非対称型対戦アクションの金字塔的タイトルとなったDead by Daylight
「殺人鬼が生身の人間を追い回し、暴力的に捕まえた挙げ句、殺してしまうゲーム。」
概要を文字にするととても物騒である。しかし、おそらくこのタイトルは10年後、20年後、ひいてはそれ以上語り継がれていくタイトルになるに違いない。数的非対称という特異なゲーム性をもってして、商業的に大きく成功した初のタイトルとなったのだから。
そのタイトルの名前は『Dead by Daylight(デッドバイデイライト)』。日本ではその暴力表現からZ指定(18禁)とされている。今回のゲームコラムでは、非対称型対戦アクションの金字塔的タイトルとなったDead by Daylightについて掘り下げていく。
あ、もちろんZ指定のタイトルなので、18歳未満は回れ右。暴力表現が苦手な人も自制推奨だ。(特に『Dead by Daylightと既存カルチャーの交わり』の項の動画は閲覧注意)
Dead by Daylight(デッドバイデイライト)とは?
まずDead by Daylightがどのようなゲームタイトルなのか紹介したい。
同タイトルは、5名のプレイヤーが殺人鬼(キラー)1名と生存者(サバイバー)4名にわかれて対戦するアクションゲームだ。Dead by Daylightが非対称型対戦アクションと言われる所以はこの点にある。
これまでのゲームの常識からすると、敵味方の人数は均等に割り振られるのが当たり前だった。「対等に戦うためには同数である必要がある」というある種の思い込みがあったからだ。2015年ごろになり、数的非対称をコンセプトに持つ最初のタイトルがリリースされると、この思い込みは少しずつ解消へと向かった。
PC版Dead by Daylightがリリースされたのは2016年。その翌年には家庭用ゲーム機へと移植され、このコンセプトはより広く認知されるようになった。最近ではスマホアプリとしてリリースされているものもあり、ひとつのトレンドとなりつつある。
Dead by Daylightの舞台となるのは、エンティティと呼ばれる支配者が創造した箱庭の世界。この世界に捕らわれてしまった両者は、エンティティによって鬼ごっこに似たゲームへと参加させられる。キラーの目的は、すべてのサバイバーを捕まえ、生贄としてエンティティに捧げること。サバイバーの目的は、キラーの追跡を逃れ、生きたままゲームから脱出することだ。数的非対称のほかに目的の非対称という点もDead by Daylightは内包している。
箱庭内にはあらかじめ2つの脱出ゲートが存在しているが、ゲーム開始時から自由に使用できるわけではない。電力系統が故障しているため、マップ上に存在する発電機を修理する必要があるのだ。サバイバーがマップ上の発電機を探索・修理している間に、キラーは音や足跡などの手がかりからサバイバーを探すことになる。
Dead by Daylight、ゲームシステムの特徴
Dead by Daylightには、ゲームシステムにも大きな特徴がある。それが非対称視点で繰り広げられる対戦アクションであるという点だ。数的非対称、目的の非対称に続き、視点的非対称も備えているのがDead by Daylightということになる。
従来の対戦ゲームは、それぞれのサイドのプレイヤーが同じ視点で戦っていた。しかし、Dead by Daylightのゲームシステムは、この慣習に当てはまっていない。キラー側は一人称視点、サバイバー側は三人称視点となっているのだ。
以下に開発チームがプレイしている動画を掲載する。6:30ごろからの映像がキラー側の視点(一人称)、10:35ごろからの映像がサバイバー側の視点(三人称)だ。ことばで説明するよりも実際に観てもらったほうが感覚的に理解できるだろう。
一人称視点と三人称視点にはそれぞれメリット・デメリットがある。
一人称視点では、ゲーム内キャラクターの視点で進行するため臨場感がある一方で、視野角が狭く、ゲーム内の状況を把握しづらい。十分な情報量を得るためには、システムへの慣れや素早い操作が必要となる。
その点、三人称視点では、視野角が広いため、比較的かんたんに多くの情報を得られる。が、代償に臨場感を失っている格好だ。
また、視野をキャラクターが遮るかどうかの点も見逃せない。視野角は狭いが、ありのままの情報を受け取れる一人称視点、視野角は広いものの、真正面を確認するにはカメラのアングルに気を遣う必要がある三人称視点、という差別化もできる。
サバイバーを探す上で視界内の情報は正確に把握したいキラーと、キラーから逃れるため幅広い情報を得る必要があるサバイバー。同タイトルをプレイしていると、思わぬところでサバイバーを見失ったり、キラーの追跡を免れたりすることがある。それぞれの視点のメリット・デメリットを、それぞれの役割へと当てはめ、うまく昇華しているゲームタイトルがDead by Daylightだと言える。
ここまでDead by Daylightを「対戦アクション」だと書いてきたが、実はこのゲームタイトルにおいてアクションの介入する要素はそれほど多くない。唯一それらしいものがあるとすれば、キラーとサバイバーが対峙したときにはじまるチェイスシーン(追いかけっこ)くらいのものだ。このパートにおいても、いわゆるところのアクションゲームが要求するような高難度の操作は求められず、少し慣れれば誰でもできる程度のものにとどまっている。
ではプレイヤーの上手い下手をわけるポイントはどこにあるのだろうか。
その質問に対するひとつの回答として、プレイヤー同士の協調性や駆け引きといった心のやりとりが挙げられる。味方と敵の行動を汲み取ることが上達への登竜門となっているのだ。
「アクション」というカテゴライズはDead by Daylightの持つゲーム性を端的に言い表すものではない。実際には「心の戦略」がベースにあるゲームタイトルであると言えるだろう。仲間を見殺しにして限られた人数で脱出するのか、はたまた最後まで4人全員での脱出を諦めないのか。これと同質の葛藤がキラー側にも迫られる。プレイ中、次の行動に悩む場面は多い。
技術勝負のアクションゲームが乱立する現代にあって、心理戦に重きを置くDead by Daylightは、視点以外の面でも異色のヒットタイトルという見方ができるだろう。
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