高層ビルが立ち並び、数え切れないほどの人々が行き交う街、東京。多くのミュージシャンが「東京」をテーマにした曲を作り、多くの作家が「東京」を舞台にした物語を書いてきた。そんな「東京」という街について、東京都だけどいわゆる「東京」とは少し違う、不思議な魅力のある場所・八丈島で生まれ育ったメンバーを中心に結成された4ピースバンド・MONO NO AWAREの二人はどう考えるのだろう。池袋にある居酒屋〈八丈島〉で島の郷土料理を楽しみながら、玉置周啓(たまおき しゅうけい:Vo.)と加藤成順(かとう せいじゅん:Gt.)と一緒に「東京」という街について思いを巡らせてみた。
Interview & Text_Momoka Oba
Photography & Edit_Satoru Kanai
地元・八丈島で過ごした二人の青春
――まず、お二人の地元である八丈島について教えてください。海と山に囲まれていて珍しい動物などもいるというイメージなのですが、いったいどんな場所なんですか?
玉置 : (お店のポスターを指差して)まさにあんな感じです。国内外のいろんな植物が集まる〈八丈植物公園〉という公園があるんですけど、そこには漫画『がきデカ』のギャグで有名なキョンという小さな鹿や孔雀がいます。
――八丈島は海もきれいなんですよね。ウミガメに会えるって聞きました。
加藤 : でも、みんなが想像しているような島とはちょっと違うかも。ビーチも黒砂で大きな岩が多くて。沖縄のような南国のバカンスっていうよりも、もう少し野生的なイメージかもしれないですね。
――地元でのお気に入りの遊び場は?
玉置 : いつも小学校の校庭で遊んでました。
加藤 : 高校に入ってからは、夜までずーっとスーパー(マーケット)のベンチで喋ってたよね。
玉置 : 懐かしい(笑)。
――お二人は、住んでいたエリアも近かったんですか?
加藤 : いや、遠かったんですよ。正反対です。だから小学校と中学校は別々で、高校で初めて一緒になりました。
玉置 : 成順が住んでいたところは島の中で最も都会で、僕が住んでいたのは田舎の方です。
加藤 : 東京で例えると、僕が新宿で周啓は高尾山。
玉置 : 高校生の頃なんて、僕は学校のみんなから“山”って呼ばれてましたもん。
加藤 : そうそう(笑)。
――都心にもけっこう遊びに行ったりしていたんですか?
玉置 : 年に3、4回くらいは行ってました。
加藤 : 飛行機代も高いので、あまり気軽に行ける感じではなくて。ちょっとした旅行感覚でしたね。
――当時、東京への憧れはあったんですか?
玉置 : ありました。高校生になると島の全地区の子どもたちが一つの高校に集まるので、それ以上の出会いや刺激ってあまりないんですよ。地元の友達は大好きですけど、もっといろんな人に出会ってみたいという気持ちがありました。
加藤 : 僕はあまり(東京を)意識していませんでした。高校3年で進学について考えるようになって、やっと「大学に行ったら新しい友達に会えるかな」「彼女とかできるのかな」ってスーパーのベンチで話すようになって(笑)。それまでは島での生活をすごく楽しんでいましたね。
玉置 : 成順の言うとおり、憧れはあったものの、東京に対する反骨精神のようなものはあまりなかったかもしれないです。
加藤 : 当時の僕はインターネット大好きっ子だったので、友達と遊んだりネットでアニメを見たりして過ごす日々を十分楽しんでいたんです。周啓はずっと野球を頑張っていたし。みんなそれぞれ好きなものがあったから、島での生活を不満に思ってる子はいなかったんじゃないかな。
――二人は高校で出会って、わりとすぐに仲良くなったんですか?
加藤 : 仲は良かったんですけど、バンド活動はまだ始めていませんでした。高校1年の時に1回だけ、地元のお祭りで一緒にビジュアル系のコピーバンドをやったくらい(笑)。
玉置 : しかも、成順がギターボーカルで、僕はなぜかピンクのアフロのカツラを被ってキーボードを弾いて。今思うとヤバかったよね、あれ(笑)。野球部の仲間たちが交通整備のアルバイトをしている中、僕だけこっそりキーボードを担いで歩いて。気まずかったなぁ(笑)。
ミネラルたっぷりの「あしたばの天ぷら」630円。
――今の姿からは想像できないですね(笑)。お、あしたばの天ぷらが来ました。
玉置 : 八丈島ではそこら中に生えているので、道端でむしったのを持って帰って料理していました。
――独特の香りが爽やかで美味しいですね。
加藤 : うちの実家では、茹でたあしたばをくさやとマヨネーズで和えて食べることが多かったです。
島を離れて、それぞれ新しい環境へ
――本格的に一緒にバンド活動を始めたのは、高校を卒業してからなんですね。
玉置 : 成順は群馬、僕は東京の大学に通っていたんですけど、一緒にバンドをやるメンバーがなかなか見つからなかったんです。そんな時に成順が声をかけてくれて、僕の大学の同級生だった竹田綾子(Ba.)と柳澤豊(Dr.)を誘ってMONO NO AWAREを結成しました。
――新しい土地での生活はどうでしたか?
