DATS、DYGL、The fin.の3組が提示した「明るい未来」
7月24日、恵比寿のリキッドルームにて。
ここが日本であることを忘れるほど、外の空気を思い切り吸い込んだサウンドを鳴らすバンドが集まりました。ともすれば「音楽の画一化」だとか、「洋楽の後追い」なんて言葉で揶揄されるかもしれないけれど、それは彼らの音楽をちゃんと聴いていない人の言い分だと思います。彼らは「邦楽」という局地的な見方には、おおよそ収まりきらない。間違いなく、もっと広い意味で音楽の未来を担える存在です。
そして何より特筆すべきなのは、オーディエンスも彼らが鳴らす音に応えていたこと。パンパンに埋まったリキッドルームがその証左です。彼らが指し示す未来を、多くの人が歓迎していました。外向的なサウンドを鳴らせるアーティストが登場しただけでなく、それを歓待する人たちが現れた。閉塞感が漂っていた日本の音楽シーンにおいて、これほど明るい未来を感じさせる事実はないと思うのです。
Photography_Toyonaga Takuma
Text_Kawasaki Yuki
Edit_司馬ゆいか
最新作『Application』リリース以降のDATS
6月に『Application』がリリースされてから、DATSのサウンドはさらに迫力を増しているように思います。彼らは度々「ロックバンド」であることを自称しているのですが、このダイナミズムはまさしくロック文脈のものでしょう。マシーン・サウンドを多用しながらも、果てしなく肉体的。一発目の『Amazon』はその典型ですね。ループする音源と、人力による音の割合が均衡しています。『Mobile』でセンセーショナルに登場した頃から、また一歩先へ進んだ印象を受けます。
DATS – 『Mobile』
「一歩進んだ」どころでない進化をしているのが、ドラム担当の大井一彌。『Netflicks』で手数の多いテクニカルなドラミングを見せたかと思えば、『Queen』では繊細な見た目に反したパワーヒッターぶりを披露しておりました。元々技術の高いドラマーだとは思っていましたが、ここへ来て加速度的に実力を伸ばしています。
大井一彌(Dr.)
杉本亘(Vo.)
早川知輝(Gt.)
伊原卓哉(Ba.)
DATS – 『Queen』
DATSと筆者は同世代なのですが、音楽の接し方にシンパシーを感じるのです。「ジャンルの並列化」とでも言えば良いのか、僕らは特定のジャンルに依存せずに育ちました。そんな感覚が作用してか、DATSはラッパーを登用しても違和感のない曲を作れます。この日のライブでも、『Filter』でヒップホップクルーの『DOS MONOS』を客演に呼び、オーディエンスを沸かせておりました。
締めの一曲はやはり『Candy girl(Remix)』。この曲は『Application』には収録されておらず、ライブで演奏される度にアレンジが異なります。オリジナルはレーベルを移籍する前に作られた楽曲ですから、彼らの原点のようなものなのでしょう。そしてそれを演奏することは、自分たちの現在地を確認する行為でもある。そんな気がします。「俺ら、もっとでかくなって必ずこのステージに戻ってきます」と彼らが語る通り、「そのとき」になれば改めてカタチになるかもしれませんね。
DATS – 『Candy girl』
DYGLが鳴らす「僕らの」ロックサウンド
筆者は高校生の頃、茨城の片田舎で狂ったようにUKロックを聴いていました。アークティック・モンキーズ、フランツ・フェルディナンド、ザ・フラテリス、リバティーンズ、トラヴィス…。誰かとシェアするわけでもなく、ただ粛々と聴き込んでいたのです。当時は無自覚でしたが、今思い返すと欲求不満だったかもしれません。アークティック・モンキーズを観に日本武道館まで一緒に行ってくれる友達はいませんでした。
そんな過去の鬱屈を粉々に吹き飛ばしてくれたのがDYGL(デイグロー)です。今挙げたバンドの音、全て鳴っています。
DYGL – 『Let It Sway』
彼らのライブ中は何だか、独りでUKロックを聴いていたあの頃を肯定されているような気分でした。『Take It Away』も『Let It Sway』も、僕のような人間はDNAレベルで反応してしまうサウンドです。しかもそれが寸分違わぬ精度。シンプルなギターのカッティングも、アンニュイで刹那的なヴォーカルも、まさしくあの頃僕らが聴いていた音楽なのでした。
Yotaro Kachi(Ba.)
Yosuke Shimonaka(Gt.)
Nobuki Akiyama(Vo.&Gt.)
Kohei Kamoto(Dr.)
DYGL – 『Let It Out』
小難しいことは何一つやっていません。彼らはワンフレーズでオーディエンスの耳をかっさらうことができます。偉大な先人たち、例えば先ほど挙げたUKのバンドは、たった一音にあらゆる雑感を乗せることができるのです。大げさでなく、DYGLはそれらのバンドに肩を並べることができると思いますね。
念願叶って武道館で観たアークティック・モンキーズと、この日リキッドルームで観たDYGL。何かが時を超え、繋がるような感覚がありました。
DYGL – 『Don’t Know Where It Is』
余裕に加え風格すら漂わせていたThe fin.
2014年にデビューして以来、傑作を連発しているThe fin.。今や海外のフェスでも引っ張りだこです。今度のフジロックに出演した翌日には、韓国で開催される『JISAN VALLEY ROCK FESTIVAL』に向かうのだとか。
そんな桁違いの場数を踏んでるだけあって、彼らには風格が漂っていました。飄々としているけれども、バンドの雰囲気に圧があります。
音楽面に至っては「盤石」の一言。ここまで安定したサウンドを鳴らせると、メンバーがそれぞれ人生2周目なのではと疑ってしまいます。彼らの音楽は聞き手のリテラシーも求められますが、それ以上にプレイヤーの技術が必要とされますね。感覚論で言うと、「やり過ぎてはいけない」。繊細ゆえに一音一音が絶妙なバランスで成り立っているのです。ヴォーカルにかかるエフェクトにもそれは言えます。楽器隊のどこが優れていると言うより、バンド全体が織り成す音のクオリティが高い。
Yuto Uchino(Vo.&Gt.)
Ryosuke Odagaki(Gt.)
Kaoru Nakazawa(Ba.)
何より凄いのは、彼らがこの調子をずっと維持し続けていること。この日のセットリストを思い返すと、過去作と最新作が均等な割合で結びついているのです。最新作の『Afterglow』から、デビュー作『Glowing Red On The Shore』に収録されている『Misty Forest』まで、過去と現在を自在に往来しておりました。中でも圧巻だったのは、『Night Time』。
The fin. – 『Night Time』
音源がかっこいいのはお分かりいただけるでしょう?では、次はライブに行ってみてください。この30倍ぐらい凄いです。この曲のライブバージョンは。
夢のスリーマンライブのラストを飾るのにふさわしい、圧巻の世界観を展開しておりました。終始夢の中にいるような、そんな感じ。実に、素敵な夢だった。
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