ゲスの極み乙女。のメンバーである休日課長、ゲスの極み乙女。やindigo la Endのサポートやkatyusha名義で活動するえつこ、ヴォーカリストのREISによる3人組で、ゲスの極み乙女。やindigo la Endを率いる川谷絵音が作詞作曲・プロデュースを手掛けるDADARAYが、4枚目のミニ・アルバム「DADABABY」を完成させた。聴くほどに味の出るレイヤーがあり、“ポップ”という概念に新たな視点を与え続ける川谷のセンスと、3人の表現力が見事に噛み合っているからこそ、ここまでの3年間で1枚のフル・アルバムと4枚のミニ・アルバムをリリースできたことは、ひとつ間違いのない事実。そして今作は、その強度とバンドとしてのエネルギーにおいて、さらに大きなアップデートを遂げた作品であると感じた。そこで、今回はここまでの活動でDADARAYに起こった変化と、自らの音楽性についての見解を掘り下げることで、その魅力に迫っていった。
Photo_Yuki Aizawa
Text_Taishi Iwami
“バンドらしいバンド”ではないスタートだったからこその進化
――2017年はフル・アルバム『DADASTATION』を含む多くのリリースがあり、2018年はリリースこそ配信作品「tandoor」のみでしたが積極的にライヴをおこない、2019年は春にツアーがあって、今回のミニ・アルバム『DADABABY』を完成させました。振り返るとすごく精力的に動いてきたように思うんですけど、ここまでの感触はいかがですか?
休日課長 : 確かに、なんだかんだでけっこう動いていましたね。結成当初と比べると、今はお互いのパーソナリティがわかってきて、すごくいい感じです。REISはDADARAYで出会ったけど、えつことの関係性も、DADARAYで一緒にやるようになってから、密になってきたよね?
えつこ : そうだね。すごくいい感じに変わってきたと思う。
――お互いにわかった意外な一面となるとどうですか?「この人なんでもマヨネーズかけるな」みたいな、音楽と関係のないことでもいいんですけど。
REIS : う~ん、どうかなあ?
えつこ : ツアーで地方に向かう時は、1台の車に機材を積んでみんなで乗って行くんです。運転中にスタッフさんが居眠りしないか心配だから、メンバーみんなでいろいろと話しかけるようにしてるんですけど、REISはさっきまで騒いでたと思ったら、次の瞬間寝てる(笑)課長もそうだけど(笑)
REIS : え?私もそうなの?課長だけだと思ってた(笑)
休日課長 : 自覚なかったんだ(笑)
REIS : えっちゃんは子供みたいなことを無邪気に楽しめる人なんです。最初は大人っぽいイメージが強くて、そういうのめんどくさいのかなって思ってたんですけど、ゲーセンに誘ったら喜んで付き合ってくれて。太鼓の達人とかめっちゃやって、楽しかったなあ。
えつこ : パペットとかも、振られたらやるよ。人形持って喋る。課長のほうがそういうことしないんじゃない?
