人形)』、『あおげば尊し』などジャンルを跨ぎ、数多くの楽曲のカヴァーを披露している。
ビル・エヴァンスはモダンジャズの第一人者である。
モダンジャズは、その言葉の語感やビル・エヴァンス『ポートレート・イン・ジャズ』の肖像の生真面目な印象から、いまではロックやポップスに比べ、遥かに権威的な音楽というイメージが強いかもしれない。
しかし、ビル・エヴァンスはマイルス・デイヴィス『カインド・オブ・ブルー』の録音に参加するなど、誰よりも『新しい音楽』を奏でることに積極的なピアニストであった。
エリック・サティはクラシックの文脈で語られると同時に、ミニマルな楽曲構成が後年、再評価されいまでは現代音楽の先駆者として評価される作曲家である。
その代表曲が『ジムノペディ』だ。
ビル・エヴァンスが『ジムノペディ』を弾いた、その五十年後の未来にSchroeder-Headzが『ジムノペディ』を奏でたことは、興味深い事実だ。
ピアノトリオというスタイル、引いてはジャズ、インストゥルメンタルがいかに変化してきたか。
サウンドが、どのように移り変わってきたか。
その一端が伺えると言えるのではないだろうか。
ジャズの歴史は常に「新しさ」を志向することで、更新されてきた。
チャーリー・パーカーがその圧倒的な技巧により、ビ・バップを奏でる一方でマイルス・デイヴィスはモード音楽を追い求めた。生前マイルス・デイヴィスはシンディ・ローパーのカヴァーを発表したり、ヒップホップを取り入れた遺作を残してもいる。
モード音楽が一世を風靡した後も、ジャズはエレクトリック・サウンドを取り入れたり、即興演奏を取り入れるなどしながら、ジャンルの幅を大きく拡張してきた。
今日のジャズもまた、ビル・エヴァンスや“エレクトリック・マイルス”の影響を受けながら進化を続けている。
ノラ・ジョーンズやジェイミー・カラムのようにジャズに出自を持ちながらも、ポップスやクラブ・シーンに大きく接近することで幅広いリスナーを獲得しているケースもある。
Schroeder-Headzもまたポップス・シーンに接近しているグループの一つだ。とはいえ、彼等の活動は決して根無し草では無い。
そこには確かに、ピアノトリオの伝統が生きているのだ。
大きく広がり続ける、ジャズ、そしてピアノトリオの可能性。
引き継がれてきた歴史を、Schroeder-Headzは受け継ぎながらも、そこに留まるのではなく最先端技術や、他のジャンルとのクリエイターとのコラボレーションを積極的に行うことで軽やかに次のステップへと進んでみせる。
そこには伝統の持つ、悪い側面としての『古臭さ』や『押し付けがましさ』は一切存在していない。Schroeder-Headzはピアノトリオの未来を切り開く。
「踊る!インストクリスマス supported by MEETIA 」
2016年12月12日(月)、一足早いクリスマスクリスマスパーティーが渋谷クラブクアトロにて開催。
出演はピアノとカホーンでグルーブを奏でるハイブリッド・インストゥルメンタルユニット「→Pia-no-jaC←」、美しい音色、色彩感のある楽曲に定評がある5人組ジャズバンド「TRI4TH」、渡辺シュンスケによるポスト・ジャズ・プロジェクト「Schroeder-Headz」の豪華3組が夢の共演!2016年に訪れるサイレントクリスマスならぬ、スペシャルインストクリスマスに心踊らせよう。
タイトル:「踊る!インストクリスマス supported by MEETIA 」
出演者:→Pia-no-jaC← / TRI4TH / Schroeder-Headz
日時:2016年12月12日(月)
会場:渋谷 CLUB QUATTRO
開場 / 18:00 開演 / 19:00
前売り : 4200円 当日:4700円(*ドリンク代別)
チケット発売中
・ローソンチケット:Lコード:(71170)
・チケットぴあ:Pコード: (309-139)
・e+(イープラス)
主催/企画/制作:NTTドコモ、PARCO、レインボーエンタテインメント、DISK GARAGE
協力:J-WAVE
*ご来場の皆様にお得な情報
dポイントカードの利用登録(無料)をして頂いた方は当日会場にてドリンク代500円をキャッシュバックします。
文:九十現音
挿画:いねいみやこ(https://twitter.com/miyako0630)
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