INNOSENT in FORMAL のミクスチャーとは?
『ミクスチャーロック10選!新世代のおすすめバンドまとめ』や『2018年注目の若手バンド10選!カッコ良いバンド豊作の年』など、ミーティアでは「なんか気になるぞ……」という感じで少しずつ紹介してきたバンド、INNOSENT in FORMAL(イノセント・イン・フォーマル)。
デビューシングル『One for You』は、配信されると同時にSpotifyのバイラルチャートで上位にラインクイン。アレンジを担当しているササノマリイによるメロウなサウンドが特徴で、懐かしさと新しさを同時に感じさせる楽曲だった。
そして4月25日には1stミニアルバム『INNOSENT 0 ~The night late show~』をリリース。収録曲を聴いてみると、『One for You』のイメージを良い意味で裏切る楽曲が多々おさめられていた。どうやら、INNOSENT in FORMALというバンドは、あらゆる意味において「ミクスチャー」なバンドらしい。そこで、もう少しだけINNOSENT in FORMALの魅力を深掘りしてみる。
ラップ、グッドミュージック、ガレージロック
(INNOSENT in FORMAL『Footloose』MV)
たとえば『Footloose』は、ザクザクとしたエレキギターが耳に残るミクスチャー・ロックだが、注目したいのはラップの部分。ぽおるすみす(Vo.)によるラップは、いわゆるミクスチャーバンドのラップにしては相当な“こなれ感”がある。フロウはスムースで、しかも声質がラッパーのSALUに似ている。『One for You』の歌い方とはまったく違う。
この曲、アレンジャーはチャンス・ザ・ラッパーなどに楽曲提供をしているラッパー兼プロデューサーのBrandon DeShay a.k.a. Ace Hashimotoがつとめている。Brandon DeShayと言えば、Odd Futureの元メンバーでもある。ヒップホップ好きなら誰でも知っているOdd Future、正式名称『Odd Future Wolf Gang Kill Them All』は2007年に結成されたオルタナティブ・ヒップホップ集団。タイラー・ザ・クリエイターをリーダーとし、フランク・オーシャン、シド・ザ・キッド、ホッジー・ビーツなど、世界のヒップホップやR&Bを牽引するメンバーが集まっている。派生グループにはジ・インターネットやメロウハイプなどがあり、世界的に人気が高い。
つまり何が言いたいかというと、現在のポップ・ミュージックの最先端にいる人間がINNOSENT in FORMALの楽曲づくりにかかわっているということだ。そしてINNOSENT in FORMALには、最先端の人間を引き込むだけの魅力と実力が備わっているらしいということ。『Footloose』のラップには、そうした彼らの可能性が象徴的に表れている。
また、『Night Cruising』からは『Footloose』とは打って変わった都会的ポップ・ミュージックのセンスも見える。
ナイトクルージングと言えばFishmansの曲が有名だが、INNOSENT in FORMALのナイトクルージングも都会の夜がよく似合う。Fishmans、キリンジといった系譜に連なりそうなグッドミュージックで、クラブDJに好まれそうな気がする。
また、『Sex, Drug&Rock’n Roll』では硬派なロックバンドらしさも見せる。
疾走感とざらつきのあるギターやヴォーカルは、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTを彷彿とさせる。案外、INNOSENT in FORMALの本質はこのへんのガレージロック、ロカビリーにあるのではないかという気がする。
このように、音楽的にはかなり多くの要素が「ミクスチャー」されており、曲ごとに受ける印象がまったく異なる。カートゥーンバンドだし、「もしかして中の人が全部違うんじゃないか?」と思ってしまうほど楽曲の幅が広い。何も知らない人にこれらの曲を聴かせたら、同じバンドによる楽曲だと気付かないかもしれない。
あらゆるジャンルのミクスチャー
INNOSENT in FORMALのコンセプトは「映画のスクリーンから飛び出してきたカートゥーンバンド」。二次元と三次元を行き来するメディアミックス的な展開は、Gollirazのような、現実風景とアニメキャラクターを合成した写真などでわかりやすく表現されている。
映画やアニメーションだけでなく、文章を使った方法でもメディアミックスも始めている。4月9日からはTwitterにて、バンドやメンバーの背景を小説形式にして描いた連載が始まり、数日ごとに更新されている。
【プロローグ01】
老いぼれながらも記憶力には自信があった。
少なくとも、この映画館で上映した作品に関しては。
しかし――……。「これで最後か……」
映画館の地下室で、老人は古びたフィルム缶の埃を払っては、段ボールに詰める作業をかれこれ数日繰り返している。
— innosent_novel (@innosent_novel) 2018年4月9日
Twitter小説(「ついのべ」とも呼ばれる)は2009年頃にインターネット上で生まれ、2010年代前半にインディー文芸界隈を中心に広まった。また、3.11の前後から、詩人が作品をTwitter上で発表することも増え、震災の6日後からTwitterにて発表された和合亮一の一連の詩作品は大きな話題となり、『詩の礫』として単行本化された(その後、フランスの文学賞なども受賞)。
TwitterノベルやTwitter詩は140文字という特殊な制限のなかでいかに言葉を紡ぐかという試みだったわけだが、INNOSENT in FORMALはこれをうまく使い、説明が必要な複雑な世界設定を表現する手段として利用している。INNOSENT in FORMALの小説が成功したら、彼ら以降のアーティストにとっては、自身の打ち出し方を考える際に良い先行モデルのひとつになるだろう。
このように、ビジュアルやコンセプト、音楽だけでなく、インディー文芸などへの目配せふくめ、あらゆる意味で「ミクスチャー」的な展開を体現しようとしているのがINNOSENT in FORMALというバンドの特徴と言えそうだ。
こうした一風変わった打ち出し方や楽曲、ライブでのパフォーマンスが話題を呼び、期待の若手として徐々に頭角を現しつつある。
PAELLASやmoumoon、FIVE NEW OLDらとともにINNOSENT in FORMALの『I wanna…』がAmazon Music Unlimitedキャンペーンソングに採用されたり、『J-WAVE & ROPPONGI HILLS present TOKYO M.A.P.S』のオープニングアクトにも抜擢されるなど、次世代アーティストの発掘に定評のある業界関係者などからの高評価が目立つ。また、FLOWのTAKE、ササノマリイ、THE PINBALLSの古川貴之なども絶賛のコメントを寄せている。
そうしたコメントが一般リスナーの側から聞かれるようになるのも、おそらく時間の問題だ。
(Amazon Music Unlimitedキャンペーンソング。INNOSENT in FORMAL『I wanna…』は0:55〜)
INNOSENT in FORMAL
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