2016年10月15日に朝井リョウの小説を原作にした映画『何者』が公開された。このコラムでは、主題歌に起用された中田ヤスタカ「NANIMONO」(feat.米津玄師)という作品にスポットを当てて、その楽曲の魅力と意義を考えてみたい。
中田ヤスタカ、米津玄師 互いにレアなコラボレーション
中田ヤスタカとボーカルを担当した米津玄師は、お互いにこの楽曲であまりないトライをしている。中田ヤスタカは基本的に、PerfumeやMEG、きゃりーぱみゅぱみゅ、COLTEMONIKHAなど女性ボーカルに楽曲提供をすることが多く、今回の米津玄師とのフィーチャリングはレアなケースだ。さらに、提供ではなく、自らの名前を看板に掲げてドンと表に座っている。海外ではトラックメイカーが主役になるケースが多いが、日本ではボーカリストが主役になるケースがまだ多い。サンレコかどこかのインタビューで読んだが、「トラックメイカーが日本でも表にどんどん出て行くべき」という中田ヤスタカが自らその言葉通り先陣を切ったこの楽曲は、トラックメイカーの新たな道筋を指し示しているように思える。
また、米津玄師も、他の人のトラックでボーカルを担当したというのはおそらく初めてのことだろうと思う。さらに、自らの歌声がカットアップされるなど、米津ファンにも新鮮なボーカルトラックになっている。”ハチ”名義で、ボーカロイドに歌わせていた米津が、中田ヤスタカという人間の歌声をシンセサイザーのように扱う人物により歌声を加工されるのは、とても聴いていて面白いものだった。
踊り場の音楽、カタルシスの手前で
踊り場の窓から 人並みを眺めていた
僕らはどこへ行こうか 階段の途中で不確かな言葉を携えて
呼吸を揃えて初めまして
そんで愛されたのなら大歓迎
繰り返し向かえ遠く向こうへ結局僕らはさ 何者になるのかな
迷い犬みたいでいた 階段の途中で大胆不敵に笑ったって
心臓はまだ震えていて
それでもまたあなたに会いたくて
下手くそでも向かえ遠く向こうへ大根役者でいいとして
台本通り踊れなくて
ただまっすぐ段を登っていけ
わかっちゃいたって待ちぼうけ
みっともないと笑ってくれ
僕に名前をつけてくれ
踊り場の窓に背をむけて
前を見て向かえ遠く向こうへ
さて、ここで「NANIMONO」の歌詞を見てみよう、注目すべきは最初の「踊り場の窓から 人並みを眺めていた 僕らはどこへ行こうか 階段の途中で」の部分。就職活動をテーマに掲げる『何者』という映画を見事にあらわしている一節だ。特に学生から社会人に至るまでの就職活動を”踊り場”に例えているところが素晴らしい。
楽曲もまさに”踊り場の音楽”と呼べるものになっていると感じた。昨今ブームが落ち着いたEDMのように徐々にボルテージを上げていき、一気にカタルシスへと持っていく音楽ではなく、カタルシスを得させず、そのぎりぎりのところで保っていく音楽、かといってつまらない楽曲になっているかといえばそうではなく、冒頭からエンディングまで”踊り場”で踊り続けることのできる音楽に仕上がっている。そして最後は「踊り場の窓に背をむけて 前を見て向かえ遠く向こうへ」。とてもかっこいい、作詞家としての米津の本領発揮というところだろう。
ダニー・L・ハール、TeddyLoid、banvox―リミキサー陣の選択の良さ
そして、EPのリミキサー陣にダニー・L・ハール、TeddyLoid、banvoxを起用していることにもセンスの良さを感じた。ダニー・L・ハールは、PC MUSICという海外のセンスフルなネットレーベル所属のトラックメイカー、TeddyLoidとbanvoxはいわずともがな日本の若手で最も注目されるトラックメイカーたちだ。近年SEKAI NO OWARIや安室奈美恵などもPC MUSICのトラックメイカーをリミキサーに迎えるケースがあったが、こうした海外のセンスフルなトラックメイカーを日本のポップミュージックとコラボレーションさせる試みはより加速していって欲しい流れだ。
トラックメイカーに光りが当たる未来へ、中田ヤスタカがその先陣を行く
この楽曲は中田ヤスタカがトラックメイカーとして表に出て行く最初の楽曲だ。今後彼は、さまざまなボーカリストを迎え、自らの名前を表に出し活動していくことだろう。2020年の東京オリンピックでDJ・トラックメイカーとして舞台に立つなんてこともひょっとしたらありえる話だ。SkrillexやMadeonなどトラックメイカーが主役になることが多い海外のように、この流れを日本でもさらに加速させて欲しい。
そして、米津玄師も今後が非常に楽しみな存在だ。これまでに発表したアルバム『diorama』『YANKEE』『Bremen』では、常に新しいものを追い求め、日本のミュージックシーンを革新していく存在となっている。この二人がつくりだす音楽が、踊り場を超え、階段を上り、日本の音楽シーンを次のフロアに進めていく未来に期待したい。
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