月ごとにテーマを変えて、様々なひとに選曲をお願いしている「MIXTAPE」。今回のテーマは、ずばり東京。東京と名のつく曲はたくさんあるし、いろんな人が東京に対する思いを持っている。だけど、東京は広い。場所によって、聞こえてくる音も思い出す曲もちがう。東京出身のひとも、地方から出てきたひとも、いまは遠くから東京を眺めるひとまで。「東京」をテーマにどんな曲を選ぶのか。
東京をベースに活動する「写真家」であり「音楽家」でもあるNonturnは、去る5月16日、東京の街で採取された音で作られた1st album『Territory』をリリースしたばかり。東京の路上で「壁面」や「模様」の写真を撮って発表し、音楽においても現代的なアンビエントワークスを構築するNonturnの中にある「東京の音楽」とは。
東京は過密なビジネスの街で人々がエゴをぶつけ合い競争を続けている。途絶えることのない喧騒と絶え間ない精神的なノイズに疲れてしまった人々へ “東京” に必要な音楽 【ポップ・アンビエント】 を紹介したい。Nonturn
A Short Break / Rovert Wyatt
巨匠ワイアットが1992年に4トラックのカセットMTRで録音した個人的な作品。ピアノと声の反復、最小限のドラムによる人力アンビエントは、その後に続くエレクトロニカのミニマル系アーティストにも多大な影響を与えている。僕は彼のようになりたい。
Gillie Amma I Love You / Four Tet
こういった曲が現代的な発展系の成功例でしょう。彼の音楽性の幅ではアンビエント色が強い楽曲。最小限のメロディーをグルーブさせるスタイルは世界的にも人気がある。
Petals / BIbio
時代の空気をつかみ、彼の音楽は予想以上の成功を収めた。静かな才能が成熟に向かっている。メロー・ビーツは今後の世界に長く留まる大きな流れとなるはず。
Blue Bicycle / Hauschka
ポスト・クラシカル方面ではこのような動きもある。プリペアド・ピアノによる実験的で穏やかな楽曲。生演奏によるエレクトロニカのトレースが斬新に響く良作。現代に必要とされているのは自意識の抑制と不快感のクリーニング。
Identify / Nonturn
「これぞ東京の音楽だ」と言い切れるような優れた音楽カルチャーがないように思える。しかしそれは憂うことでもない。地域性が希薄なインターネットの時代に生きているからだ。僕の場合は地域性自体を音楽にすることに興味があり、この曲ではフィールド・レコーディングによって東京のカルチャーを録音し、音楽へと変換している。
Recovery / Rival Consoles
こちらはピュアなエレクトロニクス、シンセ・サウンドの世界。好き嫌いはあるだろうが、この世界はかつてないほどの電子音にあふれており、人々はそれを受け入れている。時間があれば Eliane Radigue などの穏やかな電子音によるドローンを体験して欲しい。
Verbena Tea with Rebekah Raff / Teebs
グルーブと静けさの両立は、2010年代の適切な表現方法だ。心をかき乱すような音楽は望まれていなのだろう。ロックスターがギターソロを長々と弾く時代は終わった。むせび泣くようなブルーズの時代ももうこない。現在の労働階級はPCとターンテーブルを選ぶ。
Artifact 3 / Ryan Teague
ブリストルのアンビエント系バンド。自由な作風で多様な音響を奏でる。なぜだろうか? 彼らからは様々なイギリスの音楽の影響と文脈を感じる。
By This River / Serafina Steer
こちらは Serafina Steer がブライアン・イーノの初期ヴォーカルものをハープ一本で静かに歌う名演。オリジナルは本人が歌っているが、やはり子守唄は女性が歌うべきだ。しかし、アンビエント・ミュージックの提唱者であるイーノの作品はいつまでも色あせない。彼の普遍性に対する確かな感覚は多くの予言的な作品を創り出した。
Elmer and Elsie / mooor
アンビエント系ドローンは最後の答えだ。メロディーもグルーブも取り払った後に残るのは、テクスチャーとハーモニーが作り出す無限の風景。ドローンに備わる広大な空間は狭っ苦しい東京の住宅事情にも最適だと思う。僕はこの曲で眠りにつく。
PROFILE
Nonturn
幼少の頃より様々な音楽を学び続け、2004年にUKの Drum’n’Bass シーンでデビュー。その後、ドローンの神秘性に惹かれ、アートユニット mooor を結成し2010年に "Elmer and Elsie" をリリース。現在は、本名の Nozom Yoneda 名義で、映像メディアのサウンド・トラックの作曲を生業としながら、自発的な創作活動も精力的に行っている。
東京の壁面に見いだした9つのイメージを収めた自身の写真作品へのサウンドトラック “Territory” がイギリス、シェフィールドの Audiobulb Records よりリリースされた。
Nonturn – Identify (Official Music Video)
Nonturn – making of “Evidence”
Nonturn “Territory”
Audiobulb Records : AB077
Digital Download + limited CD
Release date : 2018 / 5 / 16
Information : www.audiobulb.com
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