休日課長 : 食べ物しか興味ないかな。
えつこ : ツアー先で行くお店とか、しっかり決めて案内してくれるもんね。ほんとに、音楽とはまったく関係ない話してますけど、いいんですか?(笑)
REIS : でも、いろいろコミュニケーションを取ったり一緒に遊んだりするようになって、どういうことに興味があるのかとか、会話のテンポ感とか、わかってきたのは音楽をやるうえでも、すごく大きいと思います。人と人って間合いだから、ライヴや曲作りにはすごく活きてる。そこでもし合わないと思ってたら、と考えるとちょっと怖い。
休日課長 : うん、すごく合ってるのかも。結成した当初は、職業的というか、レコーディングとライヴのときに顔を合わせるくらいの感じで進んでいくんだろうなって、思ってたから、今はすごく楽しい。
REIS : そうだよね。ライヴも、前までは個人技じゃないけど、しくじったらどうしようって、ベクトルが自分だけに向いてた。今はこの3人が演奏したらどんなことが起こるのかワクワクしてる。
えつこ : 課長は”職業的”って言ったけど、私も結成した頃の熱はそんな感じ。自分がやるべきことをやる。でも今はそうじゃなくて、お互いの顔を見て、すごい楽しそうだなとか。
REIS : うん、アイコンタクトは明らかに増えたよね。
えつこ : いまピンチっぽいからちょっと助けようとか、そういうことを感じ合ってるのは音にも表れてると思うし、そこにお客さんの笑顔があって、すごく幸せな空間にいられてるなって、思いながら演奏してます。
――確かに、結成当初のイメージは、川谷絵音さんがプロデューサーで、REISさんがフロントにいる”優れたポッププロジェクト”でした。それを休日課長さんは”職業的”とお話になり、えつこさんも同意されましたけど、それぞれがやるべきことを徹底的に遂行することもまた、いいものが生まれる大きなエネルギーではあるじゃないですか。
休日課長 : そうですね。”プロジェクト”という言い方がもっともしっくりきますね。
休日課長
『DADABABY』で獲得した新たなチャンネルとその音楽的魅力とは
――プレイヤーに徹することは機械ではないですけど、ある意味で機械のように正確にやってきたことに、人間的な温かみやユーモアがプラスされた、すごくいい状態が今なのではないかと、今作『DADABABY』を聴いて思ったんです。
休日課長 : 確かに、初年度はすごくストイックにライヴをやってて。それは今もそうなんですけど、当時はとにかくプレイヤーとしてのクオリティに集中してたんです。でも、それによってできた土台は大きくて、今はそこにバンドならではの遊び心が乗かってきたように思います。プロジェクト的な感じで始まって、そこにお互いのパーソナリティがわかってくることで、すごく人間的で楽しいバンドになったと思います。始まりが衝動的に組んだ“バンドらしいバンド”ではなかったからこそ、そこに感情の起伏がいい足し算として加わったのかもしれないなって、ここまで話をしてきて思いました。
――”新しいダダの誕生”が『DADABABY』なのかと。それぞれの個性の切り貼りが、さらにおもしろくなってきた作品だと強く感じたんです。みなさんは今作にどのような感想お持ちですか?
えつこ : バランスがよくて聴きやすいなって、思うけどどう?
休日課長 : うん、歌がバコーン!じゃないな……、グーン!いや、違う……。歌が……(笑)
REIS : (笑)歌がスムーズに入ってくる、そんな感じ?
休日課長 : そうそう。伸びやかな歌がしっかり立ってて、よく聴いていくと演奏もおもしろいんだねって。ごちゃごちゃしてないというか、どの曲もすごく洗練されていて色がある。
REIS : ここまでで話してきたような、普段のコミュニケーションやライヴを通して起こった変化が、音源にも出ている感触はあります。全員が一つの作品に向かって、バランスのいいアプローチができてるし、そのうえで、それぞれの個性がしっかり立ってる。
――去年の末にリリースし、本作にも収録されている「tandoor」の2曲、「mother’s piano」と「singing i love you baby」は、今作の豊かな表現力において、大きなポイントになっているような気がするんです。まずは「my mother’s piano」。DADARAYの曲は、弾けたポップ感のなかにスパイスの効いた、噛めば噛むほど様々な味のレイヤーが出てくるイメージ。そこに、圧倒的な包容力がプラスされたような曲で。
休日課長 : 包容力ですか。なるほど、すごくしっくりきますね。僕も同意見で、すごく開けた優しさを感じるんです。こういう曲調で、人間の愛とか応援ソングっぽいことを歌うと、押しつけがましくなりがちだけど、そういう印象もまったくなくて、じんわり温かい。すごく好きな曲ですね。
REIS : ‘私が歌い上げる”というより、歌詞やメロディへの意識が高くなってきたんです。そこで、ライヴと音源だと、また向き合い方が変わってくるんですけど、音源においては、曲に対するパーソナルな感情を突き詰めて生まれる解釈や意味を、言葉とメロディに乗せすぎないように、物語をつけすぎないように、真っすぐに歌うようにしています。ライヴになると、その場のお客さんが作る空気を肌で感じられるから、その瞬間にしかない熱が入るんですけど、音源は聴いた人自身の色で聴いてほしいから、シンプルに、真っすぐに歌うんです。
――すべての曲のにおいてそうなんですか?