加藤 : 八丈島以外での生活は初めてだったので不安でしたが、意外とすぐに馴染めました。群馬は優しい人が多かったです。
玉置 : 島に住んでいた頃はいつも飛行機か船で来ていたので、船の港がある浜松町のビル群が僕にとっての東京のイメージだったんですよ。でも、通っていた大学は巣鴨の方にあって。だから初めて大学の近くまで行った時は、「あれ……? 浜松町と全然違うぞ」って(笑)。正直びっくりしましたが、だんだんと愛着が湧きましたね。住んでいるうちに、自分もその街の人になっていくというか。
「ムロアジのくさや」650円。
――たしかに、暮らしていると街への愛着が湧きますよね。……初めてくさやを食べたんですけど、イメージと違って全然臭くないんですね! 旨味がまろやか。八丈島では普段から食卓に出てくるものなんですか?
玉置 : うちは焼いたくさやを酢漬けして食べることが多かったかな。
加藤 : 僕はマヨネーズをつけて食べる派。
玉置 : トビウオのくさやもメジャーなんですが、ムロアジは脂がのっててお酒によく合いますよ。あー、懐かしい匂いがする。
――食べ物の匂いで地元を思い出すってなんだか素敵ですね。
玉置 : 僕、なぜかキュウリの匂いを嗅ぐと八丈島を思い出すんですよ。実家で野菜を育ててたからかなぁ。
加藤 : えー、それいいなぁ。
MONO NO AWAREが歌う「東京」とは
――「東京」をテーマにした曲って本当にたくさんあるじゃないですか。八丈島にいた頃は、そういう曲をどんな気持ちで聴いていましたか?
加藤 : 当時はあまり、自分に重ねて意識していませんでした。
玉置 : 上京してからの方がそういう曲の歌詞がわかるようになったかもしれないです。みんな地元を離れてから寂しい気持ちが芽生えて、東京について歌うのかなと思って。
――自分たちも東京をテーマにした曲を作ってみたいという気持ちはありますか?
玉置 : 実は、今ちょうど作っているところなんです。タイトルもまさに『東京』で。この曲の歌詞を考えている時に思ったんですけど、音楽に限らず、東京をテーマにしているものってだいたい東京ではなく故郷のことを語っているんですよね。でも、僕はホームシックになったことが一度もなくて、今も当たり前のように東京で生活をしているんです。キュウリの匂いで八丈島を思い出したり、生活の随所に故郷を想う瞬間はあるんですけど、島に帰ったからって何かが満たされるわけではないんです。例えば、小さい頃によく遊んでいた海に久しぶりに行ってもまったく感動しなかったり。ちょっと寂しい言い方ですけど、今はもう東京が故郷になりつつあるというか。
加藤 : 僕も、最近は八丈島に帰っても何もすることがなくて。本当にすごく良い島なんですけど、きっと今の自分たちが欲してる場所ではないんですよね。
玉置 : 同じ大学の大先輩である坂口安吾という作家の本に「故郷に帰るのが私たちの仕事ではないのだ」みたいなことが書いてあったんですけど、それがすごく心に残っていて。まさにそういうことだと思うんです。
――故郷という場所そのものよりも、家族や友人など、会いたい人がいる場所が私たちの故郷なのかもしれないですね。
玉置 : そうなんです。いま地元に帰っても、あの頃と同じ景色や同じ気持ちは決して味わえなくて。でも、地元の人たちはいつも温かい気持ちで迎えてくれる。それって、東京も同じなんじゃないかと思うんです。東京で新しい友達ができると、新たな居場所ができていくじゃないですか。それが自分にとっての故郷になるんじゃないかなって。
加藤 : 上京して数年経って、東京が第二の故郷になりつつあるってことなのかな。
玉置 : そうそう。東京で迎えてくれる友達ができたから、次の場所に移住したいって気持ちさえある。今はまだそんな余裕ないですけど、瀬戸内海の方とか石川県とか良さそうですよね。そうやってどんどん故郷が増えていったらいいなぁって思います。
「島寿司」1人前650円(写真は2人前)
――お待ちかね、島寿司の登場です。これは普通のお寿司とは何か違うんですか?
玉置 : ネタに味が付いていて、わさびじゃなくてからしが塗ってあるんです。
加藤 : これも八丈島では日常的に食べるメニューです。美味い!
――お腹も満たされたところで、最後に、お二人の思う「東京」の魅力を教えてください。
加藤 : とにかくたくさん人がいるから、何事もすぐ行動できるところ。たとえば何かを作りたいって思った時も、すぐ誰かに相談して一緒に考えられるし。実現までのスピードが早いですよね。
玉置 : 東京でできた友達って、実は地方で育った人が多くて。いろんな場所から来た人が集まって「東京」という街が出来上がっているじゃないですか。そういう、多種多様な人が生活しているところが、東京の良さだと思います。街自体にいろんな可能性がありますよね。
居酒屋〈八丈島〉
池袋駅西口から徒歩2分。八丈島産の新鮮なあしたばの天ぷらや島寿しなどの郷土料理を楽しめる。八丈島限定の「情け嶋」や「八丈鬼ごろし」といった焼酎や、あしたばビールなど他では味わえないお酒も揃う。
住所:東京都豊島区西池袋1-22-4 錦山園ビル1F
電話番号:03-5391-5810
営業時間:10:00〜翌3:00(日曜のみ23:00まで)/無休
八丈島 webサイト
MONO NO AWARE webサイト
MONO NO AWARE Twitter
玉置周啓 Twitter
加藤成順 Twitter
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