名古屋を拠点に活動し、若者を中心に圧倒的な人気を誇るクアイフ(Qaijff)が11月29日にシングル『愛を教えてくれた君へ』でメジャーデビューを果たす。本作はTVアニメ『いぬやしき』エンディングテーマにも起用され、すでに各所で話題を呼んでいる。そこで、やる気みなぎるクアイフの3人に新曲のことからメジャーデビューへの思い、各人のパーソナリティを表すアイテム、そしてクアイフにとって重要な“サッカー”のことなど、様々な話を聞いた。
Photography_Kenya Chiba
Interview&Text_Sotaro Yamada
Edit_Satoru Kanai
(クアイフ『愛を教えてくれた君へ』MV)
クアイフ:
森彩乃(もりあやの:Vo./Key.)、内田旭彦(うちだあきひこ:Ba./Cho./Prog.)、三輪幸宏(みわゆきひろ:Dr.)からなる“絶対的、鍵盤系ドラマチックポップバンド”。2012年3月、音大クラシックピアノ科出身で数々のピアノコンクール受賞歴を持つ森彩乃を中心に結成。
――ついにメジャーデビューですが、率直にいまどんな気持ちですか?
森 : いよいよなので、本当に身が引き締まります。気合い十分です!
内田 : 良い意味での緊張や責任を感じていて、充実してますね。
三輪 : メジャーデビューを発表したのが去年の12月で、CDを出すのが今年の11月。ファンの方には「大変お待たせいたしました!」という気持ちです。自分としては割とすぐだったんですけど、みんなからしたらムズムズする期間だったと思いますね。
――以前あるインタビューで「バンドはメジャーでやっていけるのか?」というような話をされていたのがとても印象的でした。その問題意識に変化はありましたか?
内田 : 基本的にベクトルは変わっていないです。ただ、考えが深まった1年ではありました。以前は「コアな音楽ファンに評価されたい」という気持ちで音楽を作っていたんです。でも、自分たちが思い描いている理想といまやっている音楽が微妙にリンクしてないんじゃないか? ということに気付いたんですよね。きっかけは名古屋グランパスのサポートソングを担当させてもらったことだと思います。
(『Don’t Stop The Music』は名古屋グランパスのオフィシャルサポートソングとして書き下ろされた曲)
理想としたものに近付くためには何をしなければいけないのか。そう考えると、「これも良くしなきゃいけない」「あれも変えていかなきゃいけない」そんなふうに改善点が見えて、歌詞やメロディの作り方、ライブのやり方が変わってきました。
『愛を教えてくれた君へ』と『いぬやしき』のこと
――『愛を教えてくれた君へ』は悲しい曲ですよね。なぜ、こんなに悲しい曲をメジャー1発目に持ってきたんでしょうか?
内田 : 今回はTVアニメ『いぬやしき』のお話をいただいて書き下ろしたんですね。原作の漫画は読んでいたので、そこから感じたものを曲にしようと。この『いぬやしき』というアニメは、58歳の犬屋敷壱郎さんがロボットになってしまって、自分の存在意義を自問しながらいろんな人を助けていくというストーリーで、ジャンルとしてはSFアニメですよね。でも、誰にでもある当たり前の喜びや醜さを日常的なメッセージとして伝えているアニメだと思うんです。だから『愛を教えてくれた君へ』という曲も、ただ単に「誰かに会いたい」というだけのハッピーな曲にするのは違うなと思いました。たとえば1サビには「今の日々を愛さないで そこにぼくはいないんだよ」という歌詞があります。人間の汚さというか、本音の部分を隠さずに出したいと思ったので、こういう曲になりました。
(『いぬやしき』は、『GANTZ』などの奥浩哉による漫画を原作としたアニメ。こちらはアニメ予告編)
――確かに、この曲は漫画のラストまで読んでから聴くとすごく腹に落ちるし、よりエモーショナルに感じられます。
内田 : それと、曲を書いていたときにぼくは祖父を亡くしているので、自分の生活が『いぬやしき』という作品とリンクした部分もあったと思います。『いぬやしき』のための曲ではあるけど、自分ともリンクしたのでいい距離感でつくれました。
――書き下ろしで作品をつくるとき、その対象と自分たちとのあいだで、なにか齟齬のようなものができることはありませんか?
内田 : いままでは、音楽に限らず日常生活でも「自分たち=自分たちが思っていること」だと思っていたんです。でも「自分たちが思っていること」は、環境が変われば変わったり、迷ったりするものですよね。ということは、自分の周りにいる人や物こそが、自分たちを写し出す鏡みたいなものなんじゃないかって思うようになったんです。正解はいつも自分たちの中にあると思っていたけど、答えは周りにもあるんじゃないか――。そう考えることで曲の作り方や距離感が変わってきて、齟齬のようなものはほとんどなくなりました。
――何がきっかけでそう思えるようになったんでしょうか?
内田 : クアイフに関わってくれる人が増えて、周りの人に助けられることが多くなったからだと思います。自然にいろんなことが見えてきて、そういう考えになりました。周りにいる人が自分を写し出す鏡だということで言えば、このメンバーに出会って音楽をやってることも偶然のようで必然性があって、それは運命なんだと思います。
「こんなに苦しくて悲しいことなのに、誰にでも起こるのは不思議」(内田)
――クアイフの曲にはすごくポップで前向きな曲が多いと感じます。でもよく聴くと、ただの一本調子な前向きソングというのはひとつもなくて、痛みや悲しみが根底にありますよね。すごく深いところにもぐってから浮上して来たイメージです。そこで聞きたいんですが、これまでの人生でもっともつらかった経験って何でしたか?
内田 : さっきの話とかぶるんですけど、やはり家族の死ですね。父方と母方の祖父を2年連続で亡くしていて。いざ直面してみると、これ以上自分の気持ちに対してどうしようもないことって他にないというか……。人を本当の意味で失うというときが一番つらいと思いました。でも、こんなに苦しくて悲しいことなのに、誰にでも起こるっていうのは不思議な気もしますよね。誰かと一緒に生きている限り、みんな経験することじゃないですか。誰にでもあるんだって思えるからこそ、浮上してこられるのかもしれないです。
三輪 : ぼくは14年間一緒に住んでいた犬が死んだときは……嗚咽が止まらなくなりました。あのときは悲しくてたまらんかったですね。
森 : いま、この質問をされて考えてたんですけど、わたしは「一番つらかったのはこれ!」っていうのがないんです。だからといってめちゃくちゃハッピーな人生だったかといえばそうでもなくて。人って、ささいなことでもめちゃくちゃ落ち込んだりしますよね。仕事の失敗でズドーンと落ち込んだり、失恋ですごいダメージを食らったり。「死」に比べれば些細なことに感じられるかもしれないけど、そうじゃないよなって思うんです。そのふたつの重みは比べられるものではない。その時々でみんな必死で本気で悩んで、心からつらい気持ちになってるわけですよね。だから、自分のそういう気持ちを思い出して曲を書いたり、歌を歌ったりしています。
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