REIS : そうかもしれないです。例えば、前のアルバムに入っている「少しでいいから殴らせて」は、「殴らせてって思ったことない、どうしよう」から始まって、分からない感覚も含めて真っすぐに歌ったんです。そこからライヴで歌っていくなかでいろんなことを感じて、お客さんの反応とともに、歌詞の世界を超えて言葉に意味を持たせられるようになっていって。だから今またレコーディングするってなって、真っすぐ歌ったら当時とは違ったものになるのかもしれない。「歌」って、時間がかかって自分が考えもしなかった色がついていくこともあるから、すごくおもしろいんです。
――REISさんの声の温度感がすごく興味深いんです。まるで楽器のように機能していることもあれば、人が喉を震わせるからこそのエモーションに溢れていることもある。一本の芯があったうえで多彩だから、いつまでも聴いていられます。
REIS : ヴォーカルのディレクションはえつこちゃんがやってくれてるんです。
えつこ : REISには伸び伸び録ってほしいし、口出しされたくない人もいるから、私は「席外すね」って。そしたらREISが「いや、いろいろ意見がほしい」って言ってくれて。具体的には、どんなこと言ったっけ?
REIS : 「このキーでこの言葉の母音で、どうやって声を出したらいいんだろう」とか、技術的なことで詰まることもあるんですけど、そこにすごくいいアドバイスをくれるんです。
えつこ : あ、「mother’s piano」の落ちサビみたいな、一瞬ブレイクがあってREISが一人になるところ。通常のサビはピークのときにファルセットにいくんですけど、ここは歌だけが残るから、地声でガツンといったほうがいいとか、言いましたね。偉そうに(笑)
休日課長 : いやいや、名ディレクションだと思うよ。
REIS : 自分でやってると客観視できないところはあるし、第二の耳みたいな存在。
REIS
――裏でもツイン・ヴォーカルであることが活かされてるんですね。
えつこ : 私は英詞の発音が苦手だからREISに教えてもらったりとか、お互いにね。
――「singing i love you baby」は、お二人のヴォーカルの掛け合い、音の質感や展開、包容力のある「mother’s piano」の流れを汲みつつ、時代感が今とダイレクトにつながっていく曲で、みなさんの個性が爆発した曲だと思います。
えつこ : 課長のベースがどっしりと曲を支えてくれて、声質のまったく違うREISと私にいい化学反応が起こってる。この3人だからこその奥行きはあるように思います。最初は、REISの声に私のコーラスが入ると邪魔しちゃうんじゃないかって、思ってる部分もあったんですけど、こういう見せ方になることによって、DADARAYで自分の声に何ができるか、新たな可能性を感じられたことは大きかったです。
――ベースはどの曲も興味深いんですけど「どうせなら雨がよかった」について、訊きたいです。川谷さんと課長さんならではのタイム感のマジックが、すごくよく表れていると感じました。
休日課長 : 適当にアドリブで弾いてたら、川谷が「今弾いたなかの、ここまでの部分が良かった」って。その切りどころが変で、8分の7.5みたいな。だからループすると頭がずれていくんですけどやってみたら、同じフレーズを繰り返してるのにそんなふうに聴こえない。実験的なところがおもしろかったですね。そこにREISの伸びやかな歌声があって、すごくいいマッチングだと思います。
REIS : 私は、課長のベースもえっちゃんのピアノもすごいし、とにかくオケが素晴らしいので、歌を入れるのもったいないなって、思いました。歌のないヴァージョンのCDがほしい。
休日課長 : いや、歌があってこそだよ。歌は伸びやかだけど演奏は細かくてタイトみたいな、その対比があってこそ。
えつこ : 歌メロがあってこそのバランスで作るし、歌は抜けないよ。ソロは個人としてめっちゃ頑張ったけど。
REIS : う~ん、でもいいんですよ演奏が。会場限定で歌なしのCDを売りましょう。そしたら私が買う(笑)
えつこ : そうやってREISに言ってもらえるのは、恥ずかしいけど嬉しいな。
えつこ
DADARAYがポップ・ミュージックとして果たすべき役割
――そして、リリース後すぐにツアーが始まります。
えつこ : 半年ぶりのワンマン。春にやったツアーで個々の役割みたいなものが見えたんです。REISは歌で、課長は全体の空気を読んでちょける。私は私で……、
休日課長 : ちょける(笑)
えつこ : 基本ここ二人はちょけるだけ(笑)。そういう部分を磨いていきたいなって。音楽的に素晴らしい演奏は大前提ですから。そこに生身の人間がどれだけお客さんを楽しませられるか、どれだけ遊び心を加えられるか。REISには、歌に支障が出るくらい笑ってもらおう。
REIS : すでにおかしくてヤバいときあるけど(笑)
――サウンドも姿勢も含めて、楽しみ方にすごく幅がある。だから、それを受けて新しい感性の扉が開いたような感覚になれるのがDADARAYの魅力。それはポップ・ミュージックにおいてすごく大切なこと。そこで訊きたいのが、DADARAYが音楽を発信することの役割とは何なのか。例えば、それは世界を変えることなのか、「いつか東京ドームで」といった大きな夢を叶えていくことで与える希望なのか、その瞬間を生きるのか、さまざまな考え方があると思うんですけど。
えつこ : DADARAYは、川谷くんの曲ありきで、でも川谷くんはステージにいない。そのなかでどれだけ良さを出せるか。そこがおもしろいところ。世界とか東京ドームとか、そういう大それたことは、それにふさわしい人が言えばいいし、あんまりまじめにやりすぎるのもなんかねえ。その場で鳴らす音を楽しむ、そこの純度が大切なんだと思います。
休日課長 : 世界を変えるとか、そういうことは思ってないけど、もし思うことがあるとしても、「武道館出てえな」とかも、口に出すことでもないのかなって。REISがMCで「お客さんがまた帰って来られるような場所になれたらいい」って言ってたじゃない?
REIS : うん、言った。
休日課長 : そういうスタンスなのかなあって。で、次の作品を誰かが楽しみにしてくれるバンドであればいいなって。
REIS: : 川谷くんがどう思ってるかはわからないけど、私たちは彼が作った曲を受け取って発信する立場として、聴いてくれる人やライヴに来てくれる人の、暮らしとか悩みとか葛藤とか、そういうものに対してのエッセンスになれることができたら、それが私たちらしさなのかなって、思います。社会的に貢献できることがあればもちろんしたいし、お役に立ちたいけど。現代の孤独じゃないですけど、心のどこかで一人ぼっちだって感じたときに、ライヴハウスって“一人じゃない”って思えるじゃないですか。思いっきり楽しみたいときにも辛いときにも、私たちはそこに戻ってくるし、みんなも安心して戻ってきてほしい。そういう存在であり続けていられたら最高だなって、思いますね。
休日課長 : 川谷の音楽って、おっしゃってくれたように、聴いた人それぞれの解釈があっていろんな楽しみ方ができるし、それはある種の曖昧さでもあるんですけど、決してフワッとしすぎないから、想像力が掻き立てられるんですよね。そこに映る景色や導き出した答えが、人によってさまざまなだからいいと思うんです。僕らもまずは、音楽を音楽として楽しむ。やっぱりそこに尽きると思います。
〈リリース情報〉
DADARAY 4th Mini Album
2019.10.02
『DADABABY』
通常盤 ¥1,500(+税)・WPCL-13104
初回限定盤 ¥2,500(+税)・WPZL-31660/61
通常盤:CD
1 刹那誰か
2 どうせなら雨が良かった
3 singing i love you baby
4 to burn a light
5 最果ての美
6 mother’s piano
初回限定盤:DVD
DADARAYワンマンツアー「01鬼03」ツアーファイナルat恵比寿LIQUIDROOMライブ映像
1 block off
2 For Lady
3 Breeze in me
4 トモダチ
5 BATSU
6 美しい仕打ち
7 誰かがキスをした
8 東京Σ
9 灯火(long ver.)
10 僕らのマイノリティ
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