タイムトラベルでよみがえる当時のカルチャー
十三機兵防衛圏では、40年周期で区分された5つの年代にタイムトラベルを繰り返しながら、物語の真相へと迫る。舞台の中心となるのは2番目に古い年代にある1985年だ。それぞれの年代では、その時代を象徴する文化がいたるところに描かれている。
物語の主人公となる13人のうちのひとりで、1940年代にルーツを持つ比治山隆俊は、1985年にタイムトラベルした際、ひょんなことがきっかけで「焼きそばパン」に出会う。1940年代にはなかったその食べ物を彼は痛く気に入り、作中では焼きそばパンに対して異常な執着を見せるキャラクターとして描かれている。
焼きそばパンの発祥には諸説あるが、1950年代、隣り合って販売されていたコッペパンと焼きそばを、偶然に組み合わせてみたのがはじまりだと言われている。比治山が焼きそばパンに見せる強烈なパラノイアは、同作を代表する印象的なシーンのひとつに挙げられるだろう。「ソースで絡めたソバをほろ甘いパンで挟む…戦後の世界でこれだけは…焼きそばパンは認めざるを得まい…」彼はそう語っている。
ほかにも1985年でのVHS(ビデオ)と3倍録画の話題、自動販売機で買える「ハイキング」や「HEY-C」といった飲み物、(2025年をルーツに持つキャラクターの)日常の驚きを動画コンテンツにしようとする挙動などは、当時のカルチャーを知っている人だからこそわかる演出だ。
「文化には時代を投影する作用がある」
そのことを、同作は強く意識させてくれた。近い将来、タバコの表現を見て「〇〇年以前」と感じたり、タピオカを見て「2019年」と感じたりするようなアート作品が生まれるのかもしれない。
十三機兵防衛圏が現代に示すもの
十三機兵防衛圏のシナリオには、現代社会へのアンチテーゼと考えられる箇所が多くある。さまざまなテクノロジーが実用化される社会において、利便性や合理性を重視して生きることが、ほんとうに人間らしいと言えるのか。そこにもともとあった大切なものを見逃す可能性があるのではないか。同作の中に描かれている人と人のつながり、説明できない心の動き、そして愛からは、そういったメッセージを受け取ることができる。
「どんなにテクノロジーが発達したとしても、奇跡は人が起こす」
現代に軽視されつつある人間臭さの重要性を、十三機兵防衛圏は教えてくれているのではないだろうか。
最後に、印象的だった作中のフレーズを紹介したい。
「文化や知識の継承があって初めて人類足り得る」
十三機兵防衛圏には、同作がひとつのアートとして世に伝えたいメッセージが幾重にも積み重ねられている。
十三機兵防衛圏
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