昨年辺りから一般層をも巻き込む盛り上がりを見せているフリースタイルラップが今、日本のヒップホップシーンを大きく動かそうとしている。8月2日に東京、14日に大阪にて開催される「超ライブ×戦極MC BATTLE」もそんなムーブメントのひとつ。MCバトルイベント“戦極MC BATTLE”とKEN THE 390が主催するデイタイムイベント“超・ライブへの道”という、シーンを代表するイベントがコラボするのである。
そこで、東京公演のエキシビジョンMC BATTLEで激突する晋平太とKEN THE 390の2人に、このイベントの魅力やシーンの「今」と「これから」について存分に語ってもらった。
インタビュー・文=阿刀“DA”大志
フリースタイルラップの今。超ライブ×戦極MC BATTLEの意義
ーー最近のフリースタイルラップの盛り上がりについてお2人はどう感じてますか?
KEN THE 390 すごくうれしいですよ。ただ、いろんな人のもとにラップが届いてるのはいいことだと思うんですけど、これをきっかけにもっとヒップホップが聴かれるようになったり、ライブに来る人が増えるような仕掛けを増やしていって、せっかく入ってきてくれた人たちをもっと広い世界に連れていけたらいいなと思いますね。
晋平太 僕は日本全国を回って(MCバトルの)大会の司会をやっていますけど、どこの予選も盛り上がっているし、各地のラッパーがものすごく増えているんですよ。以前は参加者が集まらなかったりお客さんが全然入らなかったりしたけど、それても続けてきたことなので、今みたいに広がりが出てきていることは単純にすごくうれしいです。僕やKEN君がやり始めた十何年前も盛り上がっていたけど、今思うとあれは盛り上がってなかったんだなって思いますね。あっはっは!
KEN THE 390 たしかにそうだね(笑)。
晋平太 ……でも、MCバトルって言いたいことを言い合いますけど、僕ら大人でも「さすがにそれはなくない?」って気持ちになることもゼロじゃないじゃないですか。
KEN THE 390 たしかに。
晋平太 思春期にバトルをやって一生忘れられないキズを負わせ合ってもしょうがない。だからそういう部分は気になるけど、ラップを始める若い子が増えていることはすごくうれしいですね。
KEN THE 390 たしかにひどいことを言いすぎて忘れられないキズを負うこともあるかもしれないけど、それはそれでいいのかなって思っている自分もいて。出る側としては「そんな悪口は止めようよ」って思うけど、見る側としてはある程度攻撃してるほうが面白い。
晋平太 そうだよね。(そうじゃないと)盛り上がらないんだよな……。
KEN THE 390 あと、MCバトルって今は審査員制もあるけど、お客さんのハートを掴んだヤツが勝つっていうのが大原則としてある。ということは、理由もなく無茶苦茶にひどいことを言ったところで勝てるわけがないんですよ。お客さんもただひどいことを言う奴には声上げないんで。やっぱり、流れの中で上手いことを言うことが最大の攻撃だと思うし、“MCバトルで勝つってこういうことだよね”っていう美学が浸透していけばもっと良くなるかなと。
ーー単純な罵り合いじゃなく、ラッパーのスキルが上がったことも大きいんでしょうか。
KEN THE 390 10年前とは全然違います。日本のヒップホップ全体で見ても、ある程度完成されたものを聴いて入ってきた人はその上を行くし、それを聴いた新しい人たちがまたさらにその上を越えていくっていうことの繰り返しなんで、今の若い子はめちゃくちゃ上手い。
ーースキルの向上はどの時期から感じてましたか?
