ストリート×ゲーム音楽。歪な進化を遂げた僕らのDNA
<RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2017>が10月22日(日)〜11月17日(金)まで開催されていました。レッドブルが日本の音楽に”翼をさずける”をテーマに、都内各所で様々な音楽イベントを実施。最終日にあたる11月17日に開催された『Diggin’ In The Carts』もそのひとつ。その名の通り、タイトルには「Carts(ゲームカセット)をDigる(掘り探す)」という意味が込められています。つまり、このイベントの主役はゲーム音楽。”Diggin”とは元々ヒップホップ界隈で使われるフレーズですけれども、それがなぜゲーム音楽に使われるのでしょうか?
Kokiri Forest – The Legend of Zelda: Ocarina of Time
ゲーム音楽について、みなさんはどんなイメージを持っていますか?やや閉鎖的でマニアックな印象?
言うまでもないですが、ゲーム音楽が最も鳴っていたのはベッドルーム(あるいはリビング)でしょう。そもそも鳴らされる場所がクローズな空間だったわけです。ほとんどの場合、ゲーム音楽と自分が一対一の関係にあった。
ところが、ここ最近はそれがストリートやフロアに流れてきている。フライング・ロータスやサンダーキャット、ポーター・ロビンソンなど、ゲーム音楽からの影響を公言するダンスミュージック系のアーティストが増えました。しかもきっちり自分たちの音楽に反映させています。サンダーキャットに至っては任天堂の前社長・山内溥氏が亡くなった2013年、同氏に捧げる曲を書きました。
Thundercat – 『Bowzer’s Ballad』
余談ですが、”Bowzer”は”Bowser”をもじったもの。”Bowser”とは「スーパーマリオシリーズ」の宿敵キャラ、クッパのことを指します。
さて長くなりましたが、現状を簡単に整理すると、かつてクローズなタイプのサウンドであったゲーム音楽が、現在は海を越えてクラブシーンの本流へと合流したということですね。で、それをドキュメンタリーとして映し出したのが『Diggin’ In The Carts』です。
Diggin’ In The Carts – Series Trailer(日本語字幕設定可)
今回の『Diggin’ In The Carts』は、このドキュメンタリーをイベント化したものです。会場は恵比寿のリキッドルーム。かつて極めてパーソナルな空間で鳴っていたゲームミュージックが、テクノやブレイクビーツとして再構成され、エッジーな街で鳴り響く2017年。
真夜中のリキッドルーム、そこは大いなるゲームの世界。
今まで何度もリキッドルームのオールナイトイベントには来ています。記憶に新しいところではセオ・パリッシュのロングセットやタイラー・ザ・クリエイターの来日公演ですね。『Diggin’ In The Carts』の客層は、その二つのイベントとは少々異なっておりました。様々な文化圏から様々な人種のオーディエンスがフロアを埋める。この歪な集合体の在り様が大変現代的で、筆者にはすこぶる刺激的に見えたのでした。
もうひとつ特筆すべき点があるとすれば、外国から来たオーディエンスの多さでしょうか。会場を埋めた3割~4割は外国人だったのではと思います。そして彼らはどう見てもヒップ。洗練されたファッションに身を包み、Chip Tanaka(a.k.a 田中宏和)へ声援を送る。今でもカルト的人気を誇るRPG『マザー』の音楽を生んだアーティストがクラブ・シーンでも歓迎されていることが窺えます。
Chip Tanaka – 『Beaver』
出番終わりには「田中コール」まで起きるほど、オーディエンスを熱狂へと誘っておりました。
佐藤理率いるTeam LSDに至っては、もう完全にキメにかかってましたね。同氏がプロデュースしたプレイステーション用ゲーム『LSD』は、その名のごとくサイケな世界観を持っていますが、まさしく今回それがフロアで展開されたのです。
Osamu Sato – 『Blues tube』
ちなみにこのゲーム、発売当初は帯に「こんなのゲームじゃない」と書かれていました。いやはや、目くるめく『LSD』小旅行。確かにゲームの域を超え、オーディエンスを遥か彼方へトリップさせます。
そしてその数分後、<Hyperdub Records>主宰Kode 9にまた別の世界へ飛ばされることに。今回のイベントではアニメ作家の森本晃司タッグを組んだパフォーマンスが披露されたのですが、まさに『Diggin’ In The Carts』仕様。森本氏が手掛けたアニメ映像をバックに、Kode 9が下腹部に重く響くベース音を轟かせます。『老人Z』に『スチームボーイ』、『鉄コン筋クリート』、さらには『音響生命体ノイズマン』まで、実に多くの森本作品が顔を覗かせておりました。筆者はどれも大好きですけれども、この日のパフォーマンスではそれぞれがまるで知らない表情を見せていたのです。日本を代表するゲームミュージック・コンポーザー、古代祐三による『Temple(Actraiser)』がかかった瞬間はなぜか泣きそうになってしまいました。
続いて登場したのは、まさしくその古代祐三と川島基宏。この二人は、ゲーム音楽の定義を変えたと言っても過言ではない『ベア・ナックルシリーズ』のサウンドトラックを手掛けました。ゲーム音楽にヒップホップのビート感、トランスやデトロイト・テクノの要素を放り込んできたのはこの二人が初めてではないでしょうか。例えばこの曲。
Streets Of Rage 2 Soundtrack – Stage 1-1
アンダーグラウンド・レジスタンスやロバート・フッド好きは漏れなくハマるのではと。音楽目当てにこのゲームを買った人が続出するのも頷けます。めちゃくちゃカッコいいですもん。
今回のライブでは、そんな『ベアナックル・シリーズ』をなぞるようなパフォーマンスが展開されました。一作目のオーガニックなブレイクビーツ感から、徐々にテンポアップしてゆき、硬い質感のデトロイト・テクノへ。現在二人は世界ツアー中とのことですが、今後も単独公演などあればぜひ行きたいです。
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