海外のアーティストが日本に来て公演を打つと、オープニングアクトとして日本人のアーティストが出演することが多々あります。しかしながら、それに対しては「前座」という言葉があてられ、必ずしもアーティストとしての立場がフラットでない場合もあります。「そもそも海外の音楽のほうがカルチャーとして進んでいるのだから、それはむしろ理にかなっているじゃないか」という反論が聞こえてきそうですが、果たしてその論は正しいのでしょうか?アーティストを人種や出自に拠らないフラットな目線で見たとき、日本国内にも海外で遜色なくやれそうなバンドやグループはいます。今回、Warpaint(ウォーペイント)の来日公演のゲストアクトを務めるyahyel(ヤイエル)は、紛れもなくそのうちの一つでしょう。
『New Song』 [yahyel cover] – Warpaint
先日、yahyelが発表したWarpaintのカバー音源です。これ、単なるカバーに留まっていない気がするのですが、どうでしょう? 不定形なビート、蠱惑的なフューチャーベース、随所に「yahyel節」が散りばめられています。何より、これをWarpaintの来日に合わせて公開できる度胸!もちろん、彼女たちへのリスペクトも込められているのでしょうが、同時にアーティストとしての矜持を感じます。彼らはまだ若く、手放しで絶賛することは避けたいのですが(というか現時点では彼ら自身が望んでなさそう)、少なくとも「前座」という言葉は不適格であるように思いますね。
『New Song』 [original] – Warpaint
前置きが長くなりました。この記事で強調したいのは、実は彼らの音楽的技術力ではありません。「日本のバンドもここまでやれるんだ!」という段階には、yahyelはもう居ないように思います。今回のWarpaintとの対バンツアーにおいては、特筆すべき点は他にあります。この記事では、そのことについて整理してみます。
Warpaintの自由な創造性
まずはWarpaintの音楽を紐解くことから始めます。筆者が彼女たちを知ったのは、セカンドアルバムの『Warpaint』がリリースされた2013年頃(恥ずかしながらファーストの『The Fool』はその後)。クラブカルチャーに育てられた筆者は、彼女たちの音楽を「ダンスミュージック」と解釈しました。が、その認識は即座に覆ります。2曲構成(『Disco//Very』 – 『Keep It Healthy』)のMVで、彼女たちのレンジの広さを知りました。前者はその名の通りダンサブルな4つ打ち、後者は楽器の細やかな音まで聞こえてきそうなほどライブ感が強いジャムサウンド。
『Disco//Very』 – 『Keep It Healthy』 – Warpaint
更に、All Musicなどの海外メディアは、本作を絶賛した上で「ドリーム・ポップ」と位置付けています。要するに、彼女たちの音楽は境界線が極めて曖昧なのです。それは決してネガティブな意味ではなく、時代性を考えれば彼女たちにはむしろ先見の明があったと言えるでしょう。その証左に、The Sign Magazine(以下、サインマグ)が2016年の年間ベストアルバム特集において、こう論じています。
2016年はブラック・ミュージックだけが素晴らしかったと単純に結論づけていい年ではない。ボン・イヴェールとカニエ・ウェストとチャンス・ザ・ラッパーとフランシス・アンド・ザ・ライツが共振し合い、ビヨンセがジェイムス・ブレイクやジャック・ホワイトをフックアップし、フランク・オーシャンがビートルズやエリオット・スミスを参照してみせたように、これまでは考えられなかったような点と点が有機的に繋がり、ジャンルの再編成がダイナミックに起こったのが2016年だ。
(出典:The Sign Magazine 2016年 年間ベスト・アルバム 75)
これ、Warpaintのジャンルレスな音楽性と見事に符合しますね。しかも『The Fool』がリリースされた2010年の時点で、彼女たちの雑食性は発露していました。ダブからの影響を色濃く感じさせる『Bees』、Joy Divisionを経由してサイケデリアへ昇華したような『Warpaint』、実に多様な楽曲群です。昨年リリースされた最新作の『Heads Up』は、よりダンスミュージックへの傾倒が感じられますが、やはりそのベクトルは様々な方面に向いています。音楽メディアのGigwiseは、本作を「アート・ロック」という枠組みで解釈しようとしました。抽象的で説明不足な呼称な気もしますが、彼女たちの音楽を全て通過した人にとっては、ともすれば最も腑に落ちる表現かもしれません。
yahyelは「宇宙人」
で、yahyelの話に戻ります。彼らのインタビューで度々言及される「匿名性」という概念、これが今回の記事における重要な要素です。そもそも彼らのバンド名が「宇宙人<yahyel>(ニューエイジ思想家のバシャールによる造語)」なのですから、出発点からして得体が知れないわけです。それは、彼らが「日本人」であることの制約から逃れようとしたことに起因します。以下、SPACE SHOWER NEWSによるインタビュー動画。
『YMO』っていうバンド名を見ても分かる通り、彼らは「黄色人種」として海外に出て、その枠組みを表現で突き抜けようとしたと思うんですよ。僕らも今この時代で同じことをやろうとしています。それぞれの人種が生きてゆく上で、「人間」としての違いなんて全くないですし、そこで(人種として)カテゴライズされてしまうのって変だなと思います。(中略)…まさしくそれは、僕らが「宇宙人」と名乗らなければならない「皮肉さ」に繋がってくる話で。
ここにWarpaintの創造性(延いてはサインマグの言う海外の音楽シーン)と共振するものを感じるのです。Warpaintは「アートロック」という手法でもって音楽を、yahyelは「宇宙人」という属性を自身に付与することで存在を抽象化しました。サインマグが指摘するように、ジャンルや人種の「曖昧さ」が2016年を席巻したのであれば、両者は極めて同時代的であると言えるのではないでしょうか。で、実はこれこそがこの記事で筆者が述べたかったことであります。「日本の音楽シーンは内向的である」という批判が、これまで数多くありました。yahyelの存在は、長らく提示されてきたその問いの答えになりうると思うのです。海外のトレンドを踏襲した例は、枚挙に暇がないほどあります。が、彼らほど本質的に、そしてリアルタイムに海外の音楽シーンと同期したアーティストは極々少数でしょう。
その意味では、USインディーの最先端をひた走るWarpaintとの対バンツアーは、一見の価値どころか、2017年のハイライトにもなる可能性すらあります。今回のツアー、確かに名目上は『WARPAINT – JAPAN TOUR 2017』なのですが、日本の音楽シーンにとっても示唆に富んだものになるでしょう。フェスに行く程度の充実感があるのではと思います。東京公演までもう間も無くですが、この二組の共演はまさしく「待望」でした。
■WARPAINT JAPAN TOUR 2017
OPEN/START:18:30/19:30
ADV/DOOR:¥6,300(税込・ドリンクチャージ別)
LINE UP:WARPAINT、yahyel
TICKET:チケットぴあ [315-091] ローソンチケット [73278] e+ 11/19 ON SALE
INFO:SMASH 03(3444)6751
■yahyel『Flesh and Blood』
国内盤CD BRC-530
release date: 2016/11/23 WED ON SALE
amazon: http://amzn.to/2dBcCcf
beatkart: http://shop.beatink.com/shopdetail/000000002109
tower records: http://tower.jp/item/4366338/
HMV: http://bit.ly/2dXngKF
iTunes: http://apple.co/2dx8RrM
国内盤LP BRLP-530
release date: 2017/03/03 FRI ON SALE
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商品詳細はこちら:
http://www.beatink.com/Labels/Beat-Records/yahyel/BRC-530/
■Warpaint『ヘッズ・アップ』
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