晋平太 R-指定以降じゃないですか? 僕はぶっちゃけ、R-指定を見て自分をアップデートしましたから。あと、あからさまに上手くなっていったのは高校生ラップ以降。今の子たちは…もう訳が分からないくらい上手くて、音の取り方とかすごく優れていますね。
ーー今後もまだまだ進化しそうですね。
2人 そう思いますよ。
晋平太 10年に一人の天才っていうのも絶対にいるはずだけど、次の世代ではまだ見つけられてないんで、そういうヤツが出てきたら相当面白いんじゃないかと思いますね。
KEN THE 390 多分、信じらんねぇような奴が出てくると思う。「なんでそんなこと出来ちゃうんだ!?」みたいな。
晋平太 7オクターブでる奴とか(笑)。
KEN THE 390 あはは! 全然あり得るね! 何が出てくるか分からないよね!
ーーそんな空前の盛り上がりを見せている中、超ライブ×戦極MC BATTLE presented by Dreamusicが8月に東京と大阪で開催されます。これはどういった内容になるんでしょうか?
KEN THE 390 戦極MC BATTLEと僕が主宰する超ライブが一緒にやるイベントです。戦極はMCバトル専門のイベントなんですけど、どっちかというとエンターテイメントに特化していて、最初から強いMCを推薦枠として何名か招待していて、そこに予選を勝ち上がったMCが加わるっていう、スタープレーヤーのオールスター戦みたいな感じなんですよ。僕がやってる超ライブというのは、ヒップホップのライブをデイタイムにやりましょうっていうイベント。なので、今回の超ライブ×戦極MC BATTLEではMCバトルもあるし、質の高いライブをデイタイムに観ることができるんです。
ーーデイタイムに、というのは若い子でも遊びに来られるように?
KEN THE 390 そうですね。そういうイベントって昔はなかったし、特に今はMCバトルが好きな若い子が多くて、逆にライブが好きな子たちもいるから、両者にとって発見があるようなものになったらいいよねっていうのが基本コンセプトです。
ーー今回の出演者の中でお2人が気になっている若手は?
晋平太 みんな気になるけど……誰だろうなぁ……沖縄の琉球ファンクは面白いですね。
KEN THE 390 僕はMAKA。MAKAとSAMの栃木コンビは良いですね。MAKAくんはラガスタイルで年末の戦極で初めて観たんですけど、「こんなにすごいヤツがいるんだ!」って久しぶりに思ったんで、そういう突如出てきたニューカマーがどこまでいくのか楽しみですね。
晋平太 (出演者一覧を見ながら)……あ、MIRIも出るんだ!
KEN THE 390 現役アイドルがシードになっているっていう。恐ろしい時代だよね!
晋平太 そうっすよね! MIRIはアイドルだけど、現場感で言ったらこの中の誰よりも場数踏んでるからね。ライブの数で言ったら俺らも負けるんじゃないかってぐらいやってるコなんで、勝つ可能性も大いにありますね。
KEN THE 390 彼女は勇気あると思いますよ。何言われるか分からないのにMCバトルに出てくるわけだから、一番リスク背負ってると思います。だから面白いっていうのはありますね。
ーーそんなところも戦極ならではなんですかね。
晋平太 戦極というよりも、MC正社員(戦極MC BATTLEの主催者)がマニアなんですよ。
KEN THE 390 正社員くんのMCバトルへの愛と知識が本当にヤバいんですよ。
晋平太 僕は出る側のマニアですけど、彼は観る側のマニア。
KEN THE 390 名勝負のパンチラインなんて全部頭の中に入ってるからね。前に彼と2人で審査員をやった大会があって、バトルビートが流れて、僕が「これはMOPの“ANTE UP”だね」って言うんですけど、正社員くんは「いや、戦極第何章の誰々と誰々の試合のビートですよ」って言うんですよ(笑)。
晋平太 違ぇよ!(笑)。
KEN THE 390 「あってるけど違ぇよ!」っていう(笑)。彼は全部そんな感じなんですよ。
晋平太 「自分のパンチライン覚えてないんですか!?」「覚えてねぇよ! フリースタイルだよ!」みたいな(笑)。
KEN THE 390 そんな知識量の中から“この人たちが出たら面白い!”と思って彼は選んでる